借金の返済が困難になった場合に、債権者との間で債務の減額や利息のカット、分割弁済の協議を行う債務整理手続きを「任意整理」といいます。
任意整理の交渉は個人で行うことも可能ですが、法律の専門知識を必要とするため弁護士や司法書士に依頼して代理人として交渉してもらうのが一般的です。
ところで、この任意整理の手続きを実施するためには、何らかの条件や要件は存在するのでしょうか?
債務整理の手続きが、自己破産・個人再生・特定調停・任意整理に分かれている以上、任意整理を選択する希望があったとしても、全てのケースで任意整理で借金を処理できるわけではないと考えられるため問題となります。
任意整理に法律で定められた要件や条件はない
結論からいうと、任意整理を行うのに要件や条件などはありません。
任意整理は誰でもどのような案件でもやろうと思えばやれますし、特定の案件で任意整理が制限されることもありません。
なぜなら、任意整理は自己破産や個人再生、特定調停など他の債務整理手続きと異なり、法律で手続きの手順等が規定された法律上の手続きではなく、単に債務者と債権者の間で行われる示談交渉の場に過ぎないからです。
この点、自己破産の場合には「債務者が支払不能にあるとき」が(破産法第15条1項)、個人再生の場合には「破産手続開始の原因となる事実の生ずる恐れがあるとき」や(民事再生法第21条1項)、「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり、かつ、再生債権の総額…が五千万円を超えないもの」(民事再生法第221条1項)などという手続き開始の条件(要件)が法律で明確に規定されていますから、その条件(要件)が満たされる場合でない限り、そもそも自己破産や個人再生の手続き自体を申立てることが不可能です。
【破産法第15条1項】
債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
【民事再生法第21条1項】
債務者に破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるときは、債務者は、裁判所に対し、再生手続開始の申立てをすることができる。債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないときも、同様とする。
【民事再生法第221条1項】
個人である債務者のうち、将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり、かつ、再生債権の総額(中略)が五千万円を超えないものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(中略)を行うことを求めることができる。
しかし、任意整理の手続きについてはこのような手続きを規定する法律自体が存在していません(※「任意整理法」などという法律は存在しません)。
任意整理の手続きは、単に債権者との間で私的に交渉するだけにすぎませんから、債権者が合意する限りどのようなケースでも手続きを行っても差し支えないのです。
もっとも、これはあくまでも「法律による制限はない」というだけの話であって、任意整理の手続きを行う場合は「事実上」次のような一定の条件(要件)は存在しますので注意が必要です。
原則3年以内で残りの借金を返済できるか否か
任意整理の手続きを行う場合には、債権者に返済しなければならない借金について原則3年以内で分割弁済できることが大前提となります。
なぜなら、任意整理の手続きにおいては、利息の再計算によっても残ってしまう債務については債権者に返済しなければならず、その返済期間は原則3年以内(36回払い)となるのが一般的な実務の取り扱いだからです。
この点、なぜ「3年(36回)」の分割払いになるのかという点に疑問が生じますが、これは任意整理と同様の分割弁済の交渉を行う裁判所の特定調停の手続きにおいても、利息の再計算によっても残ってしまう債務については裁判所の調停委員から原則3年以内で分割弁済することを求められるからです。
裁判所では、「3年以内で残りの債務を分割弁済できるか」が「返済不能」か否かの一つの判断基準としており、「3年以内で残りの債務を完済できない場合」には特定調停での処理を認めず自己破産や個人再生での処理を勧める傾向があることから、任意整理の場合でも『3年(36回)の分割払いで残りの債務を返済できること』が債権者において任意整理の交渉に応じる一つの基準とされているのです。
継続的な収入が見込めること
前述したように、任意整理の手続きで債権者からの合意を得るためには、利息の再計算によっても残ってしまう債務について原則3年以内で分割弁済できることが事実上の基準(要件)となっています。
この点、「3年以内で残りの債務を分割弁済」するためには当然、以後3年程度は継続的な収入が見込めることが大前提となりますから、任意整理の手続きを行うためにはその交渉の時点で「継続的な収入があること」が最低限の条件(要件)となります。
もちろん、未来のことは誰にもわかりませんから、今後3年間確実に継続的な収入が得られるという確証までは必要ありません。
しかし、今現在で「継続的な収入」がないというのであれば、そもそも向う3年間に渡って返済を継続していくこと自体できないわけですから、任意整理の手続きを行うためには最低でも任意整理の手続きを始める時点で「継続的な収入があること」が最低条件(要件)となるのです。
生活保護受給者は自己破産を検討すべき
もっとも、「継続的な収入がある」とはいっても、その収入が生活保護である場合には任意整理の手続きを取ることはできません。
生活保護費で支給される生活保護費を返済原資にしてしまった場合、それは事実上国庫から支給されるお金を返済に回していることになり、国が税金で私人の借金を立て替え払いしていることになってしまうからです。
そもそも生活保護を受給しているということは、収入が「ゼロ」か「自分の収入で毎月の生活費を賄うことができない」状態にあることは明白ですから、毎月の余剰金もゼロであり返済原資もゼロになるはずです。
そうであれば、「支払不能」の状態にあるわけであって、自己破産でしか借金を処理することはできない状態といえますから、生活保護を受給している人は、任意整理を採るべきではありませんし、任意整理で処理するのではなく自己破産で処理しなければならないといえます。
最後に
以上のように、任意整理の手続きを取るために法律で明確に条件(要件)が規定されているわけではありませんが、「継続的な収入が見込めること」は任意整理の手続きを取るうえで最低限必要な条件(要件)といえます。
もちろん、「継続的な収入」があれば足りるのですから、アルバイトやパートであっても問題はありません。
ただし、「継続的な収入が見込めること」はあくまでも任意整理の手続きを取るうえでの最低条件(要件)であって、「継続的な収入」があれば全てのケースで任意整理の手続きで借金の処理ができるというわけではないので注意が必要です。
任意整理の手続きで債務を弁済していくためには、原則3年程度は毎月弁済していかなければならないわけですから、3年間余裕をもって返済できるだけの家計の余裕がなければなりません。
仮に家計の収支が拮抗してカツカツの状態であれば、毎月十分な余剰金が確保できず余裕をもって返済することはできないわけですから、仮に「継続的な収入」があったとしても任意整理の手続きは不可能です。
たとえ「継続的な収入」があっても任意整理で処理できない場合もケースによってありますから、依頼する弁護士や司法書士と樹分に協議を行い、任意整理で手続きを行うか、それとも自己破産など他の手続きで処理するか、慎重に検討していくことが必要になるといえるでしょう。