自己破産する際にネットバンクの預金を隠すとどうなるの?

自己破産の手続きは「借金の返済を免除してもらう」という手続きである反面、「債務者の資産を清算する」…言い換えれば「債務者の資産を取り上げて債権者に分配(配当)する」ための手続きとなります。

そのため、自己破産の申し立てを行う場合には、その所有する資産はすべて裁判所に申告し、債権者への配当に充てるか否かを裁判官の判断にゆだねる必要があるのですが、自己破産を予定している人の中には「所有している資産を何とか隠すことはできないものか」と財産の隠匿という悪だくみを考える不正な輩がいるのが現実です。

そのような不正行為をたくらむ多重債務者が手っ取り早く財産を隠匿する方法として考えるのが「ネットバンキング」を利用した資産の隠匿です。

ネットバンクなどのネット銀行では通帳が発行されず、電子データで預金額が管理されるだけなので、「申告しなければバレないだろう」と考えて既存の銀行預金などからネットバンクの口座に預金を振り返るなどして資産を隠そうとする不心得者の債務者が現れるわけです。

では、このように自己破産の申し立て前にネットバンクを利用して資産隠しを行った場合、自己破産の手続きではどのようなリスクが生じうるのでしょうか?

実際にネットバンクを利用して資産隠しを行ったことが自己破産の手続き途中でバレてしまった場合、具体的にどのようなペナルティーを受けることがあるのか、考えてみることにいたしましょう。

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ネットバンクを利用して資産隠しをすること自体出来ないものと考えたほうが良い

ネットバンクを利用した資産隠しがバレた場合の影響を考える前に、まず、そもそも自己破産の申し立て直前にネットバンクを利用して資産隠しをすることができるのか、という点を考えてみることにいたしますが、結論からいうと、そのような資産隠しは事実上「不可能」と考えた方がよさそうです。

もちろん、この世に実在する犯罪というものは、そのすべてが「やろうと思えばやれる」ものと言えますから、「ネットバンクを利用して資産隠しをすること」自体が絶対にできないというわけではないでしょう。

たとえば、「空き巣」にしても「他人の家に忍び込んでお金やモノを盗む」だけの行為にすぎませんから、他人の留守中に忍び込んで「空き巣」に入ることはそれほど難易度が高い行為ではないといえないとも考えられます。

しかし、そうやって「空き巣」に入ったとしても「留守だと思って入った家に人がいた」り、「指紋や髪の毛等の遺留物を残して」しまったり、「防犯カメラに撮られて」しまったり、「近所の住人に目撃され」てしまったりすることで逮捕されるリスクの方が圧倒的に高いと容易に判断できるので、普通は「空き巣」などをする人はいないわけです。もちろん、道徳的に「他人の物を盗むのはいけない」と考えて空き巣に入らない人の方が圧倒的に多いと思いますが…。

これと同じで、「ネットバンクを利用して資産隠しをすること」自体は、単に既存の銀行預金やタンス預金から「ネットバンク」の口座に預金を移し替え、そのネットバンクの口座の存在を自己破産の申立書に「記載しない」だけで完結する行為と言えますので、「ネットバンクで資産隠しをする」だけであれば「やろうと思えばやれる」とも言えるでしょう。

しかし、そのような資産隠しを行ったとしても、常識的に考えると自己破産の手続き上でそれが露見してしまうことはほぼ確実と言えます。

なぜなら、裁判所の裁判官であったり、裁判所から選任される破産管財人もバカではありませんから、たとえ申立書に「ネットバンクの預金」が記載されていなかったとしても、その存在は調査の段階ですぐにばれてしまうのが通常だからです。

「ネットバンクに自分の資産を隠す」ためには、既存の預金口座から資産を移し替える場合はいったん「既存の預金口座から出金(ないしは振り込み)」したうえでネットバンクの口座に「入金」しなければなりませんので、いくら「ネットバンクの口座の存在」自体を隠そうとしても「お金の流れ」自体は履歴として残されて顕在化してしまいます。

また、貴金属や自動車など有体物としての資産であったとしても、それを売却し現金化してネットバンクに入金しようとすれば、その現金化する際の手続きであったりネットバンクに送金する際の「お金の流れ」自体は書類や電子データとして残されることになるでしょう。

この点、自己破産の手続きでは、裁判所の裁判官や裁判所から選任される破産管財人(※通常は裁判所の管財人名簿に掲載された弁護士が選任されます)は自己破産の申し立ての際に提出された申立書や添付書類の記載だけでなく、その記載された事項と添付書類から過去のお金の流れをさかのぼって調査することになりますから、「一般の銀行口座」や「貴金属や自動車等を売却」して得られた「お金の流れ」についても、詳細に調査されることになります。

そうすると、仮に「ネットバンクの口座自体を隠蔽」しておいたとしても、「お金の流れ」がさかのぼって調査されていく段階で、銀行の履歴や電子データなどの資料から何らかの「足跡」は顕在化していくことになるでしょうから、裁判官や破産管財人が調査をきっちりやる限り、いくら「ネットバンク」に資産を隠したとしても、手続きの途中でその存在は露見してしまうことになるのが容易に想像できます。

もちろん、自己破産の申し立てを行う相当期間前から周到に準備をし、「お金の流れ」が顕在化しない程度に引き出してネットバンクに資産を移し替えたりすれば、自己破産の手続き上で裁判官や破産管財人にバレないようにすることも不可能ではないかもしれません。

しかし、そもそもそのような周到な計画性を実行できる能力があるのであれば、返済できない程の借金を抱えることもないでしょうし計画的な資産構築ができるでしょうから、そのような「裁判官や管財人にバレないような完璧な資産隠し」ができる人であればそもそも自己破産しなければならない事態には陥ていないはずです。

自己破産しなければならないということは資産の管理能力に何らかの落ち度や欠落があったということが言えるでしょうから、そのような人が百戦錬磨の裁判官や破産管財人を欺いて「足がつかない」ように「ネットバンクに資産を隠匿すること」は至難の業と言えるでしょう。

ですから、「ネットバンクに資産を隠す」ことは「やろうと思えばやれない」ことはないかもしれませんが、それを露見しないように完遂することは事実上不可能といえるのです。

「ネットバンクによる資産隠し」がバレたらどうなるか?

前述したように、仮に「ネットバンクで資産隠し」をしたとしても、そのような不正行為は自己破産の手続きの過程で裁判官や破産管財人に露見してしまうのは避けられないと考えられます。

では、仮にそのように「ネットバンクによる資産隠し」が手続きの途中でバレてしまった場合、どのような不利益が生じるのでしょうか?

(1)免責不許可事由に該当し「免責」が受けられなくなる

まず考えられるのが、ネットバンクに資産を隠したことを理由に免責不許可事由に該当すると判断されて「免責」が受けられなくなるという点です。

「免責」とは、自己破産の手続きが裁判所で認められて借金の返済が全額免除されることをいいますが(※借金返済の責任が免除されることから「免責」と呼ばれます)、自己破産の手続におけるルールを規定した破産法という法律では、手続き上で一定の不正な行為があった場合にはこの「免責」を「許可しない」という「免責不許可事由」が定められています(破産法第252条第1項1号)。

【破産法第252条】

第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
第1号 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
(以下、省略)

この「免責不許可事由」の中には、「財産の隠匿」が明確に列挙されていますので、「ネットバンクに資産を隠した」ような事実が露見した場合にも当然、その案件は「免責不許可事由」に該当するものとして「免責」が不許可となるでしょう。

免責が不許可となれば、自己破産の目的であった「借金の返済を免除してもらうこと」が実現できないことになりますから、自己破産の申し立てを行ったこと自体が無意味なものとなり、負担している負債は働いてその全額を返済しなければならないことになってしまいます。

(2)詐欺破産罪として刑事事件の対象となり処罰される

もう一つは、ネットバンクに資産を隠したということ自体が、裁判所を欺いて免責を受けようとしたということで「詐欺破産罪」に該当するという点です。

破産法では、債権者の利益を害する目的で債務者が自らの財産を「隠匿」したり「損壊」する行為を「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金」の対象とすること(これが一般に「詐欺破産罪」と言われています)で禁止していますから(破産法第265条1項)、「ネットバンクの預金を自己破産の手続きで申告しない」という行為が、この「詐欺破産罪」に該当するものとして処罰の対象になるでしょう。

 

【破産法第265条1項】

破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(中略)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(中略)。
第1号 債務者の財産(中略)を隠匿し、又は損壊する行為
第2号(以下省略)

ですから、自己破産の手続き上で「ネットバンクに資産を隠した」という事実が発覚した場合は、裁判所や破産管財人から告発されて詐欺破産罪として立件される可能性も十分に考えられます。

そうなると当然、自己破産の「免責」が受けられないばかりか、「隠匿の程度」によっては「詐欺破産罪」として収監や罰金刑を命じられる可能性も否定できないわけですから、そのリスクは尋常なく大きいものと言えます。

最後に

以上のように、「ネットバンクに資産を隠す」行為は「やろうと思えばやれない」ことはないかもしれませんが、常識的に考えれば自己破産の手続きの途中で裁判所や破産管財人の調査によって露見することは避けられないものと考えられます。

また、仮に手続きの途中で露見した場合には「免責不許可事由」や「詐欺破産罪」に該当し、「免責」が受けられないだけでなく、最悪の場合は「詐欺破産罪」で逮捕される可能性も否定できません。

でせうから、「ネットバンクに資産を隠す」という不正な行為をすること自体無意味な行為に他なりませんし、そのような不正行為を考えること自体が大きなリスクになると言えるのです。

そもそも、仮に「裁判所に取り上げられたくない資産」がある場合であっても、自己破産の申し立て前にネットバンクの口座に移し替えて資産の隠匿を図るのではなく、自己破産の申立書にすべて正直に記載し、その資産の内容をすべて申告することは自己破産の手続きにおける基本です。

「バレないだろう」と考えてネットバンクの資産を申告しない場合には、後で大きな不利益を受ける可能性があることを肝に銘じておくべきでしょう。