債務整理したことが勤務先にバレてしまう場合とは?

債務整理には「任意整理」「特定調停」「自己破産」「個人再生」の4種類の手続きが用意されていますが、これらの手続きはいずれを選択したとしても基本的に勤務先の会社に知られてしまうことはありません。

なぜなら、借金の整理はその借金の相手方(債権者)との間の金銭問題を解決するものであって、勤務先の会社はその債権者との関係において全く関係のない第三者に過ぎないからです。

しかし、いかなる場合にも勤務先の会社に知られないかというとそうでもありません。

次のような場合には、勤務先の会社に自分が債務整理をしていることがバレてしまうこともありますので注意が必要です。

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(1)勤務先から借り入れがある場合

勤務先から借り入れがある場合(※たとえば給料の前借などがある場合)は債務整理に伴って勤務先の会社に債務整理をしていることが知られてしまう場合があるので注意が必要です。

債務整理の中でも「任意整理」の場合には特定の債権者だけを除外して手続きを進めることもできますから、仮に勤務先の会社から借金があったとしても勤務先の会社だけを手続きから除外して処理することも可能ですので勤務先に知られてしまう可能性はありません。

しかし、自己破産や個人再生の申し立ての場合には全ての借り入れについて手続きに含めなければなりませんから、勤務先からの借り入れがある場合には裁判所に勤務先を「債権者」として申告しなければならなくなります。

自己破産や個人再生の申し立てで勤務先を債権者として申告した場合には当然、裁判所から手続きが開始した旨の通知が発送されますから、勤務先から借り入れのある状態で自己破産や個人再生の手続きを利用する場合には勤務先の会社に債務整理(自己破産または個人再生)をしていることが知られてしまうことになります。

(2)給料が差押えされた場合

給料が差押えされた場合にも勤務先の会社に債務整理をしていること(正確には借金の返済ができなくなっている状態になっていること)が知られてしまいます。

借金の返済が遅れた状態を長期間放置しておくと、貸金業者などの債権者は「支払い督促」や「裁判」など裁判所の手続きを利用して債権の回収を行いますが、それでも支払いがない場合には最終的に給料(賃金)の差押えを行う場合があります。

仮に債権者が給料を差し押さえようと考えた場合には手続き上、勤務先の会社に裁判所から差押えの通知が郵送されることになりますから、その時点で勤務先の会社に「借金の返済ができなくなったうえ訴えられて差押えがなされていること」が知られてしまうことになります。

もっとも、給料の差押えの場合は弁護士や司法書士に債務整理を依頼してもしなくても会社に差押えの通知がなされることになりますので、返済が滞った段階で早めに弁護士や司法書士に相談をし、差押えの前提となる「支払い督促」や「裁判」で訴えられないようにする必要があるといえます。

(3)勤務先が金融機関などである場合

勤務先の会社が金融機関の場合にも、勤務先の会社に債務整理をしていることが知られてしまう場合があります。

債務整理を弁護士や司法書士に依頼した場合にはその依頼を受けた弁護士や司法書士から各債権者に宛てて「これから債務整理を開始することになりましたよ」という通知(受任通知)が発送されることになりますが、この受任通知を受け取った債権者はそれ以降債務者本人に借金の弁済を請求することが禁じられていますから、信用情報機関に「事故情報」として登録することになります。

この信用情報機関に登録された情報は、その信用情報機関に加盟している金融機関は顧客から新しい借入やクレジットの申請を受けた場合に自由に照会することができます。

そのため、仮に金融機関に勤務している人が債務整理を弁護士や司法書士に依頼した場合には、勤務先の金融機関は自分の債務整理に情報を信用情報機関に自由に照会を掛けることができる状態にあるということになるでしょう。

もちろん、仮にそのような状況に置かれることになったとしても、勤務先の金融機関が常時勤務先の労働者の信用情報に事故情報が登録されていないかチェックしているわけではないでしょうから、勤務先の金融機関に債務整理していることが知れてしまう可能性はそれほど高くないとも考えられます。

しかし、勤務先の金融機関はいつでも信用情報機関に照会を掛けることができる状態にあるのですから、何かのきっかけで自分の信用情報が照会を掛けられて債務整理をしていることが知られてしまう場合があるということは認識しておくべきでしょう。

もっとも、債務整理を弁護士や司法書士に依頼する場合には、それ以前に借金の返済が滞っているのが通常であり、借金の返済が遅れた時点で既に信用情報機関に事故情報(遅延情報)として登録がなされているはずです。

したがって、返済が遅れている状況にある場合には、仮に債務整理を弁護士や司法書士に依頼しなかったとしても信用情報機関にすでに事故情報が登録されている(勤務先の金融機関に知られてしまう可能性はある)と思った方が良いのではないかと思います。

(4)勤務先が生命保険会社などの保険会社である場合

勤務先が生命保険会社や損害保険会社などの保険会社である場合において、その保険会社に勤務する保険の外交員(保険募集人・保険の販売営業社員等)が「自己破産」を申立てる場合には、勤務先の保険会社に自己破産したことが知られてしまうことがあります。

生命保険や損害保険の販売員(保険募集人・保険の外交員)を行う場合には内閣総理大臣の登録を受けることが必要で(保険業法第276条)、その登録の申請には「自己破産していないこと(※正確には自己破産をして復権を得ていない状態ではないこと」)」を誓約する書面を提出しなければなりません(保険業法第277条2項1号)。

これは、「自己破産をして復権を得ていない者」は保険募集人の欠格事由とされているためで、「破産者で復権を得ていない者」が保険募集人の登録をしてきた場合には内閣総理大臣はその登録申請を拒否しなければならないからです(保険業法第279条第1項1号)。

また、仮に保険募集人の登録申請時には「破産者で復権を得ていない」状態でなかったとしても、その後に自己破産をしたことによって「破産者で復権を得ていない」状態になった場合、つまり自己破産の手続きが行われた場合には、内閣総理大臣はその保険募集人の登録を取消または業務の停止を命じることができますし(保険業法第307条1項1号)、その場合には登録を抹消することも可能です(保険業法第308条1項)。

そして、仮に保険募集人が「破産者で復権を得ていない」状態になったことを理由に内閣総理大臣が保険募集人の登録を取り消した場合には、その保険募集人が勤務している保険会社に登録を抹消したことを通知することが義務付けられています(保険業法第308条1項)。

そうすると、自己破産の手続きを申立てることによって保険募集人の「登録が抹消」されることがあり、登録が抹消された場合には内閣総理大臣から「登録の抹消をしたこと」が勤務先の会社に通知されるということになりますから、自己破産の申立を行うことで勤務先の会社に自己破産したことが知られることもあるということになります。

このように、自己破産の申し立てをする人が保険会社に勤務しており、かつ保険募集人(保険の外交員、営業員)の仕事をしている場合には、たとえ勤務先からの借り入れがなかったとしても勤務先の保険会社に自己破産をしたことが知られることになる場合があるので注意が必要といえるでしょう。

※ただし、勤務先の保険会社に知られてしまうのはあくまでも「自己破産」をした場合であって、個人再生や任意整理、特定調停を行っても「破産者で復権を得ていない」状態にはなりませんから保険募集人の登録が抹消されることもないためそのことのみをもって勤務先の保険会社に個人再生や任意整理、特定調停をしたことが知られてしまうことはありません。