自己破産すると健康保険証が使えなくなる?

自己破産する際に意外と気になるのが、健康保険の問題です。

自己破産しなければならないほど借金の返済が困難になっている人の中には、健康保険の納付金を長期間滞納している人も少なくありません。

正社員やフルタイムで勤務しているアルバイトの人は毎月の給料から社会保険料が天引きされているのでそのようなことはないでしょうが、自営業者やパート、短期のアルバイトや契約社員で生活している多重債務者の中には、健康保険料(保険税)を滞納している人は比較的多くいるものです。

ところで、このように健康保険料(税)を滞納しているかいないかにかかわらず、自己破産の申し立てを行う場合には、自己破産した後にその健康保険はどのように扱われるのか、という点が非常に気になります。

健康保険料(税)の滞納がある場合には、その滞納分が自己破産で免責されるのかという点も疑問ですし、滞納がない場合であっても自己破産することによって健康保険証が使用できなくなってしまうのではないかという点にも不安が生じてしまうからです。

では、実際の自己破産の手続きでは健康保険はどのように扱われるのでしょうか?

健康保険料(税)に滞納がある場合はもちろん、滞納がない場合であっても自己破産後に健康保険証が使用できなくなったりすることがあるのでしょうか?

広告

健康保険料(税)の滞納分は自己破産の免責の対象にはならない

自己破産で健康保険がどのように扱われるかという点を考える前提としてまず理解してもらいたいのが、健康保険料(税)の滞納分については自己破産の免責の対象にはならないという点です。

なぜなら、健康保険料(税)は法律上「租税債権」として扱われるところ、租税債権は破産法で「非免責債権」の扱いを受けることになっているため、健康保険料(税)の滞納分を自己破産で処理しようとしても、免責(※負債の支払い義務が免除されること)の対象として扱ってもらえないからです。

【破産法253条1項】

免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
二(以下省略)

破産法ではこのように、「租税等の請求権」を「除いて」支払い義務の責任が免除されると規定されていますから、「租税等の請求権」に含まれる「健康保険料(税)の滞納分」については自己破産の手続きでは免責の対象とされないのです。

ですから、たとえ自己破産の申し立てを行うまでに滞納した健康保険料(税)があったとしても、その滞納分は自己破産の手続きで処理されませんので、自己破産の手続きが終了した後もその滞納分を市町村役場に支払わなければならないということになります。

健康保険証は使用できなくなるか?

自己破産した場合に「健康保険証が使用できなくなるのではないか」と不安になる人が少なからずいるようです。

しかし、結論からいうと、そのような心配はいりません。自己破産しても健康保険証が使用できなくなるということはありません。

なぜなら、先ほども述べたように、仮に健康保険料(税)に滞納があったとしても、その滞納分は自己破産の免責の対象とはならず、自己破産の手続きが終わった後も支払い義務が継続しますので、「健康保険料(税)を支払わないことを理由に健康保険証の使用を差し止められる」という問題自体が生じえないからです。

また、そもそも日本では「国民皆保険制度」が採用されていて、健康保険に加入することは国民の義務とされていますから、「健康保険証が使用できない」という状況に陥ること自体がありえません。

このように、自己破産をしたことは健康保険証の使用に全く影響を与えることはありませんから、過去に健康保険料(税)の滞納があったかなかったかにかかわらず、自己破産の手続きが終わった後も健康保険証を使用することに何ら差し支えはないということが言えるのです。

ただし、健康保険料(税)の滞納が続き督促後も滞納が解消されない場合は有効期間の短い「短期被保険者証」に切り替えられる

このように、自己破産の手続きは健康保険に一切影響を及ぼしませんから、自己破産したとしても健康保険証は従前どおり使用することができます。

ただし、健康保険料(税)の滞納が一定期間継続し、市町村役場からの督促が繰り返された後も滞納分が解消されない場合には、それまで交付されていた健康保険証が失効し、その代わりに「短期被保険者証」が交付されることになります。

この「短期被保険者証」は健康保険証であることに違いはありませんが、通常の健康保険証の有効期間が「1年間」であるのに比較してその有効期間が「3か月間」に短縮されるのが特徴です。

「短期被保険者証」は健康保険証であることは変わりありませんので、普通の健康保険証と全く同じように病院に提出して使用することができますが、3か月間の有効期間が切れるたびに更新の手続きが必要になり、その更新の都度役所に出向いて健康保険料(税)の滞納分を解消するようにカウンセリングを受けなければならなくなりますので、煩わしさが増すのは避けられないでしょう。

もっとも、これは自己破産の手続きとは全く関係なく、自己破産をしてもしなくても、健康保険料(税)の滞納を放置していれば「短期被保険者証」に切り替えられることになりますので注意してください。

「短期被保険者証」に切り替えられても滞納が解消されない場合は「短期被保険者証」が取り上げられて代わりに健康保険の「資格証名書」が交付される

ちなみに、これも自己破産の手続きとは関係ありませんが、健康保険料(税)の滞納が継続し健康保険証が「短期被保険者証」に切り替えられた後も一定期間(※通常は健康保険料(税)の納付期限から1年が経過した後)滞納分が解消されない場合には、その「短期被保険者証」も取り上げられて、その代わりに役所から健康保険の「資格証明書」が交付されることになります。

「資格証明書」は健康保険の被保険者の資格があることを証明する書面ということになりますが、保険証ではありません。

そのため、医療機関を受診する際は、その「資格証明書」を提示することで健康保険の保険制度を利用すること自体はできますが、医療費の保険負担分は「後払い」となりますので、その医療機関で受診した医療費はその場でいったんその全額を自己負担で支払う必要があります。

いったん自分で医療費の全額(10割)を医療機関の窓口で支払った後、役所に手続きを行って健康保険が負担する「7割」の医療費を払い戻してもらう形になります。

健康保険料(税)の滞納がある場合の対処法

以上で説明したように、健康保険料(税)の滞納がある場合には、それまで使用していた健康保険証が「短期被保険者証」や「資格証明書」に切り替えられることがありますが、それはあくまでも健康保険料(税)を「滞納」したことの帰結であって、自己破産の手続きを行ったことの帰結ではありません。

自己破産の手続きをしたからといって健康保険証が使用できなくなったり、医療費の自己負担分に影響が生じることは一切ありませんので誤解のないようにしてください。

なお、健康保険料(税)の支払いが困難になった場合は、市町村役場の窓口で相談すれば納付額の減免や納付の猶予などが受けられる場合もありますので、支払いが困難になったからという理由で安易に滞納してしまうのではなく、速やかに役所に出向いて相談に乗ってもらうことが必要です。

また、自己破産の手続きを行う場合に際しても、健康保険料(税)の滞納がある場合には、その滞納分をどういう弁済計画で解消してゆく予定にしているのかとか、役所の方とどのような分割弁済の協議を行っているかといった点については裁判官や破産管財人から説明を求められるのが通常ですので、その意味でも早めに役所に相談に行くことが必要であるといえます。

ので、できる限り健康保険料(税)の納付を滞納しないように、日ごろから注意をすべきであるといえます。