株式投資やFXで作った借金でも自己破産できるか?

自己破産する場合に意外と気になるのが、株式投資やFXなどの投資資金とするために借り入れた借金がある場合に、その借金を自己破産で処理することができるのか、という点です。

ネット証券の利用が一般的になった現在では、株式投資やFXで投資活動をしたことがある人は多くいるでしょうから、株式投資やFXの投資資金とする目的でカードローンなどを利用する人も少なからず存在するのが実情です。

このような場合、もちろん株やFXで勝ち続ければ問題ありませんが、損失が膨らめば当然、借り入れたお金の返済が滞るわけですから、最終的には自己破産という選択も考えなければならないでしょう。

しかし、株式投資やFXは生活に必要不可欠なものではなく、人によってはギャンブルと同視した射幸行為と判断されますから、そのような株式投資やFXで作った借金が自己破産で免責(※借金の返済が免除されること)の対象となるのかといった点に疑問が生じてしまうのです。

では、実際の自己破産の手続きにおいては、株式投資やFXへの投資のために作った借金であっても免責を受けられるのでしょうか?

それとも、株式投資やFXで作った借金は自己破産の免責を受けられず、あくまでも返済していくことを求められてしまうものなのでしょうか?

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株式投資やFXで作った借金は免責を受けられないのが原則

自己破産の手続きにおいては、株式投資やFXなどの投資行為はパチンコや賭博などと同様に「射幸行為」判断されます。

資本主義社会における経済活動の基本となっている「投資」が単なる賭博行為に過ぎない「ギャンブル」と同じ扱いを受けることに疑問を感じる人は多いとかもしれませんが、破産法という法律ではどちらも「射幸行為」として同列に規定されていますので、それに従わなければなならないのです。

この点、破産法では自己破産の申立人に「射幸行為」がある場合において、「著しく財産を減少させ」たか、あるいは「過大な債務を負担した」場合には、「免責不許可事由」として免責(※借金の返済を免除すること)を与えない取り扱いにされています(破産法第252条第1項4号)。

【破産法第252条第1項】

裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
第1号~3号(省略)
第4号 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。

したがって、自己破産の申立人が単に少額の株式投資やFXをしただけでは「著しく財産を減少させ」た、あるいは「過大な債務を負担した」とは言えないものと考えられますので、その程度が「著しくない場合」には「免責不許可事由」にはあたらないと判断されて免責を受けられることになるでしょう。

しかし、株式投資やFXをすることにより大損して「著しく財産を減少させ」てしまった場合や、最初から株式投資やFXなどの投資活動をする目的で多額の融資を受けたような場合には、「著しく財産を減少させ」あるいは「過大な債務を負担し」たと判断されて自己破産の免責が受けられなくなるケースもあるといえます。

株式投資やFXで作った借金がある場合は裁量免責を求めていくほかない

以上のように、株式投資やFXをすることにより大損して「著しく財産を減少させ」てしまった場合や、最初から株式投資やFXなどの投資活動をする目的で多額の融資を受け「過大な債務を負担した」場合には、自己破産の免責が受けられなくなるのが原則です。

もっとも、だからといって絶対に免責が受けられなくなるわけではありません。

破産法ではそのように免責不許可事由に該当する事実がある場合であっても、裁判官の「裁量」によって特別に免責を与えることができる「裁量免責」の制度が用意されていますので、株式投資やFXで作った借金があったとしても、その事情を裁判官に説明し、裁判官に理解してもらうことができれば特別に免責を受けることも不可能ではないといえます(破産法第252条第2項)。

【破産法第252条第2項】

前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。

もっとも、株式投資やFXを理由に借金をしたことを正当化できる理由はあまりないでしょうから、通常はこのような場合には「株式投資やFXに借り入れたお金を使ってしまったこと」について深く反省する上申書を作成し、二度とそのような過ちを犯さないようにすることを誓約する姿勢を見せるしかないのではないかと思います。

この点、裁判官が簡単に裁量免責を認めてくれるのかが問題となりますが、当然、裁判所としても容易に裁量免責を認めてしまうとモラルハザードを誘発してしまい、「裁量免責が受けられるからいくらでも借入してかまわないだろう」などと安易な借入を繰り返す輩が出てくる可能性も否定できませんので、裁量免責を認める場合には厳しい調査や行われることは避けられません。

しかし、どれだけ働いてもどうしても返せない借金を「免責不許可事由にあたるから免責は出さないよ」と突き放してしまっては、免責を受けられない多重債務者が巷にあふれ出てしまう結果となりますから、裁判所では比較的広く裁量免責を認める傾向にあります。

もちろん、あまりにも悪質な態様の借入については免責が出されないこともあるでしょうが、常識的な範囲内の株式投資やFXで作った借金であれば、裁判官の裁量免責は認めてもらえるはずですので、「株式投資やFXで作った借金があるから自己破産できない」と思い詰める必要はないのではないかと思います。