自己破産は借金の「踏み倒し」になるのか?

「自己破産」と聞いた場合、皆さんはどのようなイメージを持つでしょうか?

おそらく、ほとんどの人が自己破産に好意的な印象を持っていないのではないかと思います。

中には、借金を合法的に「踏み倒す」ことを認める道徳に反する手続きだと厳しい意見を持っている人もいるのが現実でしょう。

しかし、自己破産の手続きを定めた破産法という法律を読めば、自己破産が借金を「踏み倒す」ような道徳的に責められるべき手続きではないことがわかります。

なぜなら、破産法では破産手続きを、借金を返済できない債務者のためだけではなく、債権者の保護を目的とした規定として定めているからです。

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破産手続きは債務者の資産を「精算」する手続き

自己破産が借金を「踏み倒す」手続きでないことの理由の最たる点は、破産手続きが借金の返済義務を免除するためだけの手続きではなく、債務者の保有する資産とその負担している債務を「精算」し、債権者への配当を行うことによって債権者の損失を最小限に抑えるための手続きでもあるという点です。

【破産法1条】

この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。

確かに、自己破産の手続きは裁判所から免責の決定を受けることによってそれまで発生している債務について法的に返済義務を免除してもらう手続きですから、その「返済義務を免除してもらう」という点を強調すれば借金を「踏み倒す」ということも言えるのかもしれません。

しかし、この破産法1条に規定されているように、破産手続きは「債務者の財産等の清算に関する手続」の側面も有しており、その保有する資産は”自由財産”として保有が認められるものを除いてすべて裁判所に取り上げられて換価され、その換価代金が債権者に分配されるという配当手続きの性質も有しているのが現実です。

ですから、債務者が破産手続きで免責を受ければ「借金から逃れられる」とはいっても、そのためには原則としてすべての資産が債権者への配当に充てられることは避けられず、全くの「ゼロ」から再スタートをすること余儀なくされることになることを合わせて考えた場合には「踏み倒す」という言葉は適当とは言えないでしょう。

「踏み倒す」というのは借金を返さないで「逃げる」意味合いで使われますが、破産手続きにおいては「逃げる」ことは許されず、清算手続きを経なければ免責(借金の返済義務が免除されること)は認められないわけですから、借金を「踏み倒す」ことにはならないのです。

破産手続きがなければ債権者の早い者勝ちになる

自己破産が借金を「踏み倒す」ことだと考えている人は、仮に「破産」という手続きがなかった場合のことを考えてみる必要があります。

先ほども述べたように、自己破産の手続きは債務者の資産と負債を「精算」し、債権の支払いを受けられない債権者に対して債務者の保有する資産を配当する手続きでもありますが、もし仮に破産法で定められた破産手続きが存在せず、この「精算」手続きも行われないとしたら、債務者の資産はどのように扱われるでしょうか?

もし仮にその債務者がずる賢い人間であった場合には、いわゆる「夜逃げ」をして資産を持ち逃げし行方をくらましてしまうかもしれません。

そうなると、破産手続きが無いことによってかえって債権者は「損」をしてしまわないでしょうか?

また、もし仮にその債務者が債務を負担している債権者の中に、大企業など資力の優れた債権者がいた場合には、その資力に勝る債権者が優秀な弁護士を雇っていち早く訴訟を提起して債務者の資産を独自に差し押さえを行い、その差し押さえた財産を独占的に換価して自分の債権だけを回収する手段に出てしまうかもしれません。

そうなるとどうでしょう?…破産手続きが無いことによって、資金力の勝る一部の債権者だけが債務者の資産から債権を回収することができる一方で、資金力や人的資源の少ない債権者が債務者の資産から何も回収できなくなり、不公平な結果となってしまわないでしょうか?

このように、「破産」という手続きが無いということは、債務者の「逃げ得」を許す不都合な結果を生むだけでなく、債権者間の不平等をも生じさせる結果にもつながりますから、債権者の保護という観点から考えれば到底妥当な結論と言えません。

先ほども挙げた破産法の第1条にも規定されているように、「破産」の手続きは「債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整」する手続きであるとともに、「債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図る」ことを目的とした手続きなのですから、そのような目的を全く考えず、ただ債務者が借金の返済義務が免除される点だけをとらえて「自己破産は借金を踏み倒すことだからけしからん」と非難することは適当な議論とは言えないのです。

最後に

以上のように、自己破産に代表される破産手続きは、債務者の負担する負債の返済義務を免除する手続きであるとともに、債務者の資産を「精算」する手続きであって、債権者の保護と債権者間の利害関係の調整を目的とした「債権者のための手続き」という側面も有しているのが現実です。

このような破産手続きの本来の目的を考えれば、自己破産することは借金を「踏み倒す」というような道徳的に責められるべきものではなく、すべての人に認められた正当な生活再建方法であると認識すべきであって、決して他人から後ろ指さされるようなものではありませんので誤解の無いようにしていただければと思います。