任意整理では具体的にどのようなことが行われるか?

借金トラブルの解決方法のうち「任意整理」とは、弁護士または司法書士が貸金業者や銀行など、債権者との間で個別に借金の減額や分割払いの交渉を行う手続きのことをいいます。

「自己破産」や「個人再生」の場合には裁判所が介入することによってその手続きに法的な「強制力」が生じます。

そのため、裁判所が「自己破産」による返済の免除や「個人再生」による返済金の減額や返済計画案を認めた場合には債権者側も基本的にそれに反対することはできません。

しかし、「自己破産」や「民事個人再生」と異なり「任意整理」の場合には裁判所は手続きに一切関与しませんから、債権者側が任意整理の交渉に応じるか否かはあくまでも債権者側の「任意」に委ねられることになります。

すなわち、「任意整理」に法的な強制力はありませんから、債務者個人の収入や資産の状況、提示する弁済計画案などによっては債権者が任意整理の交渉に応じないといったこともあり得ることになるのです。

もっとも、債権者側が「任意整理に応じない」場合には、最終的に債務者の側は「自己破産」もしくは「個人再生」の申し立てをするしかありません。

そうなると債権者側も「借金の返済が受けられない(自己破産の場合)」、または「返済金額の大幅なカットが行われる(個人再生の場合)」という不利益を受けることになりますから、通常は弁護士や司法書士に「任意整理」を依頼すれば、分割返済できないほどの膨大な借金額でない限り債権者側も任意整理の交渉に応じることになります。

 

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任意整理では具体的にどのような交渉が行われる?

任意整理を弁護士や司法書士に依頼すると、具体的には「利息の再計算」「原則3年以内の分割返済の協議」「将来利息のカット」「和解書(示談書)の作成」の4つが行われることになります。

(1)利息の再計算

任意整理の手続きで行われる「利息の再計算」とは、貸金業者や銀行などの債権者から返済を求められている借金額を法律で認められた正当な利息に従って計算し直す作業のことを言います。

具体的には、依頼者(債務者)から依頼を受けた弁護士なり司法書士が、債権者である貸金業者や銀行などから「取引履歴(※これまでの借入と返済の日付と金額が一覧表になったもの)」を取り寄せて、利息制限法という法律に従って利息を再計算することになります。

【なぜ利息の再計算が必要か?】

利息の再計算が必要なのは、以前は利息制限法という法律の上限金利を越えて貸し付けが行われていた時期があり、その時期に借り入れと返済を繰り返していた人は利息の再計算をすることで借金額が減少する可能性があるためです。

貸金業者からの借金には利息が付きますが、その利息は利息制限法で元本の15%~20%と定められていたものの、以前は一定の条件を満たした場合に限って出資法という法律の上限金利である29.2%まで取ることが認められていました(※現在は利息制限法と出資法の上限金利は同じになっています)。

しかし、実際には多くの貸金業者はその「一定の条件」を満たしていなかったことから最高裁の裁判で利息制限法の上限金利を越えた利息が「無効」と判断され過去に遡って利息の再計算が必要になったのです。

利息の再計算を行うことによってその最高裁の裁判以前に貸金業者から借り入れを行っていた人は全ての人が借金額が減ることになりましたが、長期間に渡って返済を繰り返した人の中には実際にはすでに借金額を全て払い終えていて払わなくても良いお金を返済していた人もおり、そのような人が貸金業者に対して「払いすぎた利息の取り戻し(いわゆる「過払い金」問題)を行うという社会現象にもなっています。

現在では出資法の上限利率は利息制限法の上限利率まで引き下げられたため、比較的最近になって借り入れを始めた人は利息の再計算をしても借金額が減ることはありませんが、比較的昔から(具体的には出資法の改正があった平成22年6月より以前)借り入れを行っていた人の場合は利息の再計算によって借金の総額が減る可能性があります。

(2)原則3年以内の分割返済の協議

利息の再計算が終わったら、依頼をした弁護士または司法書士と債権者である貸金業者や銀行などの担当者との間で「分割返済」の協議が行われます。

借金の返済が滞った債務者は契約通りの返済ができないからこそ弁護士や司法書士に債務整理を依頼していますから、従来の返済内容を見直して新たな別個の返済計画を立てることになるのです。

たとえば貸金業者から100万円の借金があったとして毎月5万円の返済を求められている人がいたとすると、これを弁護士なり司法書士なりが債権者の貸金業者の担当者と協議をし、毎月の返済金額を3万円に減額するなど交渉をするのです。

前述したとおり任意整理に法的な強制力はなく債権者側が交渉に応じるかは債権者側の「任意」ですが、弁護士や司法書士が間に入った場合には弁護士や司法書士の側で債務者の資産状況や返済可能金額を十分検討して返済案を提示していると考えられますので、多くの債権者は弁護士や司法書士の返済計画案を承諾することになります。

なお、返済期間の上限は各債権者によって様々ですが、多くの貸金業者では最長でも3年(36回払い)以内の返済を求めてくるのが通常です(例えば借入の総額が100万円であれば毎月2万8000円弱の36回払いになる)。

信販会社などではまれに5年(60回払い)程度の長期の分割返済を承諾するところもありますが、ほとんどの債権者(特にサラ金)は3年以内での返済を求めてきますので、3年以内で完済できるかを考慮して返済金額を検討する必要があるでしょう。

(3)将来利息のカット

銀行や貸金業者はボランティアでお金を貸しているのではありませんので、貸したお金に「利息」を付与し債務者から利息の支払いを受けることで利益を発生させています。

そのため、債務者が銀行や貸金業者からお金を借りる場合は借りたお金の「元本」とは他に「利息」も併せて返済する必要が生じるのです。

ところで、前述の(2)で説明した分割返済の協議を行う場合には、債権者に返済する「利息」についても協議を行う必要が生じますが、その際に問題となるのが分割返済の協議後に発生する利息(将来の利息)についても支払しなければならないか、という点です。

弁護士や司法書士に債務整理(任意整理)を依頼する人はおおむね利息の返済が負担になって返済が困難になる人が多いのですから、分割返済の協議後に発生する利息まで支払わなければならないとなると、任意整理の分割和解を結んだ後に再び返済に行き詰まることも考えられるでしょう。

そのため、弁護士や司法書士が介入する任意整理では、ほとんどの場合「将来利息」がカットされて分割返済の協議が行われるのが一般的になっています。

たとえば、貸金業者から年率18%の利息で100万円を借りていた人が、元金を28万円支払ったところで返済に行き詰り弁護士(または司法書士)に任意整理を依頼したとすると、残り72万円を分割返済する協議をすることになります。

この事案ではたとえば72万円を3年で完済する弁済計画にするとすれば毎月2万円を36回払いということで話を付ければ「完済」ということになります。

通常であれば元本の残額72万円を3年で分割返済する場合には、その72万円についても年利18%の利息を支払わなければなりませんが、任意整理の協議の場ではその「将来利息」を一切カットして「元本」のみを支払えば完済ということで話をまとめることが多いです。

もっとも、将来利息のカットに応じるか応じないかは個々の債権者によってことなりますので、経営の厳しい貸金業者などでは将来利息のカットに応じず任意整理の場においても執拗に利息の支払いを求めてくる業者もいますので、すべての案件で将来利息のカットができるとは限りませんので注意が必要でしょう。

(4)和解書(示談書)の作成

任意整理を依頼した弁護士や司法書士と銀行や貸金業者などの債権者などとの間で分割返済の協議が整った場合には、債権者との間で「和解書(示談書)」という書面が作成されることになります。

「和解書」は債権者によっては「示談書」と表題されて作成される場合もありますが、「和解書」も「示談書」も意味は同じなので特に気にする必要はありません。

「和解書(示談書)」には、それまで発生している「債権額」がいくらになるかということを確定させて、その債権額の総額を「毎月いくらの金額」の返済で「何回」の分割で返済するのか、ということを記載することになります。

そして末尾に「債務者本人」と代理人となって交渉した「弁護士(司法書士)」、銀行や貸金業者などの「債権者」が記名押印して双方がその控えを受領するということになるのが一般的です。

もちろん、任意整理の協議が終了た場合には依頼した弁護士なり司法書士から和解書(示談書)の原本を渡されますので、任意整理後はその和解書(示談書)に記載された通りに毎月債権者に返済することになるでしょう。

なお、弁護士や司法書士事務所によってはいったん弁護士や司法書士事務所に返済金額を入金して弁護士や司法書士事務所から債権者に返済を行っているところもありますが、一般的には任意整理後は債務者本人が直接債権者に分割返済金額を振り込むようになる話をつけるところが多いのではないかと思います。