多重債務者の中には、会社員や自営業者、アルバイトやパート労働者だけでなく、会社の取締役や監査役など、会社の役員として企業の経営に携わっている人も少なからず存在しているのではないかと思われます。
しかし、多重債務に陥ってしまう原因の多くは家計に何らかの破綻理由があるのが一般的ですから、そのように家計管理能力に問題のある人が、一般家庭とは比較にならないほど大きな資産を扱うであろう企業の経営に関与している状況は、法人の社会的存在意義を考えると、決して好ましいものではないとも思えます。
では、取締役や監査役など会社役員が任意整理で借金を処理した場合、取締役や監査役などから解任されたり辞任を求められたりすることがあるのでしょうか?
任意整理が必要なほど個人の資産管理能力に問題がある人物が、法人の資産を管理する立場にある取締役や監査役として就任し続けることはその法人の経営を危機にさらし企業を破たんさせてしまう可能性もあると考えられるため問題となります。
任意整理しても取締役や監査役の地位には何ら影響は生じない
結論からいうと、取締役や監査役など一般企業の役員が任意整理したとしても、役員としての地位に全く影響は生じません。
この点、自己破産をした場合には、「破産手続開始の開始決定」によって株主との委任関係が終了してしまう結果、取締役や監査役の地位も当然に消滅することになりますが(民法第653条第2号)、任意整理の手続きについてはこのような委任契約の終了事由に該当することはありません。
▶ 会社の役員(取締役・監査役)が自己破産すると解任される?
したがって、取締役や監査役など会社の役員が任意整理をしたとしても、株主からの委任契約には全く影響は生じませんから、任意整理をしたからといって取締役や監査役の地位を辞任しなければならない義務はありませんし、任意整理を理由に解任されることもないといえます。
ただし、自分が取締役や監査役として適任者なのかという点は自問自答すべきかも…
前述したように、任意整理をすること自体は株主から取締役や監査役に委任された委任契約には何ら影響を与えませんから、取締役や監査役が任意整理で借金を処理したことをもって辞任や解任が必要になるものではありません。
しかし、あくまでも個人的な意見としてですが、取締役や監査役という地位にありながら任意整理で借金を処理しなければならなくなったという点は猛省すべきではないかと思います。
もちろん、多重債務の原因は様々でしょうから、例えば家族の病気や通常人が予測できないような不測の事態で借り入れが必要になり家計が破たんしてしまった場合もあるかもしれません。
しかし、借金の原因が単なる浪費や自分の収入以上の生活レベルを望んだことにあるのであれば、それは単に資産管理能力に問題があることになりますから、そのような人間が会社という個人よりも大きな資産を有する法人の資産を管理する取締役や監査役の地位にあってよいのかという点は非常に大きな問題でしょう。
個人の家計破綻であればそれは個人が責任を負えば済みますが、法人の資産を破たんさせてしまった場合には、その社会的な影響は個人の比ではありません。
たとえその法人が個人経営の会社であったとしても、法人になった以上、社会的な存在として社会全体の影響を考えなければならないはずです。
ですから、仮に資産管理能力に問題があった結果、任意整理で借金を処理せざるを得なくなったのであれば、取締役や監査役としての資質自体に問題がある可能性も考慮して、自ら取締役や監査役を退任して適任者に道を譲ることも考えるべきではないかと思います。