自己破産は借金の返済義務を免除してもらう手続きですが、それと同時に債務者の資産と負債(借金)を清算する「精算手続」としての性質も有しています。
そのため、債務者に一定の資産(財産)がある場合には、自由財産として保有が認められるものを除いてすべて裁判所に取り上げられて換価され、その換価代金が債権者に分配される配当手続きが実施されるのが原則的な取り扱いとなっているのですが、ここで問題となるのは債務者に互助会等の積立金が発生している場合です。
互助会等の積み立ては、冠婚葬祭費用などを民間の互助会等に積み立てるものが代表的ですが、企業によっては会社内に独自の互助会を設けその勤務する従業員に(半強制的に)加入を勧めて毎月の給料から積み立てさせるものもあります。
このような互助会に積み立てたお金は、その互助会が目的とする事情(たとえば冠婚葬祭など)が発生した場合、その積み立てを行った人に対して一定割合が払い戻されることになりますので、それは当然、その人の資産(財産)となります。
そうすると、その資産価値のある互助会の積立金が債務者の資産として自己破産の手続きでどのような取り扱いを受けるのか、という点が問題になるわけです。
では、実際の自己破産の手続きではこのような互助会等に積み立てたお金はどのように扱われるのでしょうか?
他の資産(財産)と同じように裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられたりするものなのでしょうか?
互助会等の資産(財産)も自己破産の手続き上債務者の資産(財産)として扱われる
結論からいうと、互助会等に積み立てられた積立金も自己破産の手続き上では債務者の資産(財産)として扱われますので、自己破産の手続きが開始されれば裁判所に取り上げられて換価され、その換価代金が債権者への配当に充てられるのが原則的な取り扱いとなります。
互助会等の積立金であっても、払い戻されるお金がある以上、それはその積み立てた人独自の資産(財産)となりますので、他の資産(財産)と何ら違いはないからです。
ただし、自己破産の手続きでは「現金」以外の財産については20万円を超えない資産価値のものについては自由財産として保有が認められるのが通常ですから、互助会等の積立金も他の積立金(例えば社員旅行の積立金など)と合計した金額が20万円を超えない場合には、裁判所に取り上げられて換価されることはなく、そのまま保有することが認められるものと考えられます。
(※なぜ20万円が基準になるのかについては→自己破産ではどんな場合に管財事件になるの?)。
なお、先ほども述べたように、互助会等の積立金については、民間業者の互助会等が積み立てるものと勤務先の会社が給料から天引きして積み立てるものの2種類があり、それぞれで自己破産の手続き上の取り扱いに若干の異なる点がありますので注意が必要です。
(1)民間の互助会等における積立金がある場合
民間の互助会等が行っている冠婚葬祭等の積立金についても当然、その積み立てられた金額が20万円を超えている場合には自己破産の手続きでは資産(財産)として取り扱われますので、自己破産の申し立てを行う債務者が民間の互助会等に20万円以上の積立金を有している場合には、その詳細を裁判所に申告して裁判官や破産管財人の処分にゆだねる必要があるでしょう。
実際の手続きでは、申し立て前に互助会等に問い合わせを行って積立金の残高を証明する証明書を発行してもらい、その互助会から発行された証明書を自己破産の申立書に添付して裁判所に提出することが求められます。
そして、裁判所がその互助会の積立金を債権者に配当する必要があると判断した場合には、裁判所から破産管財人が選任され、その破産管財人が互助会に解約の申入れを行って積立金を回収し、その回収した積立金が債権者に配当されることになるでしょう。
(2)会社内の互助会費が給料から直接積み立てられている場合
債務者が勤務している会社内部に設けられた互助会等に加入して毎月の給料から一定額が積み立てられている場合にも、その積み立てられたお金は自己破産の手続き上で債務者の資産(財産)として取り扱われます。
もちろん、先ほども述べたようにその積み立てられた金額が他の積立金(社員旅行の積立金など)と合算して20万円を超えていない場合には自由財産として保有が認められるわけですが、積立金の総額が20万円を超えている場合には裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられてしまうのは避けられないでしょう。
ただしその際、勤務先の会社に自分が自己破産の手続きをしていることが知られてしまう危険性があることに注意が必要です。
勤務先の会社の互助会等に積み立てられた積立金が自己破産の手続き上で資産(財産)として扱われる場合には、裁判所から選任される破産管財人がその勤務先の会社に対して「債務者の破産管財人」として解約や払い戻しの手続きを行うことになりますから、その手続きの際に会社側に自己破産の手続きを行っていることは知られていしまうことは避けられないでしょう。
勤務先の会社に自己破産をしていることが知られてしまえば、財産管理能力がないと評価され会社での地位に支障が出る場合もありますので、その点のリスクがあることは事前に十分に認識しておいた方がよいように思います。
互助会等の積立金を取り上げられたくない場合は自由財産の拡張の申し立てが必要
このように、互助会等に積み立てられた積立金がある場合には、その金額が20万円を超えるものについては自己破産の手続き上で債務者の資産(財産)として判断され、裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられることは避けられないものと思われます。
もっとも、自己破産の手続きでは、そのように債務者の資産(財産)として債権者への配当に充てられることになるものであっても、裁判官の判断によって特別に自己破産後も債務者に保有することを認める「自由財産の拡張」の制度が設けられていますので、その「自由財産の拡張」の申し立てを行うことによってその互助会等に積み立てられた積立金を取り上げられるのを防ぐことができるケースも存在します。
ですから、先ほど述べたように、勤務先の互助会等に積み立てられた積立金が取り上げられることによって会社に自己破産していることがバレてしまうことで問題が生じる場合であったり、互助会等に積み立てられた積立金を取り上げられることが自己破産後の生活再建に大きな支障を及ぼすような特別な事情がある場合には、「自由財産の拡張」の申し立てを行って互助会等の積立金が裁判所に取り上げられないように特別な配慮が求められるといえるでしょう。
なお「自由財産の拡張」は自己破産を依頼する弁護士や司法書士の方で適宜行ってくれるのが通常ですので、互助会等の積立金が裁判所に取り上げられる可能性があり、そのことで何らかの支障が出る可能性がある場合には、依頼する弁護士や司法書士に事前によく事情を説明し「自由財産の拡張」ができないか検討してもらうことが必要になります。
最後に
以上のように、互助会等に積み立てられた積立金も、その金額によっては自己破産の手続き上で債務者の資産(財産)として扱われ裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられるのが原則となりますので、そのような積立金がある場合には十分な注意が必要です。
そして、上記で説明したようにケースによっては自由財産の拡張など特別な手続きも必要となる場合もありますから、互助会等に加入している場合で自己破産を検討している場合には、早めに弁護士や司法書士に相談して適切な対応をしてもらうよう心掛ける必要があるといえます。