自己破産すると家族名義の家(不動産)はどうなる?

自己破産する場合に気になるのが、自分が自己破産したことで家族名義の家や土地などの不動産にどのような影響が生じるのか、という点です。

自己破産は借金の返済義務を「免除(免責)」してもらうだけの手続きではなく、債務者の資産と負債を「清算」する手続きでもありますから、債務者が所有する資産がある場合には自由財産として保有が認められるものを除いてすべて裁判所に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者への配当に充てられるのが通常の取り扱いとなっています。

この点、家や土地などの不動産も「資産」であることには変わりがないことから、自己破産の申立人である債務者が所有する家や土地がある場合には取り上げられてしまうことが予想されますが、その場合、家族名義として登記簿に登録されている家や土地なども裁判所に取り上げられてしまうのではないか、という点どうしてもが危惧されてしまうのです。

では、実際の自己破産の手続きでは、自己破産の申し立てを行う債務者の家族名義となっている家や土地などの不動産も裁判所に取り上げられてしまうことがあるのでしょうか?

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家族名義の家や土地(不動産)が取り上げられることはないのが原則

結論から言うと、自己破産の申し立てを行う債務者以外の家族名義となっている家や土地などの不動産があったとしても、それらの家族名義の不動産が自己破産の手続きで処分されてしまうことは原則としてありません。

なぜなら、たとえ家族名義の資産であっても、その家族の資産は「自己破産の申立人の資産とは全く別の資産」として扱われるため、その資産の名義人ではない自己破産の申立人に関する自己破産の手続きの効力は一切及ばないからです。

ですから、例えば「夫」が自己破産する場合に「妻」名義の家や土地などの不動産が裁判所に取り上げられてしまうことは基本的にありませんし、「妻」が自己破産する場合に「妻の父」の名義となっている持ち家が裁判所によって競売にかけられたりする心配は基本的にないということができます。

例外的に家族名義の家や土地(不動産)が取り上げられることがあるケース

このように、自己破産の手続きではたとえ家族の資産であっても全く別の資産として扱われますから、自己破産の申し立てを行う債務者ではない別の家族の名義になっている家や土地などの不動産があったとしても、自己破産の手続きによって取り上げられたりすることはありません。

もっとも、これはあくまでも原則的な取り扱いであって、以下のような特別な事情がある場合には、家族名義の家や土地(不動産)が取り上げられて競売にかけられたりすることがありますので注意が必要です。

(1)その家族が保証人になっている場合

自己破産の申し立てを行う債務者が負担している債務について、その債務者の家族が保証人や連帯保証人になっている場合には、その保証人や連帯保証人になってくれている家族名義の家や土地(不動産)が裁判所に取り上げられて競売にかけられる場合があります。

なぜなら、保証人や連帯保証人は、主たる債務者が返済不能になった場合には、その主たる債務者に代わってその債務を弁済することをあらかじめ約束していることになりますので、仮に主たる債務者が自己破産した場合に保証人や連帯保証人になっている人が弁済できない場合には、債権者がその保証人や連帯保証人になってくれている人の所有する資産を差し押さえて競売に掛けることが認められるからです。

たとえば「子」が負担している債務について「父親」が保証人になっているような場合に、「子」が自己破産した場合には、「子」の債権者は「父親」に対して「子が自己破産して債務を払えなくなったから保証人であるあなたが代わりに返済してください」と一括請求をすることになりますが、仮にこの場合に「父親」が「子」の債務を一括弁済できない場合には、その債権者は「子」の自己破産の手続きで配当が受けられない部分の金額について「父親」を相手取って裁判を起こし「父親」の資産を差し押さえることになるでしょう。

そうすると当然、「父親」が名義人となっている家や土地などの不動産があればその「父親」名義の家や土地などの不動産も差し押さえの対象とされてしまいますので、「父親」の名義となっている家や土地などの不動産は「子」の債権者によって競売に掛けられ売却されてしまうことになります。

このように、自己破産の申し立てを行う債務者の家族が、その債務者の債務について保証人や連帯保証人になっているような場合には、その保証人や連帯保証人になっている家族名義の家や土地などの不動産が差し押さえの対象とされることにより裁判所に取り上げられて競売に掛けられたりする場合があるので注意が必要です。

※もっとも、この場合に家族名義の不動産が競売に掛けられるのは、あくまでもその保証人や連帯保証人になってくれている家族に対する「差し押さえ」の結果であって、自己破産の手続き上で裁判所に取り上げられてしまうわけではないので、その点は混同しないようにしてください。

(2)その家族が物上保証人になっている場合

また、自己破産の申し立てを行う債務者が負担している債務について、その債務者の家族が物上保証人になっている場合にも、その家族名義の家や土地(不動産)が裁判所の差し押さえ手続きによって競売にかけられる場合があります。

物上保証人とは、他人の借金の担保として自分の不動産に抵当権を付けるような場合をいいます。

たとえば「子」が負担している債務について「父親」が「父親」名義となっている自宅の土地や建物などの不動産を担保として提供し、その「父親」名義の自宅の土地や建物などの不動産に抵当権を設定するような場合が代表的な例として挙げられます。

このようなケースでは、仮に債務を負担している「子」が自己破産した場合、「子」の債権者は抵当権を設定している「父親」名義の不動産を競売に掛けてその売却代金を「子」が自己破産したことによって回収できなくなった「子」の債務に充当することができますので、物上保証人となっている「父親」は「父親」名義の不動産を失うことになるのは避けられないでしょう。

このように、自己破産の申し立てを行う債務者の家族が、その債務者の債務について物上保証人になっているような場合には、その物上保証人になっている家族名義の家や土地などの不動産が差し押さえの対象とされることにより裁判所に取り上げられて競売に掛けられたりする場合があるので注意が必要です。

※もっとも、この場合も先ほどの(1)の場合と同じように、家族名義の不動産が競売に掛けられるのは、あくまでもその物上保証人になってくれている家族に対する「差し押さえ」の結果であって、自己破産の手続き上で裁判所に取り上げられるわけではないので、その点は混同しないようにしてください。

なお、先ほどの(1)の場合のように、不動産の名義人である家族が単に保証人や連帯保証人になっているだけの場合は、債権者はいったんその保証人や連帯保証人になっている家族に対して訴訟を提起して判決を取ったうえでなければ差し押さえをして競売に掛けることができませんが、この(2)のように物上保証人として抵当権が設定されている場合には、債権者は訴訟を経ることなくいきなりその家族の不動産に担保権の実行としての差し押さえをすることができますので注意が必要です。

(3)便宜上、自分以外の家族の名義で登記しているような場合

本来は自分に所有権があるにもかかわらず、便宜上家族名義で登記しているような不動産がある場合にも、自分が自己破産する場合に、その便宜上家族名義にしている土地や建物などの不動産が裁判所に取り上げられてしまうことがあります。

たとえば、「夫」が「夫」の資金で購入した投資用マンションを税金対策で便宜上「妻」の名義で登記簿に登録していたようなケースで「夫」が自己破産するような場合です。

このようなケースでは、この投資用マンションは登記簿上「妻」が所有権名義人となっていて外見上は「妻」名義のマンションということになりますが、「夫」の資金で購入している以上「夫」固有の資産となりますから「夫」が自己破産する場合には「夫の資産」として裁判所に申告し破産管財人の処理に任せる必要があります。

そうすると当然「夫」の自己破産の手続きでは「夫」の資産と認定されて裁判所に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者への配当に充てられることになるでしょう。

なお、このようなケースでは名義が「妻」になっていることから「夫」の自己破産の申立書に記載しなければ取り上げられなくても済むだろう、と考える人がいるかもしれませんが、そのような行為は「資産隠し」に当たりますので絶対にしてはいけません。

仮にそのように「妻」名義になっていることをいいことに「夫」の自己破産の手続きで裁判所に申告しなかったとしても、破産管財人が夫の資金の流れを過去にさかのぼって調査する段階で「夫」が購入した不動産を便宜上「妻」の名義にしているだけのことはすぐにバレてしまい、そうなれば「財産の隠匿」として免責不許可事由とされたり詐欺破産罪として処罰されることもあるので注意が必要でしょう。

(4)資産隠しが目的で名義を変更しているような場合

資産隠しが目的で家族名義に不動産の名義を書き換えているような場合にも、当然ながらその家族名義の不動産は自己破産の手続きで裁判所に取り上げられて売却されることになります。

例えば、自己破産の手続きを予定している「夫」が、自己破産の申し立てをすることで所有している土地や建物などの不動産が取り上げられてしまうことを防ぐために、自己破産の申し立てを行う前にその自分名義の不動産を「妻」の名義に書き換えてしまうようなケースが代表的な例として挙げられるでしょう。

このようなケースでは、「妻」の名義に書き換えられていたとしても、その不動産は実質的に「夫」の資産なわけですから、自己破産の手続きで裁判所や破産管財人の調査によってその故意に得異議を変更させた事実が判明されれば、その名義変更はなかったものとして「夫」の資産として裁判所に取り上げられ債権者への配当に充てられることになります。

なお、このようなケースも「資産隠し」として免責不許可事由や詐欺破産罪の問題を生じさせますので、このような不当な名義変更は絶対にすべきではないのは言うまでもありません。

(5)相続や遺産分割登記が未了の不動産がある場合

相続登記や遺産分割登記がなされていない状態にある土地や建物などの不動産がある場合で、その不動産に相続権を有している相続人の一部の人が自己破産する場合には、その不動産の持ち分が裁判所に取り上げられてしまう結果、問題を生じさせることがあるので注意が必要です。

たとえば、「父」名義の自宅の土地と建物がある状態で「父」が死亡し、「母」と「長男」と「長女」が相続人として相続しているものの「父」から相続人への相続登記や遺産分割登記がなされない状態のまま、「長男」が自己破産するような場合が代表的な例として挙げられます。

このようなケースでは、「父」名義の不動産については「母」が2分の1の持ち分を、「長男」と「長女」が4分の1ずつの持ち分をそれぞれ相続することになりますが、遺産分割協議がなされておらず、相続登記や遺産分割登記がなされていない状態にあれば、登記簿上は「父」の名義になっていても実質的には「母」「長男」「長女」の3人の共有状態となります。

そうすると、仮に「長男」が自己破産する場合には、その自己破産する「長男」に4分の1の持ち分がある以上、自己破産の手続きでその「長男の持ち分」が裁判所に取り上げられてしまうのは避けれられません。

このようなケースでは、長男の自己破産の手続きで裁判所から選任された破産管財人が「長男」の代わりに「母」と「長女」との間で遺産分割協議をすることになりますが、破産管財人は債権者に最大限の利益となるように行動しなければなりませんので、たとえ「長男」が「その不動産の持ち分を相続したくない」とか「母や妹に相続分を与えたい」などと考えていたとしても、遺産分割協議で「母」や「長女」に持ち分を譲り渡すようなことはできなくなります。

そうすると、その遺産分割協議では「母」や「長女」が「長男」の持ち分を買い取る形にするために「母」や「長女」が破産管財人に対して「長男の持ち分」に相当する金額を支払うようにするか、それともその「父」名義の不動産を売却してお金に換え、破産管財人にはその売却代金のうちの「長男の持ち分である4分の1」だけを持っていってもらうようにして遺産分割協議を終わらせるしかありませんので、通常であれば「母」「長男」「長女」の3人の間で話し合いで解決する問題であっても、金銭を介入させなければならなくなってしまうことになり自己破産とは直接関係のない「母」や「長女」も影響を受けてしまうことになるでしょう。

このように、家族名義の不動産がある場合に、その名義人が死亡して相続が発生したにもかかわらず、遺産分割が未了になっているような場合には、その不動産に相続権を有する一人が自己破産の申し立てを行えば、他の相続人に少なからず影響を与えてしまうことになるので注意が必要でしょう。

最後に

このように、自己破産の申し立てを行う場合には、家族名義の家や土地(不動産)が直接影響を受けてしまうことは基本的にはありませんが、特定のケースではその名義人の家族や相続人等に影響が生じる場合もありますので十分な注意が必要です。

もっとも、ここでご紹介した事例は一例にすぎませんし、内容を分かりやすくするために論点を省略している部分もありますから、自己破産する際に家族名義の不動産の取り扱いに不安を感じている場合には、早めに弁護士や司法書士に相談し、適切なアドバイスを受けて家族への影響が最小限になるように十分な配慮をすることが必要といえます。