自己破産でネットバンクの口座はどう扱われるの?

自己破産する際には、申立人が所有する財産はすべて裁判所に取り上げられて換価され、債権者への配当に充てられるのが原則的な取り扱いとなります。

なぜなら、自己破産の手続きは「借金の返済を免除」する手続きであるとともに、「債務者の資産と負債を清算」する手続きでもあるからです。

【破産法1条】

この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。

この、自己破産の手続きにおいて資産が取り上げられてしまうという取り扱いに際して問題となるのが、ネットバンクの口座に預金しているお金の取り扱いです。

ネットバンクの預金口座は、銀行の支店で開設する通常の預金口座と異なり、預金通帳が存在しないインターネット上に表示されるバーチャルなものにすぎませんから、「裁判所に取りあげられる」とはいっても、自己破産の手続き上で具体的にどのように扱われるのかという点について疑問が生じるからです。

では、実際の自己破産の手続きでは「ネットバンクの預金口座」に預金された金銭はどのように扱われるのでしょうか?

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ネットバンクからの借り入れがあれば凍結されて預金残高が相殺される

ネットバンクで預金口座を開設している人が自己破産の申し立てをする場合に、そのネットバンクからキャッシングやカードローンなどの借り入れがある場合は、そのネットバンクの預金口座はいったん凍結されて入出金ができないようになり、そのうえでそのネットバンクの口座に残されている預金がネットバンクによって相殺されてしまうことになります。

例えば、ネットバンクに10万円の残高が残っている状態で自己破産の申し立てをしようとする場合において、そのネットバンクから20万円の借り入れがあったとすると、自己破産の手続きが始まる前にネットバンクの方がその預金口座を凍結して貸付金の20万円と預金残高の10万円を相殺し、残りの10万円の貸付金について裁判所に債権届を出すことになるのが基本的な取り扱いとなるでしょう。

もっとも、ネットバンクのほとんどは保証会社が付けられているのが通常で、実際にはネットバンクが相殺した後に残る貸付金残高を保証会社から代位弁済を受けることになりますから、ネットバンクが相殺によっても回収できない10万円については保証会社から代位弁済を受けるのが通常です。

ですから、保証会社が付いているネットバンクから借り入れをしている状態で自己破産の申し立てを行う場合には、代位弁済が行われることによって保証会社がネットバンクに代わって債権者となり、保証会社から裁判所に債権届が出されることになるでしょう。

このようなケースでネットバンクが保証会社から代位弁済を受けた場合は、ネットバンクの預金者に対する債権は消滅することになりますので、ネットバンクが保証会社から代位弁済を受けた時点でネットバンクの口座を凍結しておく理由も消滅してしまうことになり、代位弁済行われた後にネットバンクの口座凍結は解除されて自由に入出金ができるようになります。

なお、以上の点についてはネットバンク独自の取り扱いではなく通常の預金口座の場合とまったく同じ取り扱いとなりますので、ネットバンクと通常の預金口座で違いはないといえます。

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20万円以上の預金残高がある場合は裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられる

ネットバンクの口座に20万円以上の預金残高が残されている状態で自己破産の申し立てを行う場合には、基本的にそのネットバンクの20万円の残高は裁判所に取り上げられて債権者への配当原資に充てられることになります。

なぜなら、自己破産の手続きでは、ネットバンクに限らず銀行の預金口座に「預金」されている「預金」は「預金債権」として「現金以外の資産」という取り扱いを受けることになっており、「現金以外の資産」に関しては20万円以上の価値がある場合は全て裁判所に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者に配当される取り扱いとされているからです。

ですから、仮に自己破産の申し立てをする際にネットバンクに20万円以上の預金がある場合には、その預金は全額、自己破産の手続きの過程で裁判所(正確には裁判所から選任される破産管財人)に取り上げられると考えておいた方がよいと思います。

なお、このような場合に、自己破産の申し立て前にネットバンクから預金の全額を引き出してしまおうと考える人がいるかもしれませんが、自己破産の申し立て直前に引き出したとしても自己破産の手続き上は「預金債権」として取り扱われることになり「引き出しがなかったこと」にされて結局は取り上げられてしまいますので無意味です。

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どうしても取り上げられたくない場合は「自由財産の拡張」の手続き(本来は裁判所に取り上げられてしまう財産を特別に取り上げられないようにする手続き)を利用するしかありませんので、そういう場合は早めに弁護士や司法書士に相談して「自由財産の拡張」ができないか検討することが必要になるでしょう。

なお、「20万円以上の残高がある場合は裁判所に取り上げられる」とはいっても、取り上げられるのはネットバンクの口座に預けられている「預金」だけにすぎず「預金口座」自体の利用が制限されるわけではありませんので、家賃や光熱費などの引き落としは従前どおりそのネットバンクの口座を利用して処理することは可能です。

なお、以上の点についてもネットバンク独自の取り扱いではなく通常の預金口座の場合とまったく同じ取り扱いとなりますので、ネットバンクと通常の預金口座で違いはないといえます。

20万円以上の預金残高がない場合は自己破産しても取り上げられることはない

前述したように、ネットバンクの口座に20万円以上の残高がある場合は、自己破産の手続きにおいて裁判所に取り上げられるのが基本的な取り扱いとなりますが、20万円以上の残高がない場合はそのような取り扱いを受けることはありません。

ネットバンクに預金している預金は、自己破産しても自由に引き出すことができますし、入出金も自由に行うことが可能です。

申立書にはネットバンクから郵送で取り寄せた入出金履歴の添付が必要

自己破産の申し立てを行う場合には、預金の残高の有無にかかわらず開設しているすべての預金口座の通帳の写し(コピー)を過去1年分(裁判所によっては過去2年分)申立書に添付して裁判所に提出することが義務付けられています。

これは、通帳に印字された過去の入出金履歴を裁判所に提出させることによって「いつ」「いくらの金額が」「入出金されたのか」といった情報が明らかとなり資産隠しなどが行われていないかを調査する必要があるからです。

この点、ネット銀行の口座の場合には通帳が発行されないのが通常ですので、申立書に何を添付すればよいかが問題となりますが、一般的には、ネットバンクのサイトにアクセスしたときに表示される過去の入出金履歴をプリントアウトしたものを添付することで通帳の写しに代えることができるとされています。

もっとも、ネットバンクではシステム上、過去1か月から3か月分程度の入出金履歴しか表示されないのが一般的だと思われますので、通常はネットバンクから過去1年分(裁判所によっては2年分)の入出金履歴を郵送で送付してもらい、その送付された入出金履歴のコピーを裁判所に提出することになろうかと思われます。

最後に

以上のように、自己破産の手続きではネット銀行で開設した預金口座であっても一般の支店で開設した預金口座と同様に処理されることになりますから、一般の預金口座と同様に裁判所に申告することが必要ですし、裁判官の処理にゆだねる必要があります。

ネットバンクは実態がないバーチャルなものにすぎませんから「ネットバンクの預金は自己破産の手続きでは申告しなくてもいいんじゃないか?」と思う人もいるかもしれませんが、そのような判断は許されないということは肝に銘じておくべきでしょう。

仮にネットバンクの預金口座を隠した状態で自己破産の申し立てを行った場合には、最悪の場合「資産隠し」と判断されて「免責(借金の返済が免除されること)」が受けられなくなったり「詐欺破産罪」として告発されることもあり得ますから十分に注意することが必要と言えます。

自己破産を申し立てるに際してネットバンクの預金口座の処理に不安を感じている場合には、早めに弁護士や司法書士に相談し、ネットバンクの預金口座に預け入れている預金をどのように扱えばよいかといった点について正しい助言を受けておくことも重要と言えるでしょう。