任意整理の途中でも債権者を追加できる?

任意整理は借金の返済が困難になった場合に、債権者との間で利息のカットや債務の減額、原則3年以内の分割弁済の協議を行う債務整理手続きの一種です。

この任意整理手続きの最も大きな特徴は、一部の債権者だけを対象として、または一部の債権者を除外して分割弁済などの交渉を行うことができる点です。

自己破産や個人再生の場合は、借り入れのある全ての債権者を手続きに含めて処理することが法律上義務付けられていますが、任意整理の手続きは法律で定められた法定の手続きではなく、あくまでも債務者と債権者の間で行われる示談交渉の場に過ぎませんから、一部の債権者だけを対象として交渉を行うことも否定されないのです。

▶ 任意整理で一部の債権者だけを処理することはできる?

ところで、このように任意整理の手続きでは一部の債権者だけを対象として、または一部の債権者だけを除外して債権者との交渉を進めることができるのですが、では、手続きの途中で債権者を追加することはできるのでしょうか?

任意整理の手続きは弁護士や司法書士に依頼して代理人となって交渉してもらうのが一般的ですが、依頼した当初は任意整理の手続きに含めなかった債権者であっても、手続きの途中で返済に窮してしまい「やっぱり任意整理で依頼しておけばよかった」と考えが変わることもあり得るため問題となります。

広告

任意整理の途中で債権者を追加することはできる

結論からいうと、任意整理の途中で債権者を手続きに追加することは全く問題ありません。

なぜなら、前述したように任意整理の手続きは法律で定められた法定の手続きではありませんので、どの債権者を任意整理の手続きに加え、どの債権者を任意整理の手続きで処理しないかはもっぱら任意整理の手続きを選択した”債務者”の希望に委ねられることになるからです。

たとえば、A社・B社・C社からそれぞれ借り入れがある状況において、A社とB社だけを弁護士や司法書士に依頼して任意整理している場合には、そのA社とB社の任意整理の交渉が行われている途中であってもC社を任意整理の手続きに加えることは、何ら差し支えありません。

債権者を追加する場合の具体的な方法

弁護士や司法書士に依頼して任意整理の手続きを行っている途中に、その依頼した債権者以外の債権者を任意整理の手続きに加えたい場合は、すぐに依頼した弁護士や司法書士に連絡をして債権者を追加したいことを伝えてください。

なお、もちろん弁護士や司法書士もボランティアではありませんので、追加した債権者の分だけ弁護士や司法書士支払う費用(着手金や報酬)は追加した債権者の分だけ別途支払う必要があります。

たとえば、A社・B社・C社からそれぞれ借り入れがあり、A社とB社だけを弁護士や司法書士に依頼して任意整理している場合には、そのA社とB社の任意整理の交渉が行われている途中であっても、その弁護士や司法書士に対して「C社も任意整理で処理してほしい」と申告することによってA社とB社に加えてC社についても分割弁済などの交渉をしてもらうことは可能ですが、C社の任意整理にかかる着手金や報酬などは弁護士や司法書士から請求されることになります。

他の債権者の分割弁済が組まれる前に申告するべき

以上のように、任意整理の途中であっても債権者を追加することは何ら差し支えありません。

しかし、この場合に注意しなければならないのは、債権者を追加するのは他の債権者の分割弁済の交渉がまとまる前にしなければならないという点です。

なぜなら、任意整理の依頼を受けた弁護士や司法書士は、その依頼人である債務者の収入や家計状況を調査し、その債務者が余裕をもって返済できる金額を算出したうえで債権者と分割弁済の交渉を行っていますので、仮に当初依頼を受けた債権者の分割弁済が合意された後に債権者を追加されても、その追加された債権者に返済できる返済原資は確保できないことになるため任意整理の交渉が困難になってしまうからです。

たとえば、A社・B社・C社からそれぞれ借り入れがある場合に、依頼人である債務者の毎月の収入が20万円で毎月の生活費が15万円だったと仮定しましょう。

この場合、依頼人の毎月の余剰金は5万円しかありませんから、そのうち余裕をもって毎月弁済が可能な金額は2万円、多くても3万円が限度と考えられますので、依頼人から「A社とB社だけを任意整理で処理してほしい」と依頼された弁護士や司法書士は、その「2~3万円」の返済原資を「A社とB社」の債権額で案分して毎月の返済月額を決めることになります。

そのため、仮にこのような場合に「A社」と「B社」との間で分割弁済の合意が整った場合には、返済原資として確保した「2~3万円」はすでに「A社」と「B社」への毎月の弁済に使用することが決まっていることになりますから、その「A社」と「B社」との間で分割弁済の和解が成立した後に「C社」と任意整理の分割弁済の協議を行おうと思っても、返済原資の確保ができないことから、「C社」との協議自体できないことになっていしまいます。

ですから、任意整理の手続きの途中で債権者を追加したい場合には、既に依頼している債権者との間で任意整理の分割弁済の合意が整うまでに追加したい旨の申告をする必要があるといえます。

弁護士や司法書士に依頼する場合は最初に全ての債権者を申告しておくことが必要

以上のように、任意整理の手続きの途中で債権者を新たに追加することも差し支えありませんが、だからといって弁護士や司法書士に任意整理を依頼する際に、任意整理として依頼する対象となる債権者だけを申告しておけばよいというのではありません。

任意整理の依頼を受けた弁護士や司法書士は、依頼人である債務者が抱える全ての借金の返済額と、その依頼人の収入、毎月の生活費の全てを考慮したうえで任意整理で債権者と交渉する毎月の返済額を決定していきますから、任意整理の対象とする債権者の存在だけを弁護士や司法書士に申告してしまうと、任意整理の対象としない債権者の債務を把握することができなくなり、返済原資の計算を誤ってしまう恐れがあります。

ですから、弁護士や司法書士に任意整理の依頼をする場合には、自分が抱えている全ての借金と債権者を申告したうえで、どうしても任意整理の手続きから除外したい債権者だけを弁護士や司法書士に告知するというようにするのが原則です。

そして、弁護士や司法書士に依頼したあとは、専門家である弁護士や司法書士の判断に任せ、弁護士や司法書士の助言に従って任意整理の手続きを進めていくというスタンスで挑むのが適切な任意整理の依頼方法になるのではないかと思います。