任意整理すると不動産はどのような影響を受けるか?

任意整理とは、弁護士や司法書士に依頼して債権者との間で借金の減額や利息のカット、利息の再計算によっても残ってしまう債務の分割弁済の協議を行う債務整理手続きの一種をいいます。

自己破産や民事個人再生、特定調停など他の債務整理手続きと異なり、裁判所に申し立てが必要ないことから、簡易迅速で費用的にも安価に借金の処理ができることから債務整理の中でも最も多く利用されている手続といえます。

ところで、多重債務に悩む人の中には、先祖伝来の土地や建物を所有していたり自宅の住宅ローンを抱えている人も多いでしょうから、任意整理の手続きを行った場合に自己の所有する不動産がどのような影響を受けるのか心配になる人もいるかもしれません。

では、任意整理で借金を処理する場合には、土地や建物など所有する不動産は何か影響を受けたりするものなのでしょうか?

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任意整理しても不動産には影響しないのが原則

結論からいうと、任意整理の手続きで借金を処理したとしても、所有する土地や建物などの不動産には一切影響しないのが原則的な取り扱いとなります。

なぜなら、任意整理の手続きは、債権者との間で個別に借金の減額や分割弁済方法を交渉する私的な示談交渉の場に過ぎませんから、その債権者との契約上関係のない不動産には何ら影響を及ぼさないからです。

この点、自己破産の手続きは清算手続きの側面を有していますので、自己破産の申し立てをする場合は所有する全ての財産が裁判所に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者に分配(配当)されるのが基本的な取り扱いです。

しかし、任意整理の手続きにはそのような清算手続き的な性質はありませんし、そもそも任意整理は特定の債権者との私的な示談交渉の場に過ぎず、自己破産のように手続きが法定されたものではありませんから、裁判所が介入して不動産を取り上げたり売却したりすることはできません。

ですから、任意整理の場合には、原則として所有する土地や建物などの不動産には全く影響しないということがいえます。

例外的に不動産に影響が出る場合

前述したように、任意整理は特定の債権者との間で債務の減額や分割弁済の協議を行う私的な示談交渉の場に過ぎませんから、任意整理をしたからといってその債権者との契約に関係がない土地や建物などの不動産については全く影響がないのが原則的な取り扱いとなります。

ただし、これはあくまでも原則的にはそのように扱われるというだけであって、その所有する不動産が任意整理の対象となる債務に直接関係する状況になっている以下のような場合には、所有する土地や建物などの不動産が影響を受けてしまうケースもあります。

(1)債権者に判決等を取られている場合

債権者が差押えなど強制執行をすることが認められる文書のことを「債務名義」といいますが、裁判等の判決や特定調停における調停調書についてもこの「債務名義」に該当します。

この点、仮に任意整理の対象となる債務の債権者が事前に裁判や支払い督促などを裁判所に申し立てて判決など取っている場合には、債権者がこの「債務名義」を取得していることになりますので、その債権者はいつでも債務者の所有する不動産に差押えをすることが可能な状態にあることになります。

また、仮に任意整理の対象となる債務について、任意整理の以前に特定調停を裁判所に申し立て、裁判所から分割弁済の調停(調書)が出されている場合には、その特定調停で合意された支払いがなされない場合には、債権者はこの「債務名義」を取得していることになりますので、いつでも債務者の所有する不動産に差押えをすることが可能な状態にあるといえます。

もっとも、このように債権者から債務名義を取られてしまっている場合であっても、全ての場合に債権者が不動産を差し押さえて競売に掛けるわけではありません。

例えば、不動産の評価額が極端に低いような場合には差し押さえて競売に掛けても回収できる金額には限りがありますので、任意整理の交渉を打診した場合には債権者が差押えを実施せずに任意整理の交渉のテーブルについてくれることもあるでしょう。

しかし、このように、任意整理の手続きに入る前に、既に債権者から判決や特定調停などの債務名義を採られてしまっている場合には、仮に債権者との間で任意整理の交渉に入ったとしても、債権者がその任意整理の交渉を拒否して差し押さえを行う危険性もありますので、債権者の出方によっては所有する不動産を差押えされ、競売に掛けられて売却されてしまう可能性もゼロではないでしょう。

(2)住宅ローンを任意整理する場合

住宅ローンの債務について任意整理をする場合には、当然その不動産は失うことになるのが一般的です。

なぜなら、住宅ローンについて任意整理を開始した場合、住宅ローン会社は保証会社から代位弁済(保証会社が債務者に代わって住宅ローンの全額を返済すること)を受けるのが通常で、代位弁済した住宅ローン会社はその住宅ローンの対象となる土地や建物を任意売却で売却するか、その土地や建物に設定された抵当権を実行し競売に掛けるのが通常の取り扱いとなっているからです。

そのため、借金の中に住宅ローンがある場合には、住宅ローンを任意整理の対象から除外し、住宅ローン以外の他の借金についてだけ任意整理の手続きで債権者と分割弁済の協議をとるのが通常の任意整理の手順となります。

なお、住宅ローンの対象となる土地や建物を失っていも良いというのであれば、住宅ローン会社にそのように打診して任意売却をしてもらい、任意売却による売却代金を住宅ローンの残額に充当しても残ってしまう債務について、弁護士や司法書士に依頼して分割弁済の協議をしてもらってもかまいません。

(3)不動産担保ローンを任意整理する場合

任意整理の対象となる債務が不動産担保ローンになっていて所有する土地や建物などの不動産に根抵当権(抵当権)が設定されている場合には、債権者がその不動産担保ローンで設定している根抵当権を実行し競売に掛けてしまうのが通常の取り扱いとなります。

そのため、不動産担保ローンで負担する債務を任意整理で処理する場合には、原則としてその不動産担保ローンの目的となっている土地や建物などの不動産を失ってしまうのが原則的な取り扱いとなるでしょう。

もっとも、不動産担保ローンを取り扱っている債権者によっては、任意整理で弁護士や司法書士が介入してもすぐには競売に掛けたりせずに任意整理の交渉に応じてくれることもありますし、利息の再計算や不動産担保ローンの対象となる債権者が別に貸し付けたカードローンなどとの一連計算によって債務額の圧縮が図れるケースもありますから、不動産担保ローンを任意整理することで必ずしもその不動産を失うというわけではありません。

しかし、不動産担保ローンを任意整理で処理する場合には、その対象となる不動産を担保に取っている債権者側が交渉において有利な位置にあるのは間違いありませんから、弁護士や司法書士と十分に協議を行い適切な対処を取ることが必要となるでしょう。