経営者が夜逃げ・計画倒産したら従業員はどうするべき?

スタグフレーションに陥っている今の日本では、今後も企業の倒産は増えていくものと思われます。

破綻してしまった企業や個人事業主は、自ら破産手続きを申し立てて事業を清算し、顧客や債権者に与える損害を最小限に抑えるべきですが、中には自分の資産だけを守るため「夜逃げ」してしまうような経営者もいるのが現実でしょう。

では、もし仮に自分が働いている勤務先の経営者が、ある日突然「夜逃げ」同然に行方をくらましてしまった場合にはどうすればよいのでしょうか?

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会社のものを勝手に処分してはいけない

まず、一番気を付けなければならないのは、会社の物を勝手に持ち出したり勝手に処分してはならないという点です。

経営者が夜逃げしてしまった場合、その会社(個人事業も含む)の経営は事実上ストップすることになりますが、その会社に残されている物はあくまでも「その会社の資産」であって従業員が勝手に処分してよいものではありません。

経営者が夜逃げしたとしても、その会社が法人であれば「その法人の資産」であり、その事業主が個人事業主であれば「その夜逃げした個人事業主の資産」として法律上は扱われますから、勝手に持ち出したり「給料を払ってくれないから」という理由で勝手に処分してしまうと横領罪として処罰される可能性さえあります。

また、経営者が夜逃げした場合は、遅かれ早かれその会社と取引のある取引先や顧客などが破産の申し立てを行って会社の資産が精算されるのが通常ですが、その場合は会社の資産はすべて裁判所に取り上げられて売却され、債権者の債権額に応じて配当に充てられるのが原則的な取り扱いです。

にもかかわらず、経営者が夜逃げしたからという理由で勝手に会社の資産を処分してしまったとなると、本来であれば破産手続きの中で債権者への配当に充てられるべき資産を不当に棄損したということで、後々問題になる可能性があります。

ですから、仮に経営者が夜逃げしてしまったとしても、会社の資産を理由もなく処分してしまうことの無いように十分に注意することが必要です。

経営者が夜逃げしてしまうと、残された従業員が顧客からのクレーム等を一身に背負うことになってしまい、「お客様に損害を与えてしまった」という負い目から、会社の商品を無償で顧客に提供したり、顧客に請求されるままお金を支払ってしまうケースも多いかと思います。

しかし、すでに経営が破綻してしまっていることを考えれば、その時点で存在する会社のすべての資産の流出を停止し、のちに裁判所から選任される破産管財人や清算人などに全ての資産を引き継いで裁判所の処分にゆだねる必要があるということは、十分に認識しておくべきことであろうと思います。

給与が未払いになっている場合でも心配することはない

経営者が夜逃げしてしまう場合は会社の資金も持ち逃げされているのが通常ですから、従業員の給料も未払いになる可能性が高いと思った方がよいでしょう。

しかし、その場合であってもそれほど心配する必要はありません。

なぜなら、たとえ雇い主が破綻して倒産してしまった場合でも、国が設立した独立行政法人労働者健康福祉機構が取り扱っている「未払い賃金の立替払制度」の申請を行えば、未払いとなっている「賃金」や「退職金」の80%に相当する金額の支給を受けることが保障されているからです。(賃金の支払の確保等に関する法律第7条)。

【賃金の支払いの確保等に関する法律7条】

政府は、労働者災害補償保険の適用事業に該当する事業(中略)の事業主(中略)が破産手続開始の決定を受け、その他政令で定める事由に該当することとなった場合において、当該事業に従事する労働者で政令で定める期間内に当該事業を退職したものに係る未払賃金(中略)があるときは、民法(中略)第474条第1項ただし書及び第2項の規定にかかわらず、当該労働者(中略)の請求に基づき、当該未払賃金に係る債務のうち政令で定める範囲内のものを当該事業主に代わって弁済するものとする。

この未払い賃金の立替払い制度を利用する場合は、独立行政法人の労働者健康福祉機構の方に自分自身で未払い賃金の立替払い請求を申請しなければなりませんが、その未払いを起こしている会社(個人事業主も含みます)が事実上「倒産」または「破産または精算手続きが開始」されているような場合であれば、問題なく支給されるのが通常です。

ですから、たとえ経営者が夜逃げして会社に資金が1円もない状況にあり、給料や退職金の全額の支給は受けられないとしても、その金額の80%に相当する金額は「国」が支給してくれることは間違いありませんので、給料の未払いに関してはそれほど心配する必要はないのではないかと思います。

(※ただし、未払い賃金の立替払いの申請をしてから実際に未払い分の80%の賃金が支給されるまでは数か月の期間を要するため、その期間の生活費については雇用保険の失業給付(失業保険)を利用するか自分で働いて捻出しなければなりませんが…)

なお、この労働者健康福祉機構の実施する未払い賃金の立替払い制度の詳細や申請方法などについてはこちらのページを参考にしてください。→未払賃金の立替払事業|独立行政法人労働者健康福祉機構

残された従業員は、顧客の被害を最小限に抑えるためにできる範囲で対処した方がよい(と思う)

前述したように、経営者が夜逃げして勤務している会社が事実上”倒産”してしまったとしても、そこで働く従業員の給料は80%までは国が保障してくれることになっていますので、後に残された従業員は経営者がいなくなった後の残務処理もある程度行えるのではないかと思います。

ですから、仮に経営者が夜逃げした場合であっても、顧客や取引先に大きな混乱を与えないように出来うる範囲で残務処理を行う方がよいのではないでしょうか。

特に、事業が継続できないことによって顧客が大きな損失を受けるような状況が発生している場合には、できる範囲で顧客に対応した方がよいのではないかと思います。

もちろん、残された従業員としても次の仕事を探す必要があったり自分の生活も心配になる面があるでしょうから一概には言えませんが、何ら落ち度のない顧客が大きな損失を受ける状況が現実に発生しているのであれば、給料の80%は国が保障してくれている意味を考えて、出来うる範囲で対応するのが正解なのではないかと思います。

(※可能であれば被害を被っている顧客に対して弁護士に相談するよう促したり、顧客側から債権者の立場で会社の破産申立てを行うなどしてもらうようアナウンスしたうえで、裁判所から破産管財人が選任されて会社の資産が引き継がれるまで会社の資産が流出しないように適切に管理するなどしてもよいのかなと思いますが、実際はそれが難しい場合もあるかもしれませんのでケースバイケースで対応するしかないかもしれません)