未払い賃金がある状態で自己破産すると会社にバレる?

自己破産の申し立てをする際に意外と気になるのが、自己破産することが勤務先の会社にバレてしまわないか、という点です。

一般的な認識でいうと「自己破産した」という事実は「財産管理能力がない」とか「計画性がない」といった「負」の評価を与えることになりますから、自己破産した事実が勤務先の会社にバレてしまうことは本人の評価を落とす結果となり、悪くすると会社を解雇されてしまう危険性も顕在化してしまうからです。

もちろん、後述するように「自己破産した」という理由だけで労働者を解雇することは法律違反であり認められるものではありませんが、実際に自己破産したことだけを理由に労働者を解雇してしまう会社が存在しているのが日本社会の実情ですので、出来得る限り自己破産の事実が会社に知られてしまうことは避けたいところです。

ところで、このような自己破産することが勤務先に知られてしまう問題に関連して、会社からの給料が「未払い」になっている状態で自己破産の申し立てをしてしまうと、自己破産の手続きをしていることが会社にバレてしまうケースがあることを皆さんご存知でしょうか?

給料が「未払い」になっているということは、すなわち「受け取る権利のある賃金を受け取っていない」ということになりますから、それは「資産」ということになります。

この点、自己破産の手続きでは申立人が所有する全ての「資産」は裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられるのが原則的な取り扱いとなっていますから、その配当手続きを実施するにあたり、「未払いになっている賃金」を裁判所が本人に代わって回収する必要性が生じ、その際に会社に自己破産していることがバレてしまうことがあるのです。

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「未払い賃金」は自己破産の手続きで「資産」の扱いを受ける

自己破産の手続きは債務者の抱えている負債の返済義務を法的に免除(免責)するのと同時に債務者の保有する資産を「精算」する手続きでもあります。

そのため、自己破産を申し立てる際に債務者が保有する「資産」がある場合には、その資産は自由財産として特別に保有が認められる部分を除いてすべて裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられるのが原則的な取り扱いとなっているのです。

この点、債務者が勤務している会社において支払われるべき賃金が支払われず、賃金が「未払い」の状態になっている場合には、その「未払い賃金」は「債務者が受け取る権利があるのに受け取っていないお金」という意味での「資産」ということになりますので、その債務者が自己破産の手続きを申し立てる場合には、自己破産の手続き上で「資産」として扱われることになるのです。

たとえば、借金の返済に窮しているAさんが勤務している会社において、3か月前から給料の支払いが滞り、3か月分の給料が未払いになっている状況でAさんが裁判所に自己破産の申し立てを行ったとすると、そのAさんが会社から受け取っていない「未払い分の賃金」が自己破産の手続き上で「資産」として取り扱われることになります。

「未払い賃金」が自己破産の手続き上で「資産」として取り扱われる場合、破産管財人が本人に代わって会社に請求することになるのが原則

このように、自己破産の申し立てを行う債務者が勤務している会社において、支払われるべき給料が支払われていない状況がある場合には、その未払いとなっている「未払い賃金」が自己破産の手続き上で「資産」として取り扱われることは基本的に避けられません。

この点、自己破産の手続きで申立人である債務者に「資産」がある場合には、裁判所から選任された破産管財人がその「資産」を取り上げて債権者に配当を行うことになりますが、その「資産」が「未払い賃金」である場合には、債務者の手元にない財産であるため、配当の手続きに入る前提として、破産管財人が「未払い賃金」を回収する作業を行う必要が生じます。

そうすると、まず最初に破産管財人がその申立人が勤務する会社に対して「未払いになっている給料をすぐに支払いなさい」と請求し、会社から「未払い賃金」を取り立てることになりますが、その場合には当然、その破産管財人は「自己破産の申立人の破産管財人として裁判所から指名されていて正当な法的権限を有していること」を示す必要が生じますので、勤務先の会社に「自己破産の手続きを行っていること」が知られてしまうことになります。

ただし「未払い賃金」が20万円を超えない場合は同時廃止として処理される可能性が高いので会社にバレる可能性は低い

もっとも、これはあくまでも原則的な取り扱いとして破産管財人による「未払い賃金」の回収が行われた場合の話であって、全てのケースでそのように破産管財人が「未払い賃金」を勤務先の会社に対して取り立てるわけではありません。

「未払い賃金」の金額が「20万円」を超えない場合には、破産管財人が本人に代わって会社に請求しない場合もあります。

なぜそのようなケースがあるかというと、自己破産の手続きで「現金以外」の財産については、その財産(資産)の種類ごとに「20万円」の資産価値を超えない場合には、債務者(自己破産の申立人)にそのまま保有することを認める「自由財産」として取り扱うことにしているからです。

破産管財人が裁判所から選任されると、その破産管財人(※通常は裁判所の管財人名簿に掲載された弁護士が指名されます)に対する報酬が発生しますが、一般的な裁判所では破産管財人の報酬の最低金額が「20万円」と設定されていますので、仮に「未払い賃金」が自己破産の手続きで「資産」と判断された場合には、自己破産の申立人である債務者は自己破産の手続き費用とは別に「20万円」の管財費用を裁判所に納付しなければならなくなってしまいます。

しかし、「未払い賃金」の金額が「20万円」を超えないケースまで「資産」と判断して破産管財人が選任されてしまうと「20万円を超えない資産を配当するために債務者に20万円を支払わせる」ととになって費用倒れとなってしまい、破産管財人を選任する意味がなくなってしまうでしょう。

(※未払い賃金が20万円を超えない場合にまで破産管財人を選任して債務者に20万円を支払わせるのであれば、破産管財人を選任せずに債務者に20万円を積み立てさせて債権者に分配させる方がよいからです)

ですから、「未払い賃金」の金額が「20万円」を超えないケースでは、「自由財産」としてそのまま債務者(自己破産の申立人)に保有することが認められる取り扱いになっており、破産管財人が本人に代わって会社に請求するということ自体がないのです。

このように、「未払い賃金」の金額が「20万円」を超えないケースでは、その未払い賃金自体が裁判所に取り上げられるということがないのが通常ですから、「未払い賃金が20万円を超えないケース」では、破産管財人が勤務先の会社に未払い賃金の支払いを請求するということもなく、自己破産していることが会社にバレてしまう危険性もないということがいえるのです。

「未払い賃金」の金額が「20万円」を超えるケースで会社にバレないようにするためには?

このように、「未払い賃金」の金額が「20万円」を超えないケースでは例外的に破産管財人が未払いになっている給料を回収しない場合もありますが、「20万円」を超えている場合には破産管財人が本人に代わって会社に対して「未払い賃金」の請求をしてしまうのは避けられないのが通常です。

その場合には当然、破産管財人が「自己破産の手続きで裁判所から選任された」ことを示して請求することになるわけですから、会社に対して自己破産の手続きを行っていることが知られてしまうことになるでしょう。

もっとも、そのような場合であっても勤務先の会社に自己破産の手続きを行っていることを知られなくする方法が一つだけあります。

それは「自由財産の拡張」の手続きを行って、本来であれば債権者への配当に充てられるべきであった「20万円を超える未払い賃金」を特別に「自由財産」にして保有を認めてもらう方法です。

「自由財産の拡張」とは、本来は裁判所に取り上げられて債権者の配当に充てられてしかるべき財産を特別に「自由財産」とすることで債務者(自己破産の申立人)の生活再建に役立てるための制度のことをいいます。

先ほども述べたように、自己破産の手続きでは「現金」以外の財産については「20万円」を超えるものは自由財産として保有することが認められず全て裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられるのが原則的な取り扱いとなっているのですが、その財産の種類によっては債務者(自己破産の申立人)の生活再建に不可欠な財産がある場合もありますので、そのような財産については特別に「自由財産の範囲を拡張」することによって自己破産の手続き後も保有を認めることにしているのです。

「自由財産の拡張」の手続きを行って「自由財産」にすることができれば、「未払い賃金」の金額が「20万円」を超える場合であっても裁判所(破産管財人)に取り上げられることはありませんので、破産管財人が勤務先の会社に請求するようなこともなくなり会社に自己破産している事実が知られることもなくなるでしょう。

もちろんこの「自由財産の拡張」の手続きは特別な例外規定であって「どうしても債務者に保有を認めてあげる必要がある」と裁判官に特別に認めてもらう必要がありますから、「自由財産の拡張」の申し立てを行えば全てのケースで「自由財産の拡張」が認められて「20万円を超える未払い賃金」の保有が認めらるというわけでもありません。

しかし、「未払い賃金を会社に請求されてしまうと自己破産したことが会社にバレて会社での地位が危うくなる」というようなことの説明を尽くせば、場合によっては「自由財産の拡張」が認められて破産管財人が代わりに改宗してしまう事態を避けることができる場合もありますので、「未払い賃金」の金額が「20万円」を超えるケースでは、この「自由財産の拡張」の手続きを利用することを検討した方がよいと思います。

【自己破産の申し立てをする前に会社に未払い分の賃金を支払ってもらう方がよいか?】

なお、自由財産の拡張の手続きを取らずに、自己破産の申し立てをする前に会社に対して未払い賃金の支払い請求などの訴訟を起こして給料の未払い状態を解消してもよいですが、給料の未払いを起こしているような会社が労働者の請求に応じて素直に未払い分の賃金を支払うことは極めてまれですし(それができるなら最初から給料を支払っているはずです)、訴訟を提起して未払い賃金の回収をしようとしても裁判には最低でも半年はかかりますから、自己破産の申し立てをする前に未払い賃金を回収することは極めて困難だと思います。

未払い賃金を回収するために自己破産の手続きをせずに長期間にわたって借金を放置する危険性を考えると、やはり「未払い賃金があること」を裁判所に申告したうえで「自由財産の拡張」の手続きを取る方がよいのではないかと思います。

破産管財人が未払い賃金を会社に請求したことによって会社に自己破産したことがバレて解雇されるような場合

以上のように、自己破産の申し立てをする際に「20万円を超える未払い賃金」がある場合には、「自由財産の拡張」の手続きが認められる場合を除いて、破産管財人が本人に代わって会社に未払い賃金の支払いを請求することになる結果、勤務先の会社に自己破産の手続きを行っている事実が知られてしまう可能性があります。

では、仮に勤務先の会社に自己破産の手続きを行っていることがバレてしまい、会社から「解雇」されてしまった場合はどうすればよいかというと、そのようなケースでは「解雇の無効」や「解雇の撤回」を求めて会社と裁判などで争うしかありません。

この点、「解雇の無効」や「解雇の撤回」などの主張が認められるかが問題となりますが、使用者が労働者を解雇するためには「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両方が必要と考えれられていて、常識的に考えられば「自己破産したこと」だけを理由に労働者を解雇することは、「客観的合理的な理由」や「社会通念上の相当性」を欠くものと言えます。

【労働契約法16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

ですから、仮に未払い賃金の金額が20万円を超えていたことによって破産管財人が会社に請求を行い、自己破産していることがバレてしまったことから会社を解雇されてしまったような場合には、「解雇の無効」や「解雇の撤回」を求めて裁判等の手続きで争うのが現実的な解決方法になろうかと思われます。

最後に

以上のように、勤務先の会社で給料の未払いが発生している場合には、その「未払い賃金」が自己破産の手続き上で「資産」としての取り扱われることから、勤務先の会社に自己破産していることがバレてしまう可能性もあります。

もちろん、給料の未払いを起こしているような会社は経営が行き詰っていることも考えられますので、遅かれ早かれ会社の方が破綻してしまうこともありえるわけですから、自己破産していることが会社にバレてしまってもそれほど影響はないとも言えます。

しかし、一般の人にとっては自己破産することが会社に知られることはできるだけ避けたいと思うのが普通でしょうから、そのような事情がある場合は早めに弁護士や司法書士に相談し、自由財産の拡張の手続きを取る準備を十分に行うなど適切な対応が求められるといえます。