闇金に銀行口座を譲り渡すと振り込め詐欺被害者から訴えられる?

闇金への返済が滞った場合、電話で怒鳴り上げられたり、勤務先や隣近所に電話されるなどの嫌がらせを受けるのが一般的ですが、稀に銀行や信用金庫などの通帳やカードを譲り渡すよう要求されることがあります。

闇金は他人の名義で作成した預金口座を顧客からの返済口座として利用していますが、ある程度の期間利用するとすぐに凍結させられてしまうため、代わりの銀行口座を確保する必要があるからです。

もちろん、このような闇金の要求に応じてならないのは当然です。

なぜなら、仮に闇金に預金口座の通帳やカードを譲り渡してしまった場合には、その口座は闇金や振り込め詐欺、その他の犯罪に利用されることになりますから、それらの犯罪を幇助したとして最悪の場合は共犯者として逮捕されるかもしれないからです。

しかし、闇金に通帳やカードを譲り渡した場合には、逮捕されるだけではありません。

場合によっては、他の闇金被害者や振り込め詐欺の被害者から多額の損害賠償金を請求されてしまう羽目に陥ってしまう危険性すらあるのです。

なぜ、闇金に口座を譲り渡しただけなのに、振り込め詐欺や闇金の被害者から多額の損害賠償請求をされてしまうのか?

ほとんどの人はその仕組みをご存じないと思いますので、ここで簡単に説明しておくことにいたします。

広告

闇金に譲り渡した銀行口座は闇金や振り込め詐欺の受取口座として利用される

前述したように、闇金に自分の銀行口座の預金通帳やキャッシュカードを譲り渡してしまった場合には、その通帳は闇金が顧客から返済を受ける際の受取口座として利用されるのが通常です。

しかし、闇金は単なる犯罪者集団に過ぎませんから、闇金の中には闇金だけでなく振り込め詐欺にまで手を出している輩も当然存在しますし、そうでなくても犯罪者間の横のつながりで闇金に譲り渡した通帳やカードが振り込め詐欺を行う犯罪者集団に売り渡される可能性もあるでしょう。

このようにして、闇金に譲り渡した預金口座は犯罪者の間で闇金や振り込め詐欺に利用されることになるのです。

犯罪に関する収益の受取口座として利用された場合、その口座に入金されるお金は法律上「その口座の名義人」が受け取ったことになる

闇金や振り込み詐欺などの犯罪者の手に渡った預金口座は、その闇金犯や振り込め詐欺犯によって闇金の顧客からの返済金を受領するための受取口座として利用されたり、振り込め詐欺の被害者からお金を送金させるための受取口座として利用されることになります。

この場合、闇金や振り込め詐欺の被害者は「その闇金」や「その振り込め詐欺犯」に対してお金を送金することになりますが、その被害者が送金するお金は闇金に譲り渡した預金口座に対して送金されることになりますので、事実上、その被害者の送金したお金は「その闇金」や「その振り込め詐欺犯」ではなく、「その預金口座の名義人」が受け取ったことになります。

なぜなら、その闇金や振り込め詐欺の被害者自身は「その口座の名義人」に対してお金を振り込む意思はなく、「その闇金」や「その振り込め詐欺犯(※勿論、振り込む段階では振り込め詐欺であることに気づいてはいないでしょうが…)」に対してお金を送金する意思をもって振り込んでいるわけですが、そのお金が実際に振り込まれるのは「その譲り渡した預金口座」となりますので、「その預金口座の名義人」がお金を受け取っているということになるからです。

この場合、もちろんその口座を管理しているのは闇金業者や振り込め詐欺犯になるわけであって、送金されたお金を口座から引き出すのも、その闇金業者や振り込め詐欺犯になりますから、「その預金口座の名義人」は1円もお金を受領するわけではありません。

しかし、事実上はその闇金や振り込め詐欺の被害者は「その預金の名義人」に対して送金したことになりますから、「その預金の名義人」がその被害者から振り込まれたお金を受け取ったということになってしまうのです。

たとえば、Xという闇金を利用しているAさんが、闇金Xに対して「Aの預金口座」の通帳とカードを譲り渡した場合に、闇金Xがその口座を振り込め詐欺に利用したとします。

仮にその振り込め詐欺犯X(闇金X)が、振り込め詐欺の被害者Bに対して「Aの預金口座」に振り込みを行うよう指示したとすると、振り込め詐欺の被害者BはATMから「Aの預金口座」に宛てて多額のお金を送金することになるでしょう。

そうすると、その振り込み詐欺の被害者が振り込んだお金は「Aの預金口座」に入金されることになりますから、その時点で「AがBからお金を受け取った」ということになります。

もちろん、Aは既にXに対して通帳もカードも譲り渡しているのでBから送金されたお金を「Aの預金口座」から出金することはできません。「Aの預金口座」からお金を引き出すのはXです。

しかしその結果、「AがBからお金を受け取った」という事実だけは残ることになります。

「預金口座の名義人」は振り込まれた金額を被害者に返還しなければならない義務を負う

以上で説明したように、闇金に「自分の預金口座」を譲り渡してしまった場合には、その「自分の預金口座」が闇金や振り込め詐欺に利用されることになる結果、その被害者から「自分の預金口座」に対してお金が振り込まれることになるため、事実上「自分が被害者からお金を受け取った」という事実だけが残ることになります。

この点、前述したように、闇金や振り込め詐欺の被害者が、「闇金に譲り渡した預金口座」にお金を振り込んでいる場合、事実上は「その預金口座の名義人」がそのお金を受け取ったことになりますが、当然ながら、闇金や振り込め詐欺の被害者がその「預金口座の名義人」に対してお金を振り込まなければならない法律上の理由は存在しません。

なぜなら、「闇金や振り込め詐欺の被害者」と「その預金口座の名義人」の間には何ら契約は存在しませんし、仮に「その預金口座の名義人」が「闇金や振り込め詐欺犯」の代理人となって「闇金や振り込め詐欺の被害者」から闇金への返済や振り込め詐欺犯への送金を「代理受領」したと考えても、そもそも被害者と闇金との間の貸金契約は本来無効ですから闇金被害者は利息のみならず借入元本ですら返還する必要はありませんし、振り込め詐欺の場合は単に騙されて振り込んだだけですので、そこに送金しなければならない法律上の義務は存在しないからです。

そうすると、その「預金口座の名義人」は闇金や振り込め詐欺の被害者から「法律上の原因が無いのにお金を受け取った」ということになりますから、当然、その「預金口座の名義人」はその「受け取った(ことになっている)お金」を「民法703条の不当利得」として被害者に返還しなければならなくなります(民法703条)。

【民法第703条】

法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(省略)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

このように、その「預金口座の名義人」は実際にはお金を受領していないにもかかわらず、法律上は「その預金口座」に振り込まれた金額を不当利得(民法703条)として「闇金や振り込め詐欺の被害者」に返還すべき法律上の義務を負うことになるのです。

「預金口座の名義人」に不当利得としての返還義務がある以上、被害者から返還請求される可能性がある

以上のように、闇金に自分の預金口座を譲り渡した場合には、「その預金口座」が闇金や振り込め詐欺犯によって利用され、闇金や振り込め詐欺の被害者から送金がなされることにより、実際にはその振り込まれたお金を1円も引き出していにもかかわらず、「不当利得」としてその被害金額を全額支払わなければならない法律上の義務を負うことになります。

ここで厄介なのが、その闇金や振り込め詐欺の被害者が弁護士や司法書士に相談した場合に、その相談を受けた弁護士や司法書士が「闇金」や「振り込め詐欺犯」ではなく「その口座の名義人」を相手に、被害者が送金した被害金額の返還請求をしてくる可能性がある点です。

もちろん、その被害金額を実際に受け取っているのは闇金犯や振り込め詐欺犯なのですから、通常であれば被害者から依頼を受けた弁護士や司法書士は、その闇金犯や振り込め詐欺犯に対して「被害者が振り込んだお金を返せ」と返還請求することになります。

しかし、闇金や振り込め詐欺犯が逮捕デモされれば別ですが、そもそも闇金や振り込め詐欺犯の居場所を特定することはこんな場合がほとんどですから、依頼を受けた弁護士や司法書士としても依頼者の要求通り闇金や振り込め詐欺犯からお金を回収することは事実上困難なわけです。

そうした場合にどうするかというと、闇金や振り込め詐欺犯以外に「法律的」に被害者にお金を返さなければならない義務を負うのは被害者がお金を振り込んだ「その預金口座の名義人」しかいませんから、被害者から依頼を受けた弁護士や司法書士が「その預金口座の名義人」に対して「被害者が振り込んだお金を返せ」と請求することになります。

「預金口座の名義人」の住所は銀行などに照会を掛ければ分かりますし(弁護士法第23条の2)、住所がわからなくても「その預金口座の名義人」を被告として裁判起こすこと自体は可能ですから、実態のつかめない闇金や振り込め詐欺犯を相手に裁判を起こすよりも格段に簡単に被害金額の回収を図れるからです。

もちろん、被害者から依頼を受けた弁護士や司法書士としても、実際に被害金額を受け取っていない「闇金に預金口座を譲り渡した人」を相手取って裁判をすることはあまり好ましいことではないといえるのですが、たとえば依頼人がどうしても被害金額を一部でも取り戻せなければ生活が破たんしてしまうなどの事情がある場合には、やむを得ず「その預金口座の名義人」を相手として裁判を起こすことも十分に考えられると思います。

最後に

以上のように、「風が吹けば桶屋が儲かる」的な理屈になってしまいますが、闇金に自分の預金口座を譲り渡してしまった場合には、闇金や振り込め詐欺の被害者が依頼した弁護士や司法書士から、被害者の被害金額の返還請求をされてしまう可能性がありますので、闇金に預金口座を譲り渡すこと自体、多大な経済的リスクをはらむ危険な行為であるといえます。

もちろん、このページの冒頭でも説明したとおり、闇金に預金口座を譲渡すること自体が闇金や振り込め詐欺の犯罪行為を幇助することに繋がり、「詐欺の片棒」を担ぐことになって共犯者として逮捕される可能性がありますのでそもそもが問題なわけですが、このように被害者から被害金額の返還請求を受けてしまうという可能性があるという点も十分に認識しておかなければならないことではないかと思います。