任意整理後の月々の返済額はどのように決められるのか?

任意整理は弁護士や司法書士に依頼し、債権者との間で債務の減額や利息のカット、分割弁済の協議を行う債務整理手続きの一種です。

この任意整理の手続きでは、依頼を受けた弁護士や司法書士が債権者から取引履歴を取り寄せて利息の再計算を行い、正確な債務額を計算したあとでその残存債務額について原則3年以内(36回払い)の分割で弁済計画が合意されるのが一般的です。

ところで、この任意整理で債権者との間で合意される分割弁済計画では、債務者側が毎月支払うことになる弁済額はどのようにして決められるのでしょうか?

任意整理後に長期の支払いが義務付けられる任意整理の依頼人(債務者)としては毎月の生活費も必要ですから、具体的にどのような計算方法で任意整理後の毎月の支払額が決定されるのかという点は非常に気になるところでしょう。

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任意整理後の毎月の支払額の計算方法

任意整理後に毎月いくらずつ債権者に返済していくか、その具体的な金額は任意整理を依頼する弁護士や司法書士の事務所の方針によって異なりますが、おおむね次のような順序で計算されるのが一般的です。

(1)毎月の家計収入を算出する

任意整理後の毎月の支払額の計算をする場合には、まずその依頼人(債務者)の家計の毎月の収入を把握しなければなりません。

その依頼人(債務者)の世帯における家計の収入がいくらかわからないと当然、その家計から任意整理後に債権者への返済として捻出できる金額も判明しませんから、まずその家計の収入を算出する作業が必要となるのです。

ポイントは、その依頼人(債務者)個人の収入ではなく、その依頼人(債務者)が生活している家計全体の収入を把握することが必要という点です。

一人暮らしの場合には当然依頼人(債務者)個人の収入だけを把握すれば足りますが、例えば夫婦で同居しているような場合にはその夫婦の収入を合計した金額から家計の支出が控除されることになりますので、夫婦の収入を合計した家計全体の収入を正確に把握しなければならない点に注意が必要です。

(2)毎月の家計支出(生活費)を計算する

毎月の家計収入を算出したら、次は毎月の家計支出(生活費)を計算します。

毎月の家計支出(生活費)とは、具体的には「家賃」「水道光熱費」「電話などの通信費」「NHKの受信料」「町内会費」「子供の学費」「交通費」「食費」「日用品等購入のための雑費」「新聞や雑誌代」「子供の塾・習い事代」「冠婚葬祭費」「医療費」その他ありとあらゆる家計の1か月間に支出する費用をいいます。

任意整理後に債権者に支払う弁済金は、毎月の収入から毎月の家計支出(生活費)を差し引いた残額でしか賄うことができませんので、その依頼人(債務者)の家計で毎月いくらの生活費が必要なのか、その最低限必要な金額を算出しなければならないのです。

なお、毎月の家計支出(生活費)を算出する場合は、過去3か月程度の家計支出(生活費)を資料(レシートや領収書、預金通帳など)などを参考に、家計表を作成し算出するのが通常です。

(3)毎月の余剰金を計算する

過去3か月程度の毎月の家計支出が算出できたら、その1か月分の家計支出の平均額を計算し、その1か月あたりの家計支出(生活費)の平均額を、(1)の毎月の収入から差し引きます。

この”「毎月の家計収入」-「毎月の家計支出(生活費)」”の計算式で得られる金額が、毎月の余剰金となります。

毎月の「余剰金」は、毎月その家計で自由に使えることがある程度見込めるお金といえますので、この「余剰金」が任意整理の後に債権者に支払う弁済額の計算の基礎となります。

(4)毎月の余剰金の「3分の1~半額」の金額を「返済原資」として算出する

「毎月の家計収入」-「毎月の家計支出(生活費)」”の計算式で毎月の余剰金が算出出来たら、その毎月の余剰金から債権者の返済に回すことができる返済原資を確定させます。

ここで注意すべきは、”「毎月の余剰金」=「返済原資」”とはならないという点です。

確かに、毎月の余剰金は、その月において自由に使用できるお金といえますが、その過去3か月間の家計の計算で算出された余剰金が毎月続くかというとそうではありません。

任意整理で債権者との間で合意される分割弁済期間は3年間の36回払いとなるのが通常ですから、3年の期間には病気に罹患することもあるでしょうし、事故でけがをするかもしれません。

また、友人知人の冠婚葬祭が度重なることも予想されますし、リストラや転職のリスクも否定できないでしょう。

前述の(3)で算出された「余剰金」はあくまでも「調子のいい状態」の余剰金に過ぎないといえますので、(3)で算出された余剰金全額を債権者への返済に回すことはできないと考えるべきです。

ですから、”「毎月の余剰金」=「返済原資」”ではなく”「毎月の余剰金」≠「返済原資」”となるのです。

では、毎月の返済原資は具体的にいくらになるかというと、あくまでも目安ですが、(3)で算出された「毎月の余剰金」の「3分の1~半額」程度で考える方が無難です。

たとえば、(3)で計算された「毎月の余剰金」が6万円であれば任意整理後に債権者に支払うことのできる「毎月の返済原資」は「2万円~3万円」程度ということになるでしょう。

もちろん、これを越えた金額を「毎月の返済原資」とすることも可能ですが、これより多く返済原資を見積もってしまうと、余裕をもって返済できることが難しくなりますので、任意整理後の弁済の途中で返済に行き詰ってしまい、自己破産に移行してしまう蓋然性が極めて高くなるといわざるを得ないでしょう。

(5)「返済原資」の金額を各社の債権額で案分する

(4)の計算で「毎月の返済原資」が確定したら、その返済原資を各債権者に対する債務額で案分します。

例えば、A社に対して54万円、B社に対して36万円、C社に対して18万円の債務残高が残っているような状態であれば、ABC全ての債権者に対する債務を3年の36回払いで完済させようとすると、A社に対して15,000円、B社に対して10,000円、C社に対して5,000円の返済が必要となります。

このような場合に、毎月の返済原資が3万円確保できる場合には、A社に対して15,000円、B社に対して10,000円、C社に対して5,000円を支払う36回払いの分割弁済案が合意されることになるのが一般的でしょう。

また、仮にこの場合の返済原資が6万円確保できる場合には、返済原資の6万円のうち3万円を毎月支払うことで上記の36回払いにしても良いですし、返済原資と確保した6万円全額を返済に回しても差し支えないのであれば、この場合のA社・B社・C社の債権額の比率は「3:2:1」になりますから、6万円を「3:2:1」の比率で分けてA社に対して30,000円、B社に対して20,000円、C社に対して10,000円を支払うことにして1年半の18回払いで完済するような分割弁済案を提示しても良いのではないかと思います。

任意整理後の支払額は弁護士や司法書士とよく相談して決めること

なお、上記はあくまでも一般的な任意整理における分割弁済額の算出方法を解説したものに過ぎません。

家計収支の計算はその家庭ごとに異なりますし、返済原資の計算も各債権者ごとの債務額の総額や債権者側の意向によって変化する場合がありますから、ケースによっては上記のように単純に債権者に対する債務額で案分することも難しい場合もあります。

ですから、任意整理後に債権者に支払う具体的な支払額については、自分の家計状況を十分に精査したうえで任意整理を依頼した弁護士や司法書士と十分に協議を行い、余裕をもって返済が可能な金額を決定していくことが重要といえるでしょう。