自己破産する場合には銀行の預金口座の残高を証明するため、通帳のコピーを裁判所に提出しなければなりません。
なぜなら、自己破産の手続きでは「現金」については99万円までが自由財産として保有することが認められていますが、銀行に預金している「預金」については「現金」ではなく「預金債権」という資産的な扱いを受けるため、20万円以上の残高がある場合には裁判所(破産管財人)に取り上げられて債権者に配当されるのが通常の取り扱いとなっているからです。
(※なぜ20万円が基準となるかについては→自己破産ではどんな場合に管財事件になるの?)
自己破産の申立人の預金口座の残高を通帳のコピーを提出させることによって確認し、破産管財人による換価が必要かということを裁判所の方で判断する必要があることから、通帳のコピーの提出が求められているのです。
ところで、ここで問題となるのが、子供がいる家庭の親が自己破産する場合に、子供の通帳のコピーについても提出が必要になるのか、という点です。
子どもがいる家庭では、子供名義で銀行に預金口座を開設するのは比較的一般的ですが、子供が未成年であれば親がその口座を管理し実質的な処分権限も親が有しているのが通常ですから、子供の預金も親の資産と判断されて裁判所に取り上げられてしまうのではないか、という不安がどうしても生じてしまうからです。
では、実際問題として、自己破産の申し立てをする場合には子どもの通帳も提出しなければならないのでしょうか?
また、親が自己破産する場合、子どもの預金も取り上げられてしまうことがあるのでしょうか?
子どもの通帳を提出しなければならないか?
【原則】通常は子どもの通帳を提出する必要はない
前述したように、親が自己破産する場合に子どもの預金通帳の写し(コピー)の提出が必要になるかが問題となりますが、通常はその提出は必要ありません。
自己破産の手続きでは、原則として申立人本人の通帳は開設している全ての銀行の預金口座についてその写し(コピー)の提出が必要となりますが、家賃や光熱費の支払いを同居の家族の口座から引き落としている場合には、例外的にその口座引き落としをしている同居の家族の通帳の写し(コピー)の提出も必要になります。
しかし、子供の預金口座から家賃や光熱費を引き落としていることはまずないでしょうから、自己破産の手続きにおいて子供の通帳(写し)の提出が必要になるシチュエーションはまず考えられません。
また、子どもが未成年であれば子どもの預金口座は親が管理することも多いでしょうが、私有財産制が取られている日本では、たとえ未成年の子どもであっても私有財産を保有することは否定されませんので、たとえ親子という関係性があったとしても「親」の財産と「子ども」の財産はまったくの「別物」として扱われるのが基本です。
ですから、「親」の自己破産の手続きに「子ども」の財産(資産)となる「子どもの預金」が直接影響を受けることはないといえますので、親が自己破産する際に子どもの預金通帳(の写し)が必要になることは、原則としてないといえます。
【例外】子どもの通帳の提出が必要になる場合
このように、「子ども」の預金は「子どもの財産」であって自己破産する「親」の資産(財産)とは切り離されて考えられますから、親が自己破産する際に子どもの預金通帳の写しの添付が必要になることは基本的にありません。
ただし、以下のような場合には例外的に子どもの預金通帳の写しの添付が必要になる場合があります。
(1)親の口座から子どもの口座に多額の送金がある場合
親の口座から子どもの預金口座に多額の送金がある場合には、親が自己破産する前に資産隠しのために子どもの口座に資産を移転したことが疑われるため、送金先となう子どもの口座の通帳の写し(こぴー)の提出を求められることがあります。
もちろん、資産隠しの意図がない場合には問題となりませんが、親の通帳(の写し)に個人への送金がある場合には裁判所(破産管財人)としても資産隠しの可能性を疑わなければならないため、裁判官や破産管財人の判断によっては子どもの通帳の提出を求められることは十分に考えられると思います。
(2)子どもの口座に20万円以上の残高がある場合
子どもの口座に20万円以上の残高がある場合も、場合によっては裁判所(破産管財人)から子どもの口座の通帳の写し(コピー)の提出を求められることがあります。
この点、前述したように、私有財産制の観点から考えれば「子ども」の預金口座の残高は「その子ども」固有の財産であって「親」の財産ではありませんから、親の自己破産の手続きによって影響を受けないのが基本です。
しかし、子どもが毎月のお小遣いやお年玉をこつこつと貯金して貯めた場合などは格別、親の口座から単に振り替えただけであったり、親が借り入れたお金をそのまま子供の口座に移したような場合であれば、それは「親の資産」と判断することも容認できるでしょう。
したがって、子どもの口座に20万円以上の残高があるような場合には、その残高は実質的には「親の財産」と判断されるケースも否定できないため、裁判官や破産管財人の判断次第では子どもの通帳の提出を求められることもあると思われます。
(※なぜ20万円が基準となるかについては→自己破産ではどんな場合に管財事件になるの?)
子どもの預金も取り上げられてしまうのか?
【原則】通常は子どもの預金が取り上げられることはない
前述したように、私有財産制の下では親と子供の資産は切り離して考えられますので、親が自己破産する場合に、子供の固有の財産が取り上げられることはありません。
したがって、仮に子供の名義となっている預金があったとしても、その口座の預金が直ちに裁判所に取り上げられるというわけではないというのが原則的な取り扱いとなります。
【例外】子どもの預金がとりあげられてしまう場合
(1)資産隠しと判断された場合
前述したように、自己破産する親がその所有する資産を債権者の配当に充てられるのを防ぐため、自己破産の申立前に親の口座から子どもの口座に預金を振り替えたり、子どもの口座に不審なお金の入金をしているような事実がある場合には、裁判官や破産管財人から「資産隠し」と認定されることがあります。
子どもの口座に残る残高が「親の資産隠し」と判断される場合には、当然その「子どもの預金」は「親の資産」と判断されますから、破産管財人に取り上げられてその全額が引き出され、債権者に配当されることになるでしょう。
(2)20万円以上の残高がある場合で親の資産と認定された場合
子どもの口座の残高が20万円以上ある場合には、ケースによっては「親の資産」と判断されて裁判所に取り上げられる可能性もあります。
もちろん、前述したように、子どもが毎月のお小遣いやお年玉をコツコツと貯めて20万円になっているのであれば、それはその「子ども固有の財産」と判断されるのが通常ですから、たとえ親が自己破産する場合であっても裁判所に取り上げられることはありません。
しかし、親が子どもの将来の学費や結婚資金等に充てるため子ども名義の預金口座に預金しているような場合には、形式的には「子どもの財産」に見えても実質的には「親の財産」といえますから、親の自己破産の手続きでは「自己破産する親の資産」と判断されて債権者への配当に充てるべき資産となり、裁判所に取り上げられることになるでしょう。
また、たとえば親が子どものために購入したピアノを売却し、その売却代金を子どもの口座にとりあえず入金しているような場合にも、実質的にそのお金は「親の資産」ということもできますから、そのような場合も裁判所に取り上げられることがあるかもしれません。
もっとも、このあたりの判断はその入金された事情や家庭環境などによって異なりますし、裁判官や実際に調査を行う破産管財人によっても判断が分かれると思いますので実際にはケースバイケースで考える他ありません。
ですが、このように「資産隠し」にあたらない場合であっても、それが「親の資産」と判断される場合には、たとえ「子どもの名義」の預金であっても裁判所に取り上げられるケースがあるということは理解しておいた方が良いと思います。
最後に
以上のように、親が自己破産する場合には基本的に「子どもの通帳」の写し(コピー)の提出を求められたり、「子どもの預金」が裁判所に取り上げられることは基本的にありませんが、その子どもの預金が「資産隠し」と判断されたり「実質的には親の資産」と判断される場合には、例外的に裁判所から子どもの通帳の写し(コピー)の提出を求められたり、子どもの預金が裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられることもあるということになります。
そのため、自己破産の申立を行う場合に「子どもの預金」がある場合には、早めに弁護士や司法書士に相談し、その「子どもの預金」が自己破産においてどのように扱われるのかという点を確認しておくことも重要です。
そのような確認をせずに、むやみに「子どもの口座」に多額の送金を行ったり、逆に「子どもの口座」から多額の現金を引き出してしまった場合には、「資産隠し」ととられたり「債権者の配当に充てるべき資産を無駄に消費した」と認定されて自己破産の手続き上で問題にされる場合も有るので十分に注意が必要といえるでしょう。