任意整理とは、借金の返済が難しくなった場合に弁護士や司法書士に代理人なってもらい、債権者と交渉して利息のカットや分割返済の合意を取り付けてもらう手続きをいいます。
裁判所に申立を行う自己破産や個人再生、特定調停などの手続きと異なり、裁判所を介さずに直接債権者と交渉にあたるため、迅速で柔軟な解決が見込めるのがこの任意整理の特徴といえるでしょう。
ところで、任意整理に限らず弁護士や司法書士に債務整理の手続きを依頼した場合には信用情報機関に「事故情報」として登録されてしまいますので(※いわゆる「ブラックリストに載る」ということ)、任意整理後に新たな借り入れをすることが難しくなってしまうのが一般的です。
そのため、任意整理をしてしまうと、その信用情報機関に登録されることによって携帯電話が使えなくなったり機種変更ができなくなってしまうのではないか、と危惧している人は意外に多いようです。
そこで今回は、弁護士や司法書士に依頼して任意整理をした場合には、携帯電話の契約にどのような影響が出てしまうのか、といった点について考えてみることにいたしましょう。
携帯電話が使えなくなることはない
弁護士や司法書士に任意整理を依頼した場合に、弁護士や司法書士から債権者に対して「任意整理の手続きを始めますよ」という通知されると、信用情報機関に事故情報の登録がなされることになります。
弁護士や司法書士が債務整理で介入すると通知を受けた金融機関はそれ以後の本人への請求が禁止されますから、その時点で「借金の返済がなされないことが確定的になった」ということになり、金融機関は加盟している信用情報機関に延滞情報を報告することになるからです。
任意整理における信用情報機関の登録機関は「5年間」とされていますから、任意整理したことが信用情報機関に登録されてしまうと、いわゆる「ブラックリスト」に載ったような状態が5年間は続くことになります。
そのため、任意整理の手続きが終わった後に新しく借り入れをしたり、クレジットカードを作成したり、ローンを組んだりしようと思っても、その借入やクレジットの申請を行った金融機関から信用情報機関に対して信用情報の照会がなされた際に「過去に任意整理をしている」ということが知られてしまうことになりますので、ほとんどの場合はその審査で落とされることになります。
これは、過去に任意整理をして信用情報機関に事故情報として登録されている顧客にお金を貸すのはリスクが高いと判断されるからです。
もっとも、この信用情報機関に登録された情報で融資の審査で落とされてしまうのは、その照会を行うのが金融機関だからです。
貸金業者やクレジット会社からの借金を任意整理した場合には、「JICC」や「CIC」という信用情報機関に事故情報が登録されることになりますが、この「JICC」と「CIC」に信用情報の照会ができるのは、そこに加盟している消費者金融などの貸金業者がクレジット会社(ローン会社)などに限られていますから、そこに加盟していない企業や団体は「JICC」と「CIC」の登録情報を確認できないのです。
この点、携帯電話のキャリア(NTTドコモやau、ソフトバンクなど)は金融機関でもクレジット会社でもなく、「JICC」と「CIC」に加盟することもできませんから、当然、たとえ「JICC」と「CIC」に「任意整理をしている」という情報が登録されていたとしても、その登録情報を確認することはできません。
ですから、仮に消費者金融などの貸金業者やクレジット会社やローン会社などからの借り入れを任意整理して返済を滞らせたとしても、それによって信用情報機関に登録された事故情報は携帯会社に知られてしまうことはありません。
したがって、消費者金融などの貸金業者やクレジット会社、ローン会社などからの借金について任意整理を行ったとしても、携帯電話会社との契約に直接影響することはなく、携帯電話が使えなくなるといったようなこともないということになります。
新規の契約や機種変更では契約できない場合もある
前述したように、任意整理をしたことによって信用情報機関に登録された事故情報を照会できるのはその信用情報機関に加盟する金融機関に限られますから、たとえ任意整理をしていることが信用情報機関に登録されていたとしても、任意整理をする時点で使用している携帯電話が使用できなくなるといったような問題は発生しないといえます。
しかし、これは任意整理をする時点で既に携帯電話を利用している場合の話であって、任意整理をした後に新しく携帯電話の契約をしたり機種変更をしたりするような場合には、信用情報機関に登録された過去の任意整理の情報が影響する場合がありますので注意が必要です。
(1)新しく契約する際に問題が生じる場合
携帯電話の契約を新しく契約しようとする場合には、携帯キャリアの代理店に出向いて携帯電話の契約を申し込むのが一般的ですが、この携帯電話の契約においては具体的に「携帯電話の通信にに関する契約」と「携帯電話の機種の購入契約」の2種類の契約をすることになるのが通常です。
携帯の契約をする際にあらかじめ携帯電話(スマホ等)の機種を所持しているような場合には、その機種を代理店に持参して携帯の通信契約だけをすることもできますが、ほとんどの場合は携帯会社の代理店でスマホなどを購入しその購入したスマホ等についいて通信契約をするのが通常ですので、携帯の契約をする場合には「携帯電話の通信に関する契約」と「携帯電話の機種の購入契約」の2種類の契約を結ぶことになるのです。
この2種類の契約のうち、前者の「携帯電話の通信に関する契約」については前述した信用情報機関の信用情報が問題になることはありません。
なぜなら、前述したとおり信用情報機関の事故情報を照会できるのはその信用情報機関に加盟する金融機関だけであって携帯会社は照会を掛けることができませんし、そもそも「携帯電話の通信に関する契約」は単なる「通信料の支払いに関する契約」であって「お金を借りる」契約ではありませんから、信用情報とは無関係だからです。
一方、「携帯電話の機種の購入契約」については事情が異なります。
「携帯電話の機種の購入契約」の場合は、携帯の機種代金は多くの携帯キャリア代理店で「実質ゼロ円」などのキャンペーンの対象とされているようですが、携帯の機種代金が「ゼロ円」なのではなく「月々の通信料が機種代金相当額分だけ割引される」だけですので、その実態は単に携帯の機種代金を「毎月の通信料」として分割で支払っているにすぎません。
つまり、形式的には携帯の機種代金を支払っていないようになっていても実質的には毎月の通話料として分割払いで「機種の購入代金」を引き落とされていることになりますから、その契約の本質は「携帯電話の機種代金のローン契約」になっているのです。
そのため、仮に携帯の契約をする際に、スマホなどの機種代金を一括で支払わない場合には、携帯会社と提携しているクレジット会社から信用情報機関に信用情報の照会がなされることになりますから、その時点でクレジット会社の方で「過去に任意整理をしている」という情報を認識することになります。
そうなると、クレジット会社から携帯会社の方に「融資不可」という審査結果が出されることになりますから、結果として機種の購入ができないことになり、携帯会社から「クレジット会社の審査が下りなかったので携帯の契約はできません」という結論が出されてしまうことになるのです。
このように、任意整理をした場合には、その任意整理をした後に新しく携帯の契約をしようとすると携帯会社から契約を断られることもあるので注意が必要といえるでしょう。
(2)機種変更をする際に問題が生じる場合
携帯の機種変更をしようとする場合も上記と同じ問題が発生します。
スマホなどの携帯の機種を変更しようとする場合には、携帯キャリアの代理店に出向いてスマホなどを購入するのが一般的ですが、そのスマホなどの機種変更時に機種代金を一括で支払っていない場合には、前述したように機種の代金についてはクレジット会社が立て替える契約になっているのが通常です。
そのため、機種の変更の際に携帯会社が提携しているローン会社(クレジット会社)から信用情報機関に信用情報の照会がなされることになりますので、その際に「過去に任意整理をしている」という情報がクレジット会社に知られてしまうことになります。
そうすると、携帯会社から融資の依頼を受けたクレジット会社として過去に任意整理をしているような人の携帯代金を立て替えるのはリスクが高いと判断せざるを得ませんから、携帯会社に対して「融資不可」といった回答をすることになります。
その結果、クレジット会社から融資が下りなかった携帯会社としては携帯の機種代金の立替が受けられないことになりますから、機種の変更を申し込んだ利用者に対して「クレジット会社の審査が通らなかったので機種の変更はできません」という回答をすることになり、携帯の機種変更ができないということになるのです。
ですから、任意整理をした場合には、その時点で使用している携帯については特に支障はないですが、その後に携帯の機種を変更しようとする際に機種の変更ができないといったトラブルに見舞われることになる場合があるということは十分認識しておくべきといえます。
新規の契約や機種変更ができない場合は中古の機種を購入するしかない
上記で説明したように、携帯電話を新しく契約したり機種の変更をしようとする場合には、携帯の機種代金について携帯会社と提携するクレジット(ローン)会社において立替金の審査ががなされることになりますから、その際に信用情報機関の事故情報が照会されることにより審査で落とされて携帯の契約や機種の変更ができなくなる可能性が高いといえます。
これを回避するには、携帯電話を新しく契約したり機種を変更しようとする際に機種代金を一括で支払うか、あらかじめリサイクル店などで中古のスマホなどを一括払いで購入しておき、その購入した中古の機種を携帯会社の代理店に持ち込んで契約をするしかありません。
こうすれば携帯の機種代金が分割払いにならなくて済みますので、携帯会社からクレジット会社に立替金の融資依頼がなされることはありませんから信用情報機関の事故情報が問題になることもないでしょう。