任意整理すると経過利息や将来利息はどうなる?

弁護士や司法書士に依頼して任意整理を行う場合、弁護士や司法書士が代理人となって利息のの再計算や債務額の減額、分割払いの交渉をしてもらうことができます。

弁護士や司法書士に依頼した場合には、この債権者との交渉はすべて弁護士や司法書士がやってくれるため依頼人である債務者本人は何もしなくてよいのですが、その場合に気になるのが「経過利息」や「将来利息」などの利息のカットについても交渉してもらえるのか、という点です。

借金問題を弁護士や司法書士に相談する場合には、もうすでにその時点で支払いを延滞しているのが通常ですから、相談する時点で膨大な経過利息や遅延損害金が発生していることも多く、その経過利息がどのようになるかは非常に重要です。

また、任意整理の協議が整って分割弁済の和解が結ばれたとしても、その返済金額に将来利息が付くか付かないかでは返済総額に大きな差が出るのは当然のことですから、将来利息をカットしてもらえるのかという点も債務者にとっては非常に重要な事項といえるでしょう。

そのため、任意整理を依頼する債務者にとっては「経過利息」や「将来利息」がどのように扱われるかという点は任意整理を依頼するうえで非常に重要な要素となるのです。

では、弁護士や司法書士が債権者と任意整理の交渉をする場合、「経過利息」や「将来利息」はいったいどのように扱われるのでしょうか?

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「経過利息」「将来利息」とは?

任意整理の交渉で「経過利息」と「将来利息」がどのように扱われるかを説明する前提として、そもそも「経過利息」と「将来利息」の意味が分からないという人もいるかもしれませんので念のため簡単に説明しておきましょう。

「経過利息」とは?

経過利息とは、任意整理で分割弁済の和解が整うまでに借入元本に対して発生する利息のことをいいます。

任意整理をするために弁護士や司法書士が介入すると、その弁護士や司法書士から通知(受任通知)を受けた貸金業者やクレジット会社は、それ以降債務者本人に請求することが禁じられることになりますが、これは単に直接請求することが禁じられているだけで借金自体がなくなったわけではありません。

その任意整理のために弁護士や司法書士が介入している期間は単に「返済を延滞している」状況に変わりありませんから、その期間についても当然、日々の利息は発生していることになり、任意整理の交渉で残金の分割弁済が合意され和解書(示談書)に双方が記名押印して残債務額が確定するまでの間も理論上は利息が加算され続けることになります。

この、和解が結ばれるまでの期間に発生する利息のことを、「経過利息」といいます。

「将来利息」とは?

将来利息とは、任意整理の分割和解の後に返済する金額についても利息を支払うという合意をした場合に、債務者が任意整理で合意した分割弁済期間中も債権者に対して支払わなければならない利息のことをいいます。

任意整理の手続きにおいて弁護士や司法書士が介入すると、債権者から取引履歴を取り寄せて利息の再計算を行い正確な債務額を確定させますが、だからと言ってその正確な債務額に一切利息が付かないというわけではありません。

なぜなら、債務者と債権者の間に結ばれた当初の貸金契約(金銭消費貸借契約)において債務者は利息を支払うことに合意している以上、弁護士や司法書士が任意整理のために介入しようと契約上は利息は付加されることになるのが原則だからです。

これは、任意整理の手続きで弁護士や司法書士が分割弁済の交渉をした場合も同様で、任意整理で合意した分割弁済で支払う金額についても本来は利息が付くのが原則ですから、債権者が特に任意整理の手続きにおいて以後発生する利息を放棄していない限り、債務者は任意整理で合意した分割弁済の弁済金についても利息を付して支払わなければならないのが原則ということになります。

この、任意整理で債権者との間で合意した分割弁済で支払う返済金についても付加される利息のことを「将来利息」といいます。

任意整理では「経過利息」も「将来利息」も付けないのが実務上の取り扱い

前述したように、任意整理の手続きをするために弁護士や司法書士が介入した場合であっても、債務者と債権者の間に結ばれた貸金契約(金銭消費貸借契約)は有効に存続していることになりますから、債権者が特別に放棄しない限り、任意整理の手続きで債権者との間で合意する債務の総額について「経過利息」は付くのが原則ですし、任意整理の手続きで合意する分割弁済で以後に支払う毎月の弁済金についても「将来利息」を付して返済するのが原則となります。

しかし、これはあくまでも原則的には「経過利息」も「将来利息」も付くというだけであって、実際の任意整理の現場では「経過利息」や「将来利息」を付けないで分割弁済の和解が結ばれるのが一般的な取り扱いとなっています。

なぜなら、任意整理と同じような借金の処理を行う裁判所の特定調停という手続きにおいても裁判所から選任される調停委員は「経過利息」や「将来利息」を付けずに原則36回の分割払いの調停案を出すのが通常で、それに債権者側が応じない場合には調停不成立となってしまい債務者は自己破産(もしくは個人再生)で処理するしかなくなってしまうからです。

仮に任意整理の交渉の場で債権者側が「経過利息」や「将来利息」を付けることにこだわったとしても、債務者の側が「そこまでいうんだったら特定調停を申立てます」と開き直って特定調停を申し立てた場合には同じように裁判所から「経過利息」や「将来利息」のカットを求められるのが通常ですし、債権者がそれをも拒否した場合には債務者としても自己破産(もしくは個人再生)で処理するしかないのですから、そうなると債権者は一円も貸付金を回収できなくなってしまうでしょう。

ですから、任意整理の交渉の場では、債権者側も「経過利息」や「将来利息」にこだわらないで貸付元本だけを分割弁済する和解案に合意するのが実務上の取り扱いとなっているのです。

「経過利息」や「将来利息」にこだわる債権者もいる

上記で説明したように、実際の任意整理の現場では債権者側も「経過利息」や「将来利息」にこだわらないことが多いため、通常は弁護士や司法書士に任意整理を依頼すると「経過利息」や「将来利息」を付加しないで借入元本(またはそれを減額した金額)を分割弁済する和解(示談)が結ばれるのが通常です。

ただし、誤解してもらいたくないのは弁護士や司法書士に任意整理を依頼すれば絶対に「経過利息」や「将来利息」が付加されない和解が結ばれるというわけではない点です。

前述したように、あくまでも契約上は「経過利息」や「将来利息」が付加されるのですから、債権者側にしてみれば当然「経過利息」や「将来利息」を請求しても何ら問題ありませんし、債権者の企業側にしてみればむしろ積極的に「経過利息」や「将来利息」を請求すべきでしょう。

それにもかかわらず任意整理の交渉の際に債権者が「経過利息」や「将来利息」をあえて請求しないのは、「経過利息」や「将来利息」にこだわってしまうと多重債務に苦しむ債務者の生活再建が懸念されるからであって、そのような債務者側の事情を忖度して「経過利息」や「将来利息」の請求を放棄しているのです。

ですから、仮に債務者の生活再建を一切考慮しない自社の利益だけを追及するような債権者が任意整理の相手方にある場合には、前述した実務上の取り扱いなど無視して「経過利息」や「将来利息」を頑なに請求してくる場合も考えられますし、実際にそのような債権者はいくつも存在します。

債権者によっては「経過利息」や「将来利息」を付けない限り任意整理の分割和解には応じないといってくる債権者も少なからず存在していますから、そのような債権者が相手の場合には最悪の場合には任意整理の交渉が不成立になる場合もありますので注意が必要といえるでしょう。

債務者本人がどこまで開き直れるかがポイント

以上のように、任意整理の手続きでは「経過利息」や「将来利息」は付けないで分割弁済の和解を結ぶのが一般的な実務の取り扱いとなりますが、債権者によっては「経過利息」や「将来利息」にこだわるところもありますので、あとは弁護士や司法書士と債権者との交渉次第ということになります。

このように書くと、「最終的には依頼した弁護士や司法書士の力量によって経過利息や将来利息が付くか付かないか決まってしまう」と感じてしまうかもしれませんが、それは少し違います。

なぜなら、債権者から「経過利息」や「将来利息」の支払いを迫られた場合には、債務者である依頼者本人がどこまで開き直れるか、という点が交渉の上で最も重要だからです。

前述したように、債権者側が「経過利息」や「将来利息」の支払のこだわった場合であっても、債務者本人が最終的に「自己破産でもかまわない」と開き直ってくれるのであれば、最終的に債権者側も自己破産されては一円も回収できないとあきらめることが期待できますので、交渉をする弁護士や司法書士も「そこまで経過利息や将来利息にこだわるのであれば自己破産してもらうしかありませんね」というスタンスで交渉することができます。

しかし、あくまでも債務者本人が任意整理での解決にこだわっている場合には弁護士や司法書士としても債権者に譲歩を求めるだけの交渉しかできませんので、債権者側から足元を見られてなかなか経過利息や将来利息の請求を拒否することもむずかしいでしょう。

ですから、「経過利息」や「将来利息」を付けないで債権者と任意整理の分割弁済の和解を結びたいのであれば、弁護士や司法書士に任意整理を依頼した債務者本人の方でも「最悪の場合は自己破産でも構わない」と腹をくくる勇気も必要になるという点は理解しておいた方が良いかもしれません。

その覚悟がないにもかかわらず、債権者が「経過利息」や「将来利息」のカットに応じないからと言って、弁護士や司法書士の能力が低いと決めつけてしまうことのないようにしてもらいたいと思います。