地球の平和を守るため、遠い宇宙のかなたからウルトラマンが訪れてから早くも半世紀の月日が流れました。
この間、ウルトラマンは科学特捜隊のハヤタ隊員として、またある時は宇宙警備隊隊員のウルトラマンとして、数多くの宇宙怪獣と戦ってきたわけですが、地球上におけるそのほとんどの期間を「ハヤタ隊員」という人間の姿で生活している以上、なにがしかの負債を抱えてしまっている可能性も否定できません。
なぜなら、ウルトラマンといえどもハヤタ隊員として日常生活を送っているわけですから、時には銀行のカードローンやクレジット会社のリボ払いを利用することもあるかもしれませんし、もしかしたら住宅ローンを組んでいることも十分に想定できるからです。
また、ウルトラマンはこれまで数多くの宇宙怪獣と戦ってきたわけですが、地球を守るために仕方なかった面があるとしても、その戦闘中に数多くのビルや住宅、田畑や山林、公共施設やインフラ等を破壊しまくってきたことは事実なのですから、ともすればそれらの被害を受けた住民や企業、国や自治体などから多額の損害賠償請求を受けている場合も考えられます。
では、もし仮にそのような負債を抱えたウルトラマンが何かのきっかけで返済に窮することになってしまった場合、ウルトラマンはウルトラマンとして、あるいはハヤタ隊員として自己破産を申し立てて借金の返済義務から逃れることができるのでしょうか?
ここでは、ウルトラマンが自己破産の申し立てを行うことができるのか、また、自己破産できるとすれば具体的にどのように申立書を作成し、どのように手続きを進めて行けばよいのか、という点についてごく簡単に検証してみることにいたしましょう。
日本人ではないウルトラマンが自己破産を申し立てることができるか?
ウルトラマンが自己破産できるかということを考えるためには、まずウルトラマンがそもそも日本国内で自己破産の申立てを行うことができるのか、という点を考える必要があります。
ウルトラマンは通常、「ハヤタ隊員」として活動していますが、実際の「ハヤタ隊員」はウルトラマンと宇宙怪獣ベムラーとの戦闘に巻き込まれた時点ですでに死亡しており、現在の「ハヤタ隊員」はウルトラマンから命の一部を与えられて存在するだけの「ハヤタ隊員の精神・身体を借りたウルトラマン」に過ぎませんので(wikipedia:ウルトラマン参照)、その実態はウルトラマンであるとの解釈も成り立ちます。
そうすると、今存在している「ハヤタ隊員」はそれまで存在していた「ハヤタ隊員」ではなく「すでに死亡したハヤタ隊員に命を分け与えることでハヤタ隊員と一心同体になったウルトラマン」ということになり、形式的には「ハヤタ隊員」に見えてもその実質は「ウルトラマン」に他なりませんので、日本国民ではない「ウルトラマン」という宇宙人が日本国で制定された破産法の手続きに従って手続きを進めることができるのか、という点が問題となるのです。
しかし、この点については心配いりません。なぜなら、破産法の3条で破産手続きにおいては外国人であっても日本人と同一の地位を有することが認められているからです。
【破産法3条】
外国人又は外国法人は、破産手続、第12章第1節の規定による免責手続(中略)及び同章第2節の規定による復権の手続(中略)に関し、日本人又は日本法人と同一の地位を有する。
ウルトラマンも日本人以外という点では「外国人」といえますから、ウルトラマン(ウルトラマンから命の一部を与えられて生存している死亡したハヤタ隊員)も自己破産の申し立てをすることができるということになります。
ちなみに、ウルトラマンが自己破産する場合の申立書は、ウルトラマンが地球上で生活している状態のハヤタ隊員が居住する住所地を管轄する地方裁判所に提出すれば差し支えありません。
ウルトラマンが自己破産する場合の申立人の欄の記載方法
自己破産の申し立てを行う場合、申立書に申立人の記名押印が必要となりますが、本名以外に通称などを利用している場合は、申立書の申立人の欄に「(通称)こと(本名)」などと記載するのが一般的です。
この点、先ほども述べたようにウルトラマンの場合は「ハヤタ隊員」として日常生活を送っているものの「ハヤタ隊員」は既に死亡しており、ウルトラマンの命の一部を与えられることによって「ハヤタ隊員」として存在しているだけであって、「ハヤタ隊員」の精神や肉体に「ハヤタ隊員」が宿っているといっても、その本質はウルトラマンであって「ハヤタ隊員」はウルトラマンが地球で存在するうえでの「借り物」にすぎないという解釈も成り立ちます。
そう考えるとウルトラマンの本名は「ウルトラマン」で通称が「ハヤタ隊員」ということになりますから、ウルトラマンが自己破産する際の申立書の申立人の欄には
『ハヤタ隊員ことウルトラマン』
と記載することになるでしょう。
なお、このように記載した場合には、自己破産の申立人は「ウルトラマン」となりますので、申立書に押印する認印も「ウルトラマン」の印鑑を使用することが必要ですが、ウルトラマンは日常生活では「ハヤタ隊員」として暮らしているため「ウルトラマン」としての認印は所有していないはずです。
そのため、とりあえず「ハヤタ隊員」の認印を押印しておけば足りると思いますが、裁判所から補正の指示があった場合は、ウルトラマン名義の印鑑を作成して押印し直すか、ウルトラマン名義の印鑑を作れない事情を記載した上申書を裁判所に提出し裁判官に理解を求めるといった対応をするしかないでしょう。
M78星雲に所有する資産も記載しなければならないか?
自己破産の申立書には、自己破産の申立人が所有する資産をすべて記載しなければなりません。
なぜなら、破産手続きは債務者の負担する債務の返済義務を免除「(免責)」する手続きであるとともに、その債務者の所有する資産と負債を「精算」する手続きでもありますから、申立時に債務者が所有する資産がある場合には、自由財産として保有が認められるものを除いてすべて裁判所が取り上げて売却し、その換価代金を債権者に分配する配当手続きを実施しなければならないからです。
この点、ウルトラマンが自己破産する場合に「ウルトラマン」だけの資産を記載すればよいか、それとも「ハヤタ隊員」の資産も記載しなければならないのか、という点が問題となりますが、ウルトラマンが地球上では「ハヤタ隊員」として生活している以上、「ハヤタ隊員」の資産も「ウルトラマン」の資産であることに変わりはないと思われますので、ウルトラマンが自己破産する場合も申立書の財産目録(資産説明書)には、「ウルトラマン」固有の資産だけでなく、「ハヤタ隊員」名義となっている資産もすべて記載する必要があるでしょう。
なお、この場合ウルトラマン固有の資産として生まれ故郷のM78星雲光の国に所在する資産も記載しなければならないのか、という点が問題となりますが、破産法では債権者の配当に充てられる財産(法律上は「破産財団」といいます)は「日本国内にあるかどうかを問わない」と規定されていますので、M78星雲に所在する資産であってもその資産価値が20万円(日本円に換算して20万円ということ)を超えている限り、申立書に記載する必要があります(※なぜ20万円が基準となるかについては→自己破産ではどんな場合に管財事件になるの?)。
【破産法第34条】
第1項 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
もちろん、仮にM78星雲の光の国に所在する財産があったとしても、裁判所から選任された破産管財人が現実にその資産を取り上げて換価することは、現代の地球上の科学技術では到底不可能でしょうから、実際にM78星雲の光の国に所在する財産が取り上げられてしまうことはないと思います。
しかし、申立書には所有する全ての資産を嘘偽りなく記載することが求められますし、その資産が回収可能か否かを決定するのは破産管財人の調査結果を受けた裁判官なのですから、「実際に回収する手段がない」ような資産であったとしても記載を省略したりしないようにしなければなりません。
なお、この場合、M78星雲光の国に所在する資産をどのように財産目録(資産説明書)に記載するかが問題となりますが、たとえば
「M78星雲光の国の土地 広さ約△★%?♦ 評価額 不明」
などと記載しておき、別途上申書を作成するなどして資産の現状などを説明すれば問題ないでしょう。
宇宙怪獣との戦いの際に破壊した施設等の損害賠償債務は自己破産の免責の対象となるか?
先ほども述べたように、ウルトラマンが宇宙怪獣と戦闘した場合には、その戦闘行為によって街が破壊されてしまうこともありますので、ウルトラマンはその戦闘によって被害を受けた住民や企業、自治体や国などから損害賠償請求を受けてしまう可能性があります。
もちろん、戦闘の最中に街を破壊した場合であっても、それは「ハヤタ隊員」として活動するウルトラマンが科学特捜隊の業務の延長上でウルトラマンに変身して戦っただけであって、あくまでも科学特捜隊という組織の一員として業務中に行ったことですから、法律的に考えるとその責は科学特捜隊が負担するべきものであってウルトラマン(ハヤタ隊員としてのウルトラマン)が負担しなければならないものではありません。
しかし、宇宙怪獣との戦闘で実際に住居や施設を破壊された被害者からしてみれば、「ウルトラマンがゼットンを投げ飛ばさなければ家が潰されることもなかった」とか「ウルトラマンがスペシウム光線を飛ばしたばかりに畑の作物が焼失してしまった」などという認識がありますから、その請求が認められるかは別にして「ウルトラマン本人」が被害者から損害賠償請求を受けてしまう可能性は否定できないでしょう。
そのため、ウルトラマンが自己破産の申し立てを行う場合には、それらの損害を受けた住民や企業、自治体や国などを債権者として、またその被害額を債務として申し立てを行い、その戦闘で発生した損害賠償請求を自己破産の免責の対象として扱ってもらう必要があるのですが、その場合に、そのような損害賠償債務が自己破産の免責の対象となるのかという点が問題となります。
なぜなら、破産法では「故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」が非免責債権とされており、そのような損害賠償債務は自己破産の申し立てを行っても免責を受けることができないからです。
【破産法253条】
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一~二(省略)
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
四(以下省略)
しかし、ウルトラマンが宇宙怪獣と戦うシチュエーションでは、その時点で宇宙怪獣は街や工場地帯あるいは農地等を蹂躙し、破壊活動を行っている最中がほとんどで、そのままにしておいては被害が拡大するだけですから、たとえ住宅や周辺の施設等に被害が出たとしても、緊急性を要するやむを得ない行為であって、ウルトラマンにはないとも言えます。
また、住宅や施設等に損害が発生したとしても、ウルトラマンが「故意に」スペシウム光線を住宅や施設等に浴びせたわけではないでしょうし、「積極的に街を破壊しようと思って」バルタン聖人やジャミラを投げ飛ばしたわけではないはずです。
それに、暴れまわる宇宙怪獣を倒すためにはそれなりの格闘も必要不可欠であると考えられますから、仮にウルトラマンの戦闘によって街が破壊され、そのウルトラマンの行為に多少の過失があったとしても「重大な過失」があったとまでは言えないはずです。
そうすると、ウルトラマンが戦闘中に街を破壊した際に発生する損害賠償債務は「故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為」に基づくものとはいえず、非免責債権にはあたらないことから免責の対象になると考えられますので、自己破産の申立書の債権者一覧表にその損害賠償債務を記載して申し立てを行い、免責が受けられた場合には、それらの損害賠償債務の支払い義務は全て免除されることになるでしょう。
審問には「ウルトラマン」として出廷すべきか、それとも「ハヤタ隊員」として出廷しても問題ないのか?
自己破産の申し立てを行った場合には、裁判所で裁判官から質問等を受ける「審問」が行われるのが通常です。
審問は、裁判所の事務室やラウンドテーブル法廷などで行われるのが通常ですが、いずれにせよ裁判所から審問に出廷するように求められた場合には、申立人本人が裁判所に出向いて裁判官の質問に答えなければならないことになります。
ところで、ウルトラマンが自己破産の申し立てをした場合にこの「審問」が行われる場合には、「ウルトラマン」としての姿で出廷すればよいのか、それとも「ハヤタ隊員」の姿で出廷すればよいのか、という点が問題となります。
ウルトラマンが自己破産の申し立てを行う場合には、申立人はあくまでも「ウルトラマン」であって「ハヤタ隊員」ではありませんから、本来であれば「ウルトラマン」の状態で出廷し、裁判官の審問を受けるべきですが、ウルトラマンは「シュワッチ」とか「ジョワッ」とか回答したところで裁判官には伝わりませんのでコミュニケーションの点で問題が生じます。
また、仮に日本語で会話が可能であったとしても、ウルトラマンの状態では最大でも3分程度しか審問を受けることができませんから、通常の審問が最低でも10分から20分程度必要な面を考えると、ウルトラマンとして審問を受けるのは事実上無理があるでしょう。
このような場合にどうすればよいかというと、一番良いのは事前に上申書などを使って「ウルトラマンで出廷するとコミュニケーションの面で難があること」や「ウルトラマンとして出廷すると時間的制約があること」説明しておくことです。
事前に十分に説明を行い、裁判官にその事情を理解してもらえれば「ウルトラマン」としてではなく「ハヤタ隊員」として出廷することも認められるのが通常ですので、手続きを依頼する弁護士や司法書士に事前に事情を説明し、上申書を作ってもらうなどして裁判所の理解を受けるようにしておいた方が無難でしょう。
自己破産をすると、ハヤタ隊員がウルトラマンであることがバレてしまうか?
ウルトラマンが自己破産する場合に一番気になるのが、自己破産することによって「ハヤタ隊員」として生活する自分が、宇宙怪獣と戦って地球の平和を守っている「ウルトラマン」であるということが世間一般にバレてしまうことです。
自己破産する場合は当然、官報に氏名と住所が掲載されますから、仮に先ほど述べたように申立書の申立人の欄に「ハヤタ隊員ことウルトラマン」と記載して申し立てを行った場合は、官報に「ハヤタ隊員ことウルトラマン」として掲載されてしまい、その官報の記載によって世間に「ハヤタ隊員」と「ウルトラマン」の同一性が知られてしまうことになるでしょう。
もちろん、官報を毎号チェックしている人はほとんどいないわけなので、普通の人が自己破産する場合には官報に名前が掲載されることで自己破産したことがバレてしまう可能性はありません。
しかし、「ウルトラマン」ほどの有名人が自己破産したとなると、仮に誰かにその官報を見られてしまえば、Twitterなどにその官報の写真を挙げられて拡散されてしまうことは容易に想像できますから、一般の人が自己破産する場合と異なり、ウルトラマンが自己破産する場合には官報への掲載によって自己破産したことがバレてしまう可能性は格段に高いといわざるを得ないでしょう。
もっとも、自己破産した場合には「その自己破産の申立人が自己破産した」という内容の通知書が裁判所から全ての債権者に宛てて郵送されることになりますので、その裁判所からの通知書に債務者の名前として「ハヤタ隊員ことウルトラマン」と記載されることを考えれば、そもそもウルトラマンが自己破産する場合に「ハヤタ隊員」と「ウルトラマン」の同一性が知られてしまうことは避けられないものと考えられます。
また、ウルトラマンの戦闘行為によって被害を受けた住民や企業等からの損害賠償債務を自己破産の免責の対象とする場合には、その被害を受けた全ての住民や企業等がウルトラマンの自己破産手続きにおける債権者となる結果、手続き上はそれらすべての住民や企業等に裁判所から「ハヤタ隊員ことウルトラマンが自己破産しましたよ」という通知がなされることになりますので、いずれにせよ世間一般に「ハヤタ隊員」と「ウルトラマン」の同一性が知られてしまうことを防ぐことは不可能といえます。
ですから、ウルトラマンが自己破産すると決意した場合には、ウルトラマンがハヤタ隊員であることを隠し通すことはできないと考えておいた方がよいかもしれません。
最後に
以上のように、たとえウルトラマンであっても、返済しなければならないほどの債務を抱えてしまった場合には、世間一般に「ハヤタ隊員」が「ウルトラマン」であることが知られてしまうリスクがあるとはしても、自己破産の申し立てをすることによって借金の返済義務から逃れることは可能であることがわかります。
ですから、ウルトラマンに限らず、借金の返済が滞っている場合には、速やかに弁護士や司法書士に相談し、適切な助言を受けて早めに自己破産の手続きを進めていくこと何より大切であるといえるのです。