任意整理の手続き中に転職することは可能か?

任意整理とは、弁護士や司法書士に代理人となってもらい、消費者金融などの貸金業者やクレジット会社などの債権者との間で債務の減額や利息のカット、残債務の分割弁済の協議を行う債務整理手続きの一種のことをいいます。

自己破産や個人再生、特定調停などの他の債務整理手続きと異なり、裁判所に申し立てをしないで済むことから、簡易迅速な借金の処理方法として幅広い層の多重債務者に利用されている手続といえます。

ところで、任意整理では依頼した弁護士や司法書士が代理人となって債権者との間で残債務額の分割弁済案について協議することになりますが、その協議中に転職して仕事を変えることは可能なのでしょうか?

転職してしまうと毎月の収入が変更するのが一般的ですので、仮に転職によって収入が下がってしまった場合には、打ち合わせで弁護士や司法書士に申告した弁済原資が確保できなくなる可能性もあるため問題となります。

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任意整理の手続き中に転職すること自体は禁止されない

結論からいうと、任意整理の手続き中に転職すること自体は可能です。

なぜなら、憲法で職業選択の自由が明文化されている以上(日本国憲法第22条1項)、たとえ任意整理の途中であっても転職を禁じることは法律をもってしてもできないからです。

【日本国憲法第22条1項】

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

弁護士や司法書士にはあらかじめ申告しておくこと

ただし、「転職する予定があること」と「転職の時期」についてはあらかじめ任意整理を依頼する弁護士や司法書士に申告しておく必要があります。

任意整理の手続きは早ければ手続きを開始してから3カ月から半年程度で終了するのが通常ですから、その手続き中に転職をするということは、任意整理を弁護士や司法書士に依頼する時点で転職の意思があることや転職活動中であることはある程度明らかになっているはずです。

▶ 任意整理はどれくらいの期間で終了するの?

また、任意整理の依頼を受けた弁護士や司法書士は、その依頼人の今後得られる収入と家計の支出を考慮して任意整理後に債権者に支払う毎月の弁済額を決定していきますから、その弁済額の算定の基準となる毎月の収入に変更が生じる転職の予定については事前に把握しておくことが絶対的に必要です。

▶ 任意整理後の月々の返済額はどのように決められるのか?

ですから、「転職する予定があること」や「転職の時期」、転職先がすでに決定している場合には「転職先での収入」などについては、その時点でわかる範囲で構わないので、任意整理を依頼する段階であらかじめ弁護士や司法書士に説明しておかなければならないでしょう。

転職のタイミングによって2~3か月間任意整理の協議を遅らせることも

前述したように、任意整理の手続き中に転職することも禁止されるわけではありませんが、転職のタイミングによっては任意整理で債権者と分割弁済の協議を行う時期を2~3か月遅らせる必要が生じる場合もあるかもしれません。

前述したように、任意整理の依頼を受けた弁護士や司法書士は、債権者と分割弁済の協議を行う際に、それ以後に依頼人である債務者が安定して得ることが期待できる毎月の収入を元に毎月の弁済額を算定する必要があります。

なぜなら、任意整理後に安定して得られる収入の確認が取れなければ、債権者に「これぐらいなら毎月安定して返済が可能ですよ」と責任をもって提示することができませんし、仮にいい加減な金額を提示して弁済の途中で返済できなくなってしまった場合には、その依頼を受けた弁護士や司法書士の事務所自体の信用も失墜してしまい、それ以後の債務整理の交渉の際に債権者側が協議に応じてくれなくなってしまうからです。

もちろん、任意整理の協議を行う時点で既に転職が決まり、数か月間給与を受け取っているような場合には、その実際に受け取った給与の金額から弁済原資を計算して債権者に提示すれば全く問題はありません。

しかし、たとえば弁護士や司法書士が債権者と分割弁済の協議を行う直前に転職が決まったような場合には、転職後の収入がいくらになるか確定的に判断できない場合もありますから、そのような場合には転職後数か月間が経過するまで債権者との協議をいったん先延ばしにし、転職先で2~3か月間収入を受け取った段階で債権者との協議をスタートすることも考えなければならないケースもあるでしょう。

このような場合、債権者が分割弁済の協議を先延ばしている最中に裁判や支払い督促などを申し立てしたりしないかという点が問題となりますが、2~3か月程度なら債権者もそれほど任意整理の協議をせかすことはないのでそれほど心配する必要はありません。

しかし、弁護士や司法書士が介入してから1年以上経過したにもかかわらず一向に協議が進まないような場合には、債権者の方としても裁判手続きによる債権の回収に踏み切る場合もありますので、転職するならするしないならしない、とハッキリと結論を出すことは必要でしょう。

任意整理の手続中の転職に起因して発生する不利益は全て自己責任

以上のように、任意整理の途中で転職すること自体は自由ですし、仮に転職の時期が数カ月ずれ込む場合であっても、依頼している弁護士や司法書士に相談して任意整理の協議を2~3か月程度遅らせてもらうことは可能ですから、任意整理の途中に転職すること自体は可能でしょう。

ただし、その任意整理の手続き中に転職したことによって生じる不利益は全て自己責任となることは自覚しておくべきでしょう。

「任意整理の手続き中に転職したことによって生じる不利益」とは、「転職前」の収入や「転職後に受け取る予定だった収入」を基準に分割弁済の計画を合意したにもかかわらず、実際に転職した後に受け取る収入が当初の予定よりも少なかったような場合に、任意整理後の毎月の支払いが厳しくなるような不利益のことを言います。

前述したように、任意整理の依頼を受けた弁護士や司法書士は、依頼人である債務者から申告を受けた「収入」を基準に弁済原資を計算するしかありませんから、転職する予定がある場合には「転職後に受け取ることが予定されている収入額」を基準に債権者と交渉するしかありません。

転職後に実際に受け取ることのできる収入額は、突き詰めて考えれば「未来の自分」しかわからないわけですから、仮に転職によって収入が減少してしまった場合には、その減少した収入を返済原資として任意整理で合意した毎月の返済額を支払っていくほかないのです。

仮に任意整理で債権者との間で合意した弁済計画通りに弁済できない場合には、再度弁護士や司法書士に依頼して分割弁済計画を組み直すか、自己破産するかしかないかもしれません。

もちろん、その場合には、再度弁護士や司法書士に依頼する手続き費用や報酬を支払わなければなりませんので、それなりの経済的損失は生じてしまうでしょう。

しかし、任意整理の途中で結果的に収入が減少してしまうような転職をしてしまったのは自分自身ですから、このような不利益についてはすべて自分で受け止めるほかありません。

ですから、任意整理の途中で転職する場合には、その転職後の収入で本当に弁済して行けるのかを十分に熟慮して決定することが必要ですし、転職のスケジュールについては任意整理を依頼する弁護士や司法書士に十分に説明し理解をしてもらうことが必要といえます。