自己破産で資産(財産)隠しがバレたらどうなる?

自己破産の申し立てを裁判所に行い裁判所から免責が出されれば、それまで負担しているすべての債務(借金)の返済義務が法的に免除されることになります。

ただし、自己破産の手続きは借金の返済義務を免除する手続きであるとともに、債務者の資産(財産)と負債(借金)を清算する手続きでもありますから、債務者に一定の資産(財産)がある場合には、その資産が裁判所に取り上げられてしまうことは事実上避けられません。

自己破産の手続きでは債務者の資産(財産)を売却しその売却代金を債権者に分配するための配当手続きが実施されるため、その前提として債務者の資産(財産)を裁判所で管理する必要があるからです。

ところで、自己破産の申し立てをしようと考えている人の中には、このようにして自分の資産(財産)が裁判所に取り上げられてしまうことを防ぐため、自己破産の申し立て前に自分の財産を隠したり、家族や友人名義に所有権名義を変更して資産(財産)の喪失を図ろうと考える人が少なからずいるようですが、そのような資産隠しを行った場合、実際の自己破産の手続きではどのような問題が生じうるのでしょうか?

資産隠しがうまくいくものなのか、また、仮に裁判官や破産管財人に資産隠しがバレてしまった場合、具体的にどのような不利益を受けてしまうのか、といった点が問題となります。

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資産(財産)隠しは必ずバレると思った方がよい

まず最初に断っておきたいのが、自己破産の申し立てをする前に自分の資産(財産)を隠したとしても、自己破産の手続きが開始されれば必ずバレるという点です。

というよりも、自己破産の手続きを弁護士や司法書士に依頼した場合には、申立書を作る段階の弁護士や司法書士の調査の段階でバレてしまうのが普通でしょう。

資産隠しを図ろうとする債務者の人は一生懸命考えて資産隠しがバレないように準備を重ねているのでしょうが、いくら上手に隠したとしても、預金通帳や取引履歴に表示される過去の履歴であったり、資産関係の書類であったりを調べていけば、必ずどこかにその足掛かりとなる痕跡が残されていたりするものです。

一つでもそういった債務者の話と実際の書類上の記載につじつまの合わない部分が見つかれば、その疑問が完全に解消されない限り弁護士や司法書士は申立書を裁判所に提出することができませんので、普段調べないような過去の取引や細かい金額の資産の処理まで入念に調べられることになり、いずれはバレてしまうことが多いのです。

また、仮に依頼する弁護士や司法書士をうまく騙せたとしても、裁判所に申立書を提出すれば毎月数百件の事件を処理している書記官に細かくチェックされ、その時点でバレることも多いですし、管財事件として処理される案件では裁判所から選任される破産管財人(通常は裁判所に備え置かれている管財人名簿に登録された弁護士が指名されます)に入念に調査される際にバレてしまうのが通常ですから、資産隠しをバレずに手続きを終わらせることは事実上不可能と考えておいた方がよいでしょう。

嘘というものは、一旦嘘をつくとその嘘を正当化するためにまた別の嘘を付く必要が生じるのが通常で、その嘘を隠すため付いた嘘を隠すためにまた別の嘘をついてさらにその嘘の嘘を隠すために……といった具合に際限なく嘘を重ねなければならなくなり、必ずどこかでボロが出てしまうものです。

哲学的に考えれば、この世の出来事はすべて物事の真理で構成されているのであって真理と異なる嘘はそれが真理でない以上、この世に存続し続けることはできません。

資産隠しの事実を隠し通すことは手続き的にも哲学的にも不可能といえるのですから、資産隠しは必ずバレるものと考えた方がよいのです。

資産(財産)隠しがバレてしまった場合に起こりうる重大な問題

このように、自己破産の申し立てをする前に資産隠しを行ったとしても、その嘘は必ずバレるものといえますので、資産隠しがバレることなく自己破産の手続きを終了させることは不可能と考えたほうがよいと思います。

なお、資産(財産)を隠した事実が、もし仮に自己破産の申立書を裁判所に提出した後に裁判所や破産管財人にバレてしまった場合には、次のような不利益が生じる危険性があることを十分に認識しておくべきでしょう。

(1)免責不許可事由に該当し免責が受けられなくなってしまう危険性

自己破産の手続き上で行われる調査等によって資産隠しがバレてしまった場合には、免責不許可事由に該当することになり免責(借金の返済義務が免除されること)が受けられなくなってしまうのが通常です(破産法第252条1項1号)。

【破産法第252条1項】
裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする
一 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
二(以下省略)

免責が不許可となれば当然、その自己破産の対象として申し立てた債務(借金)の返済義務は免除されなくなるわけですから、資産隠しを行ったばかりにその債務(借金)をその後の人生のすべてをかけて返済し続けなければならないことが確定してしまいます。

もちろん、免責不許可事由がある場合であっても破産法には「裁量免責」という裁判官の「裁量」によって特別に免責が認められる制度もありますが(破産法第252条2項)、資産隠しの態様が悪質なケースではその「裁量免責」すら認めてもらえなくなる危険性も生じてくるでしょう。

【破産法第252条第2項】
前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。

このように、資産隠しが必ずバレてしまうことを考えればそもそも資産隠しをすること自体無駄ですし、それがバレれば免責も受けられなくなってしまう危険性があるのですから、資産隠しなどするべきではないといえるのです。

(2)詐欺破産罪に該当し刑事責任を問われる危険性

また、自己破産の申し立て前に資産隠しを行い、その事実が自己破産の手続き上で明らかとなった場合には、破産法265条1項1号に規定されている詐欺破産罪として処罰される危険性があることも十分に認識しておくべきでしょう。

【破産法265条1項】
破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(中略)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(中略)。
一 債務者の財産(省略)を隠匿し、又は損壊する行為
二(以下省略)

自己破産の手続きをよく知らない一般の人にとっては意外かもしれませんが、自己破産の手続きにおける「資産隠し」は「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金」に処せられる極めて重い犯罪行為となりますので、絶対に行ってはならないといえるのです。

必要な資産(財産)は「自由財産の拡張」をすることで保全できるので、そもそも「資産隠し」をする必要性はない

以上のように、自己破産の申し立て前に資産(財産)を隠したとしても手続きの途中で必ずバレてしまいますし、いったんバレてしまえば免責が受けられなくなったり詐欺破産罪で刑事責任を問われる事態にもなりかねないわけですから、自己破産を予定している債務者が資産隠しを行うことは何のメリットもないただ危険で重大な不利益を受けるだけの無駄な行為であるということがいえます。

それに、そもそも自己破産の手続きでは、裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられるような資産(財産)であったとしても、「自由財産の拡張」の申し立てを行うことによって裁判官に特別に自由財産と認定してもらい、自己破産後もそのまま所有し続けることが認められているわけですから(破産法第34条4項)、そもそも資産隠しをする必要性自体存在しないともいえます。

【破産法第34条4項】
裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。

ですから、どうしても裁判所に取り上げられてしまうという資産(財産)がある場合には、それを事前に隠すような姑息な真似をするのではなく、「自由財産の拡張」といった正当な手続きを使って財産の保全に努めることが肝要と言えるのです。

最後に

このように、自己破産の手続きで「資産隠し」をすることは、免責が受けられなくなるばかりでなく詐欺破産罪という極めて重い犯罪行為として処罰される可能性すらありますので、絶対にやってはいけない行為と言えます。

また、どうしても必要な資産については「自由財産の拡張」の手続きもあるわけですから、そのような資産(財産)があるのであれば、隠そうなどと不当な考えを抱くのではなく、早めに弁護士や司法書士に相談し、どうすれば自由財産の拡張の申し立てが認めてもらえるか十分に検討して適切な申し立てを行うことに尽力するべきといえるでしょう。