夫が自己破産すると妻の財産も取り上げられてしまうのか?

多重債務の問題を抱える家庭の中には、夫が知らない間に多額の借金を抱え込んだ結果、家計が破たんしてしまったというようなケースも比較的多くあるのではないかと思われます。

このように、夫が作った借金が多重債務の原因となっている場合、最終的には夫が自己破産しなければならないことも考えられますが、この場合に問題となるのが妻への影響です。

自己破産の手続きでは、負担している債務の返済が免除される一方で、所有するすべての財産が裁判所に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者に配当されるのが原則的な取り扱いとなっていますから、夫の所有する財産は自由財産として保有が認められる部分を除いてその全てが裁判所に取り上げられてしまうことになるのは避けられません。

しかし、この場合に妻の所有する資産までも取り上げられてしまうとなると、何の落ち度もない妻が財産的な不利益を受けることになり不都合な結果となってしまうでしょう。

では、夫が自己破産する場合、妻の財産も裁判所に取り上げられてしまうことがあるのでしょうか?

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夫が自己破産する場合に妻の財産が取り上げられることはないのが原則

結論からいうと、夫が自己破産する場合に妻の財産が裁判所に取り上げれらることはありません。

なぜなら、憲法で私有財産制が認められている以上(日本国憲法第29条1項)、たとえ夫と妻であってもその財産は別個の所有財産と認識すべきであって、夫の自己破産手続きで妻という別個の私人の財産を処分することはできないからです。

ですから、夫が自己破産する場合に、妻の預金が取り上げられたり、妻が契約者となっている生命保険の解約返戻金が裁判所に取り上げられることは基本的にないといえます。

もっとも、夫と妻は家計を共にしているのが通常ですので、夫が自己破産する場合に「妻」の所有する財産(※正確には「妻」が自分の所有物であると認識している財産)が「夫」の財産と判断されて問題になるケースもありますので注意が必要です。

例外として妻の財産が取り上げられてしまう場合

以下のようなケースでは、「夫」の自己破産手続きで「妻」が所有する(※正確には「妻」が自分の所有物であると認識している)財産が裁判所(または債権者)に取り上げられる場合も有ると考えられますので注意が必要です。

(1)形式的には妻の財産であるものの夫の財産が元になっている場合

例えば、「妻」が契約者となっている生命保険の解約返戻金は「妻」固有の財産と判断されますので、「夫」が自己破産してもその「妻」の生命保険の解約返戻金は裁判所に取り上げられることは原則としてありません。

しかし、その「妻」が契約者となっている生命保険の保険料を「夫」が全て支払っている場合には、事実上「夫」の資産(財産)と判断されて「夫の財産」として自己破産の手続きで裁判所に取り上げられるケースがあります。

もっとも、夫と妻は一つの家計で生活しているので「妻」が専業主婦の場合は全て「夫」の資産となってしまう不都合な面もありますから、このような場合で実際に「妻」の生命保険の解約返戻金が取り上げられるかは、裁判所から選任される破産管財人の調査や裁判官の判断にゆだねられることになるでしょう。

(2)夫の資産隠しのため妻の財産とされているものがある場合

夫が自己破産する場合に、「夫」が資産を隠すため便宜上「妻」の財産にしているようなものがある場合には、それは全て「夫」の財産として認定され、裁判所に取り上げられることになります。

たとえば、夫が借り入れた借金のほとんどが「妻」の名義の口座に預金されていたり、土地や建物などの不動産が「夫」から「妻」に名義変更されているような場合が代表的です。

正当な理由で「妻」の名義になっている場合には取り上げられることはありませんが、破産管財人の調査や裁判官の判断によっては「妻」名義の財産が資産隠しとして取り上げられるケースはあるといえます。

(3)夫が購入し妻が使用している物

「夫」が購入した物を「妻」が使用している場合には、その「妻」は自分の所有物だと認識してその物を使用していると思いますが、自己破産の手続きでは、その「妻」が所有している物は「夫」が購入した「夫のもの」と判断されて裁判所に取り上げられることがあります。

たとえば、夫がカードローンで100万円を借り入れ、その借り入れた100万円でダイヤのネックレスを購入し、その購入したダイヤのネックレスを妻にプレゼントした後に夫が自己破産したとします。

この場合、そのダイヤのネックレスは「夫」からプレゼントされているため「妻」は「自分の所有物」と考えているかもしれませんが、事実上そのネックレスは「夫が夫の名義で借り入れたお金で購入した物」となりますので、自己破産の手続きでは「夫の資産」と判断される場合があります。

具体的にどのような場合に「夫」が購入した「妻」のものが裁判所に取り上げられるかはケースバイケースで判断するしかありませんが、このように考えないと自己破産の申立をする際にいくらでも資産隠しができるようになってしまい不都合になります。

そのため、その購入した態様や購入した時期などによっては夫が購入した妻の財産が「夫の財産」として裁判所に取り上げられてしまう場合も有ると考えられますので注意が必要でしょう。

(4)夫がローンで購入し妻が使用している物でローン完済前のもの

夫がローンで購入した物でローンが完済前であるものについては、自己破産の手続きとは関係なく、自己破産の手続きに入る前に債権者であるクレジット会社や販売会社がその商品を引き揚げてしまうのが通常です。

なぜなら、ローンで購入する商品はそのローンが完済されるまではクレジット会社や販売会社に所有権が「留保」されているのが一般的で、ローンの返済が途中でストップした場合には、クレジット会社や販売会社が「留保」されている「所有権」に基づいて回収し、その回収した商品を中古市場で売却して売却代金をローンの残額に充当してしまうことになるからです。

このように、ローン完済前のものについては、自己破産の手続き前に債権者が引き揚げてしまうのが通常ですから、仮にその商品を「妻」が「夫」からプレゼントされて使用しているような場合であっても、取り上げられてしまうことは避けられないケースもあります。