海外にある資産(財産)は自己破産しても取り上げられない?

自己破産の申立を行った場合、所有する財産(資産)は裁判所(破産管財人)に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者に配当(分配)されるのが通常です。

なぜなら、自己破産の手続きは負担している借金の全ての返済を免除するために行われますが、無条件に借金の返済が免除されるわけではなく、その所有する全ての財産を弁済に充てても返済できない部分の負債の返済を免除する手続きだからです。

このように自己破産の手続きは申立人の「資産」と「負債」を清算する清算手続きの性質を有していますから、その所有する資産(財産)も全て裁判所(破産管財人)に取り上げられて処分させられてしまうのが原則となるのです。

しかし、ここで問題となるのが、その自己破産の申立を行う申立人が資産を海外に所有していたり、裁判所(破産管財人)に取り上げられることを防ぐため、自分の資産を海外に持ち出して知り合いのところで保管しているような場合です。

自己破産の申立人が比較的経済力のある人であれば海外に不動産等を所有している場合も有るでしょうし、ずる賢い人であれば取り上げられたくない資産(財産)を海外に持ち出してしまうことは十分に考えられますから、そのような場合にその資産(財産)がどのように扱われるのかという点は非常に気になるところです。

では、自己破産の申立人の資産(財産)が海外に所在している場合、その資産(財産)は自己破産の手続き上どのように扱われるのでしょうか?

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資産が海外にあっても裁判所(破産管財人)に取り上げられて売却されるのが原則

前述したように、海外にある資産が自己破産の手続きでどのような扱いを受けるかが問題となりますが、結論からいうと、たとえ自己破産の申立人の資産(財産)が海外にあったとしても、その資産(財産)は自己破産の手続き上、裁判所(破産管財人)に取り上げられて売却されることは避けられません。

なぜなら、自己破産の手続きを定めた破産法という法律では、日本国内にあるか無いかに拘わらず、自己破産の申立人が所有する資産は全て債権者の配当(分配)になるべき「破産財団」に組み込まれることが定められているからです(破産法第34条第1項)。

【破産法第34条】

第1項 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
(以下、省略)

この「破産財団」とは、自己破産の手続きによって申立人から取り上げられる資産(財産)のことを指しますが、このように「日本国内にあるかどうかを問わない。」と規定されていますので、元々国外で取得し国外に所在する資産(財産)だけでなく、事後的に海外に持ち出した資産(財産)についても、「破産財団」として債権者に配当(分配)するために裁判所(破産管財人)が取り上げて売却することになるのが基本的な取り扱いとなっています。

したがって、仮に海外に所有している資産(不動産)であっても、自己破産の申立直前に海外に持ち出して財産であっても、自己破産の手続きでは裁判所(破産管財人)に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者に配当されるということになるのは避けられないのが原則と思った方がよさそうです。

※なお、破産管財人の報酬は通常20万円が平均額とされていることから、20万円を下回る資産しかない場合は破産管財人を選任すること自体が費用倒れとなってしまうため(※この点の詳細は→なぜ「20万円」が基準になるのか?)、仮に海外に資産があったとしても破産管財人が選任されずに手続きが進むこともあります(このように破産管財人が選任されずに簡易な手続きで終了する自己破産の手続きを同時廃止事件といいます)。

自己破産直前に海外に持ち出すのは免責不許可事由に該当する

以上のように、仮に海外に持ち出しても、それが自己破産の申立人の資産(財産)である限り、破産管財人)に取り上げられて売却されるのは避けられませんから海外に持ち出すことは無意味です。

もっとも、そもそも自己破産の申立て直前に自分の資産(財産)を海外に持ち出したりすると「財産の隠匿」と判断されて免責不許可事由に該当し裁判所から免責(借金の返済を免除されること)の決定を受けられなくなってしまう可能性がありますので、海外に持ち出すこと自体厳に慎むべきでしょう(破産法第252条第1項1号)。

【破産法第252条】

第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
第1号 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
(以下、省略)

最後に

以上のように、自己破産の手続きでは海外にある資産(財産)も国内にあるもと同様に、裁判所(破産管財人)に取り上げられて売却されるのが原則ですし、海外に持ち出すこと自体が「財産の隠匿」と判断され免責不許可事由に該当してしまう危険性がありますので、所有している財産についてはその所在が国内にあるか国外にあるかにかかわらず、そのままの状態で破産管財人に引き継ぐのが一番安全であるといえます。

そしてそのうえで、どうしても失いたくない財産がある場合には、自己破産を依頼する弁護士や司法書士に相談して自由財産の拡張の手続き(※本来であれば取り上げられてしまう財産を保有したままにできるよう裁判所に申出る手続き)などを利用するなど正当な手続きを用いたうえで裁判所の判断を待つほかないのではないかと思います。