自己破産した友人からお金を返してもらうたった一つの方法

自己破産の手続きで裁判所から出される免責許可決定が確定すると、その申し立てを行った債務者の負担している債務(借金)の支払い義務が法的に免除されることになります。

この場合、その債務者にお金を貸していた債権者は、その債務者に対して返済を請求する法的な権限を失うことになりますから、それ以降一切、その自己破産で免責を受けた債務者に対して「お金を返せ!」と請求することができません。

この自己破産における理屈は、貸金業者や銀行のカードローンだけでなく一般の友人知人内でおこなわれるお金の貸し借りにおいても当然通用しますから、お金を貸した友人が自己破産してしまった場合には、その友人に対してその後一切「お金を返せ!」と請求することはできなくなります。

もっとも、だからといってその債権者がその貸したお金を「絶対に」「100%」返してもらえないかというと、決してそういうわけでもありません。

なぜなら、たった一つだけ、そのように自己破産の免責の対象とされ返してもらえなくなったお金を返済してもらう裏技的な方法が存在しているからです。

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自己破産が認められても借金が「チャラ」になるわけではない

自己破産した友人から貸したお金を返してもらう方法を考える前提として、一つだけ理解しておいてもらわなければならない点があります。

それは、自己破産で免責が出されたとしても、その免責決定によって借金(負債)自体が消えてなくなるわけではないという点です。

この点、弁護士や司法書士の中にも自己破産の免責を受ければ借金が「チャラになる」と理解している人がごく一部いるようですが、それは間違いです。

確かに、自己破産の手続きは借金の返済義務を免除してもらう手続きですので、裁判所に自己破産の申し立てを行って裁判所から免責を受け、その裁判所から出された免責許可決定が確定すれば、その自己破産の手続きが開始されるまでに生じた全ての負債(借金)の返済義務が免除されることになりますから、一見すると「借金がチャラ」になったのと同じ状態になるように思えるのかもしれません。

しかし、自己破産の手続きを定めた破産法の第253条1項では、「その責任を逃れる」と記載されているだけであって「債務が消滅する」とは規定されていないわけですから、自己破産で免責の対象とされるのは「負債を支払わなければならない」という「責任」であって「負債そのもの」ではないのです。

【破産法253条1項】
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。(但書省略)。

条文上は「その責任を逃れる」と記載されており「債務が消滅する」とは規定されていませんから、法的には免責が確定しても「借金を返済しなければならない」という「責任」から逃れられるだけであって「借金そのもの」が「消滅」したり「チャラ」になったりするわけではなく、その免責の対象となった「債務そのもの」は永遠に残り続けることになります。

このような「返済しなければならない責任はなくなるけれども負債としては残り続ける債務」のことは法律上「自然債務」と呼ばれますが、自己破産の免責を受けたとしてもその対象となる借金は「自然債務」として存続するのであって、ただ債権者から「お金を返せ!」と請求されることがなくなるだけにすぎないのです。

自然債務は債権者から請求できないだけで債務者が任意に返済するのは何ら差し支えない

このように、たとえ自己破産の免責が出されたとしても、その免責の対象とされた負債は「自然債務」として残り続けることになるわけですが、この「自然債務」の主な特徴は「債権者から請求できない」だけであって「債務者が任意に返済すること」は差し支えないという点です。

先ほども述べたように、債務者が自己破産して免責が確定すればそれまで負担した借金を「返済しなければならない」という責任が免除されますから、それ以降債権者はその免責の対象となった債務について一切「お金を返せ!」と請求することができなくなります。

しかし、その免責となった借金は「自然債務」に法的な性質が変化するだけであって「借金」としては永遠に存続することになりますから、債務者の方から任意に「返済しなくてもいいけどやっぱり返済します」と言って債権者に弁済することは何ら差し支えないのです。

もちろん、そうやって債務者が任意にその「自然債務」となった借金を返済すれば、その「自然債務」となった借金はその時点で消滅することになります。

自然債務として存在する限り任意に返してもらえる可能性はある

このように、たとえ自己破産の免責が出されたとしても、その免責の対象とされた負債は「自然債務」として残り続けることになりますが、債務者がその自由な意思で任意に弁済して債務を消滅させることはできますから、債務者が自己破産の免責を受けた後に債務者自らの自由な意思で「やっぱり返済します」といって返済することは何ら差し支えありません。

ですから、たとえばお金を貸した友人が自己破産で免責を受けたことによって貸したお金を返してもらえなくなった場合であっても、数年後にその友人が「あの時自己破産したけど今はお金ができたからあの時自己破産で免責を受けた借金を返すよ」と言って返済をしてきた場合は、そのお金を「自己破産で免責されて帰ってこなくなった貸付金の弁済」として受領することは法的にも同義的にも何ら問題ないことになります。

もちろん、そのようにかつて自己破産で免責を受けた債務者が「返さなくてもよい」性質の自然債務になった借金を自ら「あの時の借金を返します」といって返済する可能性はそれほど高くないかもしれません。

しかし、免責の対象になった借金が「自然債務」として永遠に残り続ける以上、その可能性がないとは言えませんので、可能性としてはゼロではないということが言えます。

▶ 自己破産で免責された借金を請求されてないのに返済できるか?

友人が出世するように手を貸してあげること

このように、自己破産の免責を受けた借金(債務)であっても「自然債務」としては存続し、債務者の側が任意の意思で返済することは妨げられないわけですから、お金を貸した友人が自己破産の免責を受けたとしても、その友人からその免責の対象となって返済が免除されたお金を返してもらうことができないわけではないということが言えます。

では、どのようにすればその自己破産の免責を受けた友人が「任意の自由な意思」によって「免責によって返さなくてもよくなった借金」を返してくれるようになるか、というと、それはもうその友人が出世してお金持ちになってくれるのを待つしかありません。

たとえ自己破産した人であっても、その後の人生の歩み方によっては億万長者になることも不可能ではありませんから、もし仮にその友人が自己破産後に億万長者とはいかなくてもそれなりに経済的な余裕のある生活が営めるようになった場合には、「自己破産したときは迷惑をかけたけど今はお金もできたから、あの時返せなかったお金を返すよ」と言って免責の対象となったお金を返してくれることもあるでしょう。

このように考えると、自己破産した友人からお金を返してもらう方法として一番有効なのは、その自己破産した友人が経済的に余裕ができるように、できる限りその友人を助けてあげるとうことになろうかと思います。

友人に手を貸すことでその友人に経済的余裕ができるにつれ、その友人が「自然債務」となった借金を「任意に自由な意思」で返済してくれる確率は高まるのですから、自己破産によって返済されなくなったお金を「どうしても返してもらいたい」と思うのであれば、その自己破産した友人に手を差し伸べてあげるのが、一番の近道になるといえるのです。

※ただしあくまでも手を差し伸べるだけであって口が裂けても「お金を返せ」と言ってはいけません。仮に自己破産で免責を受けた相手に「お金を返せ」と言ったり、そのような請求をするために会いに行ったりした場合は「破産者等に対する面会強請等の罪」として刑事責任を問われることもありますので注意しましょう。
▶ お金を貸した元カレが自己破産した後に会いに行くと逮捕される?

情けは人の為ならず…

以上で説明したように、自己破産で免責を受けた債務であっても理論的には「自然債務」として残り続けるわけであって債務者が自己破産後に任意に自由な意思で返済することは差し支えないわけですから、「どうしても返してもらいたい」と思うのであれば、自己破産した債務者に手を差し伸べて、その経済的再生を助けたうえで債務者からの「自発的な任意の支払いを待つ」というのが自己破産によって返してもらえなくなったお金を返してもらうたった一つの方法となります。

もちろん、これは理想論であって、経済的再生を助けた債務者が必ずしも自然債務となって返さなくてもよくなった借金を返してくれるという保証はありません。

(というか、たぶん返してもらえないと思います…)

しかし、古くから「情けは人の為ならず」という言葉も残されているわけですから、やってみる価値はゼロとも言えないのではないか、と思うわけです…。