自己破産ではギャンブルの事実は隠すべき?隠してもバレる?

パチンコやスロット、競馬競艇競輪などの公営ギャンブルが理由で借金を重ねた人が自己破産する場合、その事実が手続きに負の影響を及ぼすことは避けられません。

なぜなら、自己破産の手続きではギャンブル等の「射幸行為」が免責不許可事由として規定されていますから、その事実が裁判所に知られてしまうことは免責(自己破産で借金の返済義務が免除されること)に負の影響が生じますし(破産法第252条1項)、またその射幸行為を行って資産を減損させてしまった場合には債権者の配当に充てられるべき資産を目減りさせたものとして詐欺破産罪に問われてしまう危険性も生じてしまうからです(破産法第265条1項)。

【破産法第252条第1項】
裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
1号~3号(省略)
4号 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
【破産法265条1項】
破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(中略)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(中略)。
一 債務者の財産(省略)を隠匿し、又は損壊する行為
二 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
三 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
四 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為

そのため、自己破産の申し立てをする際には、そのギャンブル等の事実を正直に申告すべきか否かが問題になるわけですが、では実際に自己破産の申し立てをする場合、自己破産前に行ったギャンブル等の行為はできるだけ隠した方がよいのでしょうか?

それとも、裁判官や破産管財人に正直に申告し、裁判所の判断に委ねるべきなのでしょうか?

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ギャンブル等の事実は正直に申告しなければならない

結論からいうと、自己破産に至る原因にパチンコやスロット、競馬競艇競輪などの公営ギャンブルでの遊興があったのであれば、それを正直に申告することが求められます。

なぜなら、自己破産の手続きでは、裁判官の「審尋」の手続きにおいて聴取される事項の説明を拒んだり事実とは異なる説明を行うことや、破産管財人への説明を拒否ないし虚偽の説明をしたり、破産管財人の検査を拒否することが刑事罰をもって禁止されているからです(破産法第271条、同法第268条)。

【破産法271条】
債務者が、破産手続開始の申立て(中略)又は免責許可の申立てについての審尋において、裁判所が説明を求めた事項について説明を拒み、又は虚偽の説明をしたときは、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
【破産法268条】
第四十条第一項(中略)の規定に違反して、説明を拒み、又は虚偽の説明をした者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(以下省略)

自己破産の原因にギャンブル等の射幸行為があったにもかかわらずそれを故意に隠したり、裁判官や破産管財人からの質問に「ギャンブルの事実はない」などと虚偽の説明を行うこと自体が犯罪行為になるわけですから、その事実を隠すことは事実上認められるものではないのです。

また、裁判官や破産管財人が行う調査に嘘の申告をした場合には免責不許可事由に該当するものとして自己破産の免責(借金の返済義務が免除されること)が受けられなくなることもあるわけですから、その危険性を考えてもギャンブル等の射幸行為の事実を隠すことは認められるものではないでしょう。

【破産法第252条】
第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
第1号~7号(省略)
第8号 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。
(以下、省略)

ですから、自己破産に至る原因にパチンコやスロット、競馬競艇競輪などの公営ギャンブルにおける遊興があったのであれば、それを正直に申告しなければならないといえるのです。

隠したとしても必ずバレる

このように、自己破産の手続きにおいてギャンブル等の射幸行為の事実を隠したり「やっていない」と虚偽の説明をすることは免責不許可事由や詐欺破産罪の問題を生じさせます。

この点、「バレないようにうまく隠せばよいではないか」と思う人もいるかもしれませんが、それは事実上不可能です。

なぜなら、預金通帳や取引履歴などを見ればギャンブルをしていることはすぐにわかるからです。

(1)預金通帳の記載などでバレることも多い

預金通帳の履歴を調べると、週末ごとに1日で2万円、3万円などの出金記録が残されていることがありますが、こういった出金記録を残している人はたいていの場合パチンコや競馬、競輪などギャンブルをやっているものと想定されます。

なぜなら、パチンコやスロットをする人は負けが込むと2万、3万、と立て続けにお金を突っ込むことが多いので、週末の同じ日にATMで2万円、3万円と引き出すことが必然的に多くなるからです。

ですから、週末ごとに1日で2万円、3万円などの出金記録が残されている通帳の履歴がある人は、裁判所や破産管財人の方でも「こいつはギャンブルやってるな」という目で厳しく調査を行うことになります。

そうすると当然、いくらギャンブルの事実を隠しても、手続きの途中でバレてしまうことになります。

(2)取引履歴でバレることも多い

貸金業者が発行する取引履歴の場合も同様です。

取引履歴にも週末ごとに1日で2万円、3万円などの出金記録が残されていることがありますが、こういった出金記録を残している人も(1)の場合と同様に、たいていはパチンコや競馬、競輪などの負けが込んで、その負けを取り返すために借り入れを起こしていることが想定されます。

ですから、取引履歴にそのような借り入れ履歴が残っている人も、「こいつはギャンブルやってるな」という目で厳しく調査がなされることになりますので、いくらギャンブルの事実を隠しても、手続きの途中でバレてしまうことになります。

(3)その他の資料等でバレることも多い

このように、裁判所や破産管財人は預金通帳の履歴や取引履歴の出金記録を過去にさかのぼって詳細に調べてゆきますから、その過程でギャンブルの事実がバレてしまうことはよくあります。

また、これら以外の資料からもバレることはよくありますので(ここであまり詳しく説明してしまうとそういった証拠が残らないように不正な行為をする人が出てくるのでこれ以上の説明は控えます)、ギャンブルの事実を隠しても必ずバレるものと思っておいた方がよいです。

隠してバレるより最初から正直に申告した方が裁判官や破産管財人の心証はよくなる

このように、たとえギャンブル等の事実を隠しても手続き途中の調査で簡単にばれてしまうことが予想されるのですから、下手に隠したりせず最初から正直にその事実を申告し、裁判官や破産管財人の理解を受ける方がよほどマシです。

そもそも破産手続きは返済したくても返済できない債務者の経済的再建を目的とした手続きですから、いくら射幸行為が免責不許可事由になっているとはいっても、裁判官や破産管財人からしてみればできるだけ免責を認めようと考えるのが通常です。

免責不許可事由に該当するからといって免責を不許可にしてしまうと、借金の返済ができない債務者が社会に放り出されることになり社会不安を増大させるだけなので、犯罪行為(詐欺や恐喝など)が絡む事件性のある案件でもない限り、通常の多重債務の案件であれば多少のギャンブル等があったとしても免責は認められるのが実情なのです。

ですから、ギャンブルなどの遊興がある場合にはそれを隠すような姑息な真似はせず、最初から正直にその事実を申告し、そのうえで上申書などで射幸行為に溺れた過ちを真摯に反省している姿勢を示すことで裁判官や破産管財人の心証をよくしていくことが自己破産の手続きを確実に進める唯一の正しい方法と言えます。