銀行などが盛んに広告している商品の中に「借金の一本化」を謳ういわゆる「おまとめローン」と呼ばれるものがあります。
この「借金の一本化」を促す「おまとめローン」は、複数の金融機関から借り入れた借金を一つの金融機関からの借金にまとめることで複数の金融機関への利息の負担や返済の煩わしさを解消させることを主な目的とする金融商品の一つとされています。
たとえば、貸金業者A・B・C・Dの4社からそれぞれ100万円の融資を受けている場合にはA・B・C・Dの4社にそれぞれ利息を支払わなければならず返済もA・B・C・Dの4社それぞれに送金することが求められますが、金融機関Xの提供する「おまとめローン」を利用してX社から400万円を借り受けてA・B・C・Dの4社に対する債務を完済させてしまえば、それ以降はX社にだけ返済していけば足りるため、利息の計算が簡素化され返済のわずらわしさからも解放されるメリットを享受することができます。
このように、「借金の一本化」を促す「おまとめローン」にはそれ相応の利用するメリットはあるわけですが、だからといって多重債務を抱えている人が安易に「おまとめローン」を利用するのは考え物です。
なぜなら、以下に示すように多重債務に悩む債務者が「おまとめローン」を利用した場合にはケースによってはメリットどころか逆に大きな不利益を受けてしまうこともあるからです。
【1】「おまとめ」前の借金で発生している過払い金を回収する機会を失ってしまう可能性
「おまとめローン」を利用する際に一番気を付けなければならないのは、「おまとめ」する前の借金について利息の払い過ぎにあたるいわゆる「過払い金」が発生している場合に、その「過払い金」を回収することなく「おまとめ」してしまうことで「過払い金」を回収する機会を失ってしまうという点です。
たとえば、貸金業者A・B・Cの3社からそれぞれ100万円ずつ借入をしている状態で、X社の「おまとめローン」を利用しX社から300万円を借り受けてA・B・Cの3社の借金を完済したとしましょう。
この場合にもしもA社とB社にそれぞれ40万円ずつの「過払い金」が発生していたとすれば、AとBの債務を債務整理で処理すればAとBの借金はそれぞれ60万円にまで圧縮できることになりますから、「おまとめローン」を利用しなかったとすればA・B・Cの3社の借金の合計は240万円にまで削減できることになります。
しかし、仮にX社の「おまとめローン」を利用してしまうと、Xに300万円を返済しなければならなくなるわけですから、「おまとめローン」を利用する方が60万円余計に返済することになり、結果的に損をしてしまうことになるでしょう。
また、Xの「おまとめローン」を利用するとAとBに対する「過払い金」を回収しないで完済させることになりますが、「過払い金」の消滅時効期間は10年間とされていますので、「おまとめローン」を利用してAとBの借金を完済してから10年が経過すれば、AとBには一切「過払い金」の返還請求ができなくなってしまうことになります。
もちろん、Xの「おまとめローン」を利用する前にAとBに対して「過払い金」の返還請求(債務との相殺)を行い、AとBに対する過払い金を適切に処理したうえでXの「おまとめローン」を利用するのであればこのような問題が発生することはありません。
しかし、「おまとめローン」を提供する金融機関は「おまとめ前」の借金で「過払い金」が発生している可能性をアナウンスすることは通常ありませんから(※注1)、「おまとめローン」を利用する人の多くは「おまとめ前」の借金に過払い金が発生していることなど考えずに「おまとめローン」を利用してしまうのが通常です。
それをアナウンスしてしまうと顧客が「過払い金」を回収した金額だけ「おまとめローン」で融資する金額が少なくなってしまい「おまとめローン」を提供する金融機関が「おまとめローン」で発生する利息収入も減少してしまいます。
「おまとめローン」を提供する側の金融機関としては「おまとめ前」の「過払い金」を回収しないで自社の「おまとめローン」で借り換えてもらった方が多くの利益を受けることができるので、「おまとめ前」の借金で「過払い金」が発生している可能性があることはアナウンスしないのです。
ですから、そういった「過払い金」のメリットを享受できないまま実質的に「損」をした状態で「おまとめローン」を利用する人が多いのが現実なのですから、「おまとめローン」を利用する多くの人は、「おまとめ」前の借金で発生している過払い金を回収する機会を失ってしまう可能性が非常に高くなるということが言えるのです。
【2】借金の一本化を考える時点で債務超過に陥っている可能性がある
また、「おまとめローン」を利用する時点ですでに債務超過に陥って債務整理が必要な状況があるにも関わらず、適切な借金の整理手続きを経ないまま「おまとめローン」で借り換えてしまい、無理な返済を延々と重ねてしまう事態に陥ってしまう可能性があることも考慮すべきでしょう。
確かに、「おまとめローン」は複数の借金を一つにまとめることで利息や送金手数料の負担を軽減させることが可能ですが、借金の総額が変わるわけではありませんし「おまとめローン」後の返済が「リボ払い」になっている場合は、借金の元金を減らしていくのは容易ではなく「おまとめローン」をした後はただ延々と返済を続けていかなければならないのが通常です。
(リボ払いは毎月の返済額を少額に抑えて長期間利ザヤを稼ぐのが金融機関側のメリットとしてあるため、リボ払いで返済を継続する限り長期間の利息負担は避けられないのです)
しかし、「おまとめローン」を利用しようと考える人は、すでにその段階で複数の金融機関から融資を受けてその返済が困難になっているはずですから、その時点で任意整理や自己破産など、法的な債務整理を行って借金を整理しておけば、そういった無理な返済をしなくても済んだはずでしょう。
もちろん、「おまとめローン」を利用したあとできちんと完済できれば良いかもしれませんが「おまとめローン」を利用しても結局は返済が困難になり、最終的には債務整理をしてしまう人は多いので、「おまとめローン」を利用しても結局はその後の返済が無駄になることが往々にしてあるのが実情です。
適切な債務整理を行わず安易な気持ちで「おまとめローン」で借り換えてしまうと、債務整理を利用して借金を整理できる貴重な機会を失ってしまうことになりかねないので、「おまとめローン」を利用する場合は、債務整理で処理した方がよいのではないかという点を十分に考える必要があるのです。
最後に
以上のように、「おまとめローン」を利用するメリットは確かにありますが、「おまとめローン」を利用しようと思う時点ですでに債務整理が必要なケースが多いと思われますので、安易な気持ちで「おまとめローン」を利用してしまうとかえって「損」をしてしまうこともあるので十分な注意が必要と言えます。
ですから、もしも「おまとめローン」の利用を検討している場合には、まず弁護士や司法書士に相談して債務整理の必要性がないか、「おまとめ前」の借金で「過払い金」が発生している可能性がないかなど、詳しく確認してもらう方がよいのではないかと思います。