任意整理に応じない債権者がいる場合はどうなるのか?

任意整理は弁護士や司法書士に依頼して債権者との間で利息のカットや債務額の減額、分割弁済の話し合いをしてもらう債務整理手続きの一種です。

任意整理の手続きは、自己破産や個人再生手続きなどと異なり裁判所に申し立てをしないで済むことから、債権者との間で柔軟な、かつ迅速な内容の合意ができるのが大きな特徴といえます。

しかし、任意整理の手続きは裁判所が関与しないことのメリットがある反面、デメリットも存在します。

それは、債権者側に必ずしも任意整理に応じなければならない義務はない、という点です。

裁判所に申立を行う自己破産や個人再生の手続きは、法律で定められた手続きである以上、いったん裁判所に申し立てがなされると、債権者はその手続きから離脱することは許されず、裁判所の出す決定に従わなければなりません。

自己破産や個人再生は法定の手続きですから、法律的な強制力が生じるからです。

一方、任意整理は法定の手続きではなく、あくまでも債務者(債務者から依頼を受けて代理人となっている弁護士や司法書士)と債権者との間で”任意”に話し合いがもたれる私的な示談交渉の場に過ぎませんから、法律的な強制力は生じません。

したがって、債権者の側としてみれば、債務者の側が任意整理の手続きを始めたとしても必ずしもそれに応じなければならない義務はないわけですから、債権者が「その債務額の減額には応じない!」とか「その分割払いには応じられない!」と任意整理を拒否した場合には、任意整理による和解は合意されないことになるのです。

ここで疑問が生じるのは、任意整理の交渉に債権者が応じない場合にはどうなるのか、という点です。

弁護士や司法書士に任意整理の手続きを依頼したとしても、任意整理が法定の手続きでなく強制力もないとすれば、債権者に拒否されてしまうことも当然考えられますし、仮に債権者に拒否された場合には弁護士や司法書士に依頼しただけ損をしてしまうことになるでしょう。

では、弁護士や司法書士に任意整理を依頼して債権者から利息のカットや債務額の減額、分割払いの和解案を拒否された場合には、その後の手続きはどうなるのでしょうか?

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特定調停で処理する

前述したように、任意整理は法定の手続きではなく、債権者側は任意整理の交渉に応じなければならない義務はありませんから、債権者によっては任意整理の話し合いを拒否して利息のカットや債務額の減額、分割払いの返済案に合意しないケースもあり得ます。

このような場合には、特定調停の手続きを申立てて解決を図るというのも一つの方法として有効です。

特定調停とは、裁判所に申立をすることによって、裁判所の選任する調停委員が債務者と債権者の間に入り、利息のカットや債務額の減額、分割返済の合意を取り交わす手続きです。

「利息のカット」や「分割弁済の合意」については任意整理の場合に行われるのと全く同じですから、債権者が任意整理に応じない場合には裁判所に特定調停を申立てれば結果として任意整理で合意する内容の分割和解が裁判所の調停として合意されることになるでしょう。

(※ただし、特定調停をした場合のリスクはあります→『安易な特定調停は危険? 返済が滞れば差し押えも…』)

もっとも、裁判所に申し立てをする特定調停の手続きにも強制力はありませんから、必ずしも債権者が特定調停に応じるという保証はありません。

しかし、裁判所から特定調停への出席の通知が来た場合にはほとんどの債権者が特定調停に応じるのが一般的ですし、裁判所から調停案が出されれば債権者も嫌とは言えないのが通常ですから、任意整理に応じない債権者であっても特定調停で処理できる場合は多いといえます。

したがって、任意整理に応じない債権者がいる場合には、その債権者だけを特定調停の手続きに申立を行い、裁判所から利息のカットや債務額の減額、分割和解の調停案を出してもらうというのも一つの方法といえます。

時効期間が経過するまで放置する

債権者が任意整理に応じない場合には、その債権者の債務だけあえて返済をせず、10年の時効期間が経過するまであえて放置するという手段もあります。

最後の返済から10年間返済しなければその借金は事項を援用することで消滅させることができますから、あえて放置することによってその借金を処理してしまうことも可能だからです。

もちろん、このように支払わなければならない借金をあえて放置することは倫理的に問題がありますが、弁護士や司法書士が関与して利息のカットや分割返済の和解を交渉しているのはそうしなければならない債務者のやむを得ない事情があるわけで、それにもかかわらず任意整理に応じない債権者の側にも一定の非難されるべき点がないとは言えません。

ですから、任意整理に応じない債権者がいる場合には、弁護士や司法書士の判断で、あえて時効期間が経過するまで放置するという手段を取ることも場合によってはやむを得ないケースもあるでしょう。

もちろん、10年の時効期間が経過するまでの間に債権者から裁判で訴えを起こされる可能性はありますが、債務額によっては訴訟をする方がコストがかさむ場合があるため債権者側もあえて訴訟に踏み切らず10年の時効期間が経過してしまうケースもありますし、仮に途中で債権者から裁判を起こされたとしても裁判上で分割弁済の和解を求めることも可能です。

そのため、仮に債権者が任意整理を頑なに拒否しているような場合には、時効期間が経過するまであえて放置するというのも一つの方法として有効な場合があるといえるのです。

もっとも、弁護士や司法書士にとってみれば依頼を受けた案件を処理しないで長期間放置することになりますから、このように時効期間が経過するまで放置するケースは極めてまれなケースに限られます。

ですから、このように事件を放置する対象を実際にとるかどうかはあくまでも任意整理を依頼された弁護士や司法書士が判断する問題になりますので、間違っても弁護士や司法書士に債務整理を依頼する際に「時効期間が経過するまで放置してください」などと頼んだりしないように注意する必要があるでしょう。

最終的には自己破産になることも

上記のように、任意整理に応じない債権者がある場合には、その債権者だけ特定調停を申し立てるのが一般的な処理方法となりますが、それでも解決しないような場合には、特異なケースですが10年の時効期間が経過するまで放置するという手段を取ることも考えられます。

もっとも、仮に10年の時効期間が経過するまで放置するにしても、途中で債権者から裁判を起こされて判決を取られてしまったような場合には、給料を差押えされてしまうなどの不利益も生じてしまいますから、どうしても解決できないような場合には自己破産で処理するしかない場合も有るでしょう。

任意整理の分割和解は通常36回払い(3年間の分割払い)になりますので、残債務額を36回で分割できるような家計状況であるにもかかわらず任意整理に応じない債権者がいることで任意整理が成立せずに自己破産してしまうケースはほぼありません。

しかし、借金をしている相手方が友人や親族などの場合には、感情的な問題から話がこじれて任意整理に応じてもらえず裁判に訴えられることもありますから、そのような場合には最終的に自己破産しなければならない可能性もあるでしょう。

 

以上のように、任意整理に応じない債権者がいることはまれなケースといえますが、任意整理を頑なに拒否する債権者がいる場合には、最終的に自己破産で処理しなければならない可能性があるということも、あらかじめ認識しておいた方が良いのではないかと思います。