お金を貸した元カレが自己破産した後に会いに行くと逮捕される?

高度経済成長期の日本で青春時代を過ごした世代に人にとっては、デート費用はすべて「男がおごる」のが当然の常識として認識されていたのかもしれません。

しかし、バブルがはじけ「失われた20年」が今なお続く現代の日本では、いくら政府が「デフレ脱却」を声高に叫ぼうと、労働者の生涯賃金がダダ下がりに下がり続けている現状が変わるわけがなく、「男がおごる」などという状況はもはや過去の伝説として語り継がれる昔話にすぎなくなってしまいました。

もちろん、男女平等の理念を実現させるため女性の賃金が上昇してきたことから相対的に男性の賃金が下がってきた面も否定できませんが、異次元の金融緩和政策によってインフレが加速しているにもかかわらず労働者の賃金が据え置かれているというスタグフレーション的社会状況では、もはや「男がおごる」などというストレンジな風習が再び呼び覚まされることはないといえるでしょう。

ところで、こういった賃金の上昇が見込めなくなった上に男女の賃金が平均化されてきた現代の日本では、恋人同士の間柄でも当然、その遊興費は「割り勘」が当たり前となってくるでしょうから、女性側の賃金が多いようなカップルの場合には「彼女側が彼氏側にお金を貸す」といったシチュエーションもごく普通に顕在化して来ることになのは避けられないと思われます。

もちろん、このような「恋人間のお金の貸し借り」自体は全く差し支えないのですが、問題はその二人が別れてしまった場合です。

付き合っている最中であれば貸しているお金を返してくれなくても特になんとも思わないかもしれませんが、いったん分かれてしまった場合には「あの時貸したお金を返して!」と請求したくなる気持ちが芽生えてしまうのは避けられないからです。

しかし、そのような場合であっても、仮に分かれた彼氏が自己破産してしまった場合には、口が裂けても「あの時貸したお金を返して!」などと言ってはいけません。

なぜなら、もしも元カレに会った際に「あの時貸したお金を返して!」などと口走ってしまった場合には、ただそれだけで逮捕され有罪判決を受けてしまう可能性もありうるからです。

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「破産者等に対する面会強請等の罪」とは?

なぜ「自己破産した元カレ」に対して「貸したお金を返して!」と言ってしまうと逮捕されるかというと、破産法という法律で、破産者に対して貸し付けていたお金を「弁済させ」たり、その破産者の家族などに「代わりに返せ」と求めたりすることを目的にして「面会や話し合い」をすることを求める行為自体が、「破産者等に対する面会強請等の罪」として処罰の対象とされているからです。

【破産法275条】

破産者(中略)又はその親族その他の者に破産債権(免責手続の終了後にあっては、免責されたものに限る。以下この条において同じ。)を弁済させ、又は破産債権につき破産者の親族その他の者に保証をさせる目的で、破産者又はその親族その他の者に対し、面会を強請し、又は強談威迫の行為をした者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

破産の手続きは裁判所から「免責」を受けることによってそれまで発生した債務(借金)の返済義務が法的に免除されることを意味しますから、自己破産の申し立てを行って裁判所から免責を受けた場合には、それまで借り入れたお金はすべて「返済しなくてよい」ことが確定することになります。

そうすると当然、その自己破産した人は債権者の側から「お金を返せ!」と請求される法的な理由はないことになるわけですから、自己破産して免責が認められた人を保護するために、債権者から「お金を返して!」と請求されること自体を制限する必要が生じるのです。

そこで定められたのがこの条文で、自己破産の申し立てが認められた場合には、債権者が破産者に対して「お金を返せ!」と請求したり、その破産者の親族に対して「代わりに返せ!」と請求するために、その破産者に「面会や話し合い」を求めること自体を「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」という刑罰をもって禁止することにしているのです。

ですから、もし仮に「元カレ」にお金を貸している場合であっても、その元カレと別れた後にその元カレが自己破産してしまった場合には、その元カレに対して「お金を返して!」と請求することはできませんし、その元カレに会いに行った際に「お金を返して!」などと口走ってはならないことになります。

もしもそういう行動をとってしまって元カレやその親族から警察に被害届を提出されてしまった場合には、逮捕されて有罪判決が出されてしまうと「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」に処せられてしまう可能性も否定できないからです。

元カレに会えば「お金を返して!」と言いたくなるのが人情

「元カレに会うだけだったら別にいいんじゃないの?」「お金を返して!って言わなきゃ問題ないんじゃないの?」と思うかもしれませんが、そうもいかないでしょう。

確かに、先に述べた破産法の275条では、「破産者やその親族等」に対して「請求や保証を求める目的」で「面会や話し合いを求めること」…つまり「お金を返して!」と「請求する目的」で「会いに行く」とか言ったり「話し合いをしろ」と請求すること自体が禁止されているわけですから、「お金を返して!」と「請求する目的」を持たずに「ただ単に会いに行く」ことはこの条文に触れることはありません。

ただ単に「元カレに会う」だけなら問題ありませんし、ただ単に「元カレと世間話をする」だけであれば何も問題ないでしょう。

しかし、実際に元カレにあってしまえば、「あの時貸したお金を返して!」と言いたくなってしまうのが人情ですから、話の最中に「なんで自己破産なんかしたのよ!お金を返しなさいよ!」と口走ってしまわないとも限りません。

仮にそうなった場合には、仮に会いに行く当初は「お金を請求する」という目的がなかったとしても、結果的に「お金を請求するために会いに来た」と思われる可能性もあるわけですから、そういった危険性を考えれば、やはりお金を貸していた元カレが自己破産してしまった後は、その元カレや元カレの親族等と接触すること自体がリスクとなるでしょう。

ですから、このページのタイトルにも記載しているように「お金を貸した元カレが自己破産した後に会いに行くと逮捕され」てしまう危険性がないとも言えないので、お金を貸していた元カレが自己破産してしまった場合において、その後に元カレや元カレの親族などに会いに行く場合には、不必要に「お金を返せ!」などと口走ってしまわないように細心の注意が求められるといえるのです。

なお、このページでは話を分かりやすくするために「元カレ」が自己破産した場合を例として挙げましたが、もちろんその逆にお金を貸していた元カレが自己破産した場合であっても同様の結論となります。

最後に

「愛は憎しみに変わる」という言葉もありますが、恋人同士でのお金の貸し借りが自己破産にまで発展してしまった場合には、上記のようにまかり間違えば「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」に処せられてしまう事件に発展する可能性があります。

ですから、お金を貸した元カレや元カノが自己破産してしまった場合には、その後一切会わないか、会うにしても「お金のこと」は一切話さないように十分な注意が必要といえるでしょう。