管財事件で破産管財人が預金通帳を取り上げるのはどんな場合?

自己破産の申立を行うと裁判所で申立書のチェックが行われ、裁判官によって「同時廃止」と「管財事件」のどちらで処理されるか振り分けられることになります。

この場合、仮に「同時廃止」に振り分けられた場合には、裁判所から破産管財人が選任されることになり、その選任された破産管財人が申立人から自己破産するに至った事情を聴取したり申立人が保有する資産の調査などを行うことになります。

自己破産の申立人は当然、この破産管財人の調査に協力しなければなりませんから、破産管財人から「〇〇しろ」といわれたことは絶対にしなければなりませんし、「出せ」と言われたものは破産管財人に提出しなければならないのが原則です。

仮に破産管材人の指示に従わなかった場合には、破産管財人の調査や検査を拒否したと判断され、最悪の場合は「3年以下の懲役若しくは3百万円以下の罰金」に処せられてしまいますので、破産管財人の指示に従わないということはあり得ないと考えた方がよさそうです(破産法第268条、同法第83条第1項、同法第40条第1項)。

【破産法第268条】

第1項(中略)の規定に違反して、説明を拒み、又は虚偽の説明をした者は、3年以下の懲役若しくは3百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(後段省略)
第2項(省略)。
第3項 破産者が第83条第1項(中略)の規定による検査を拒んだとき(中略)も、第1項前段と同様とする。
第4項(省略)

【破産法第83条第1項】

破産管財人は、第40条第1項各号に掲げる者及び同条第2項に規定する者に対して同条の規定による説明を求め、又は破産財団に関する帳簿、書類その他の物件を検査することができる。

【破産法第40条第1項】

次に掲げる者は、破産管財人(中略)に基づく請求があったときは、破産に関し必要な説明をしなければならない。(但書省略)
第1号 破産者
第2号(以下省略)

ところで、この破産管財人の調査・検査に際して、破産管財人から自己破産の申立人が所有する預金口座の通帳やキャッシュカードを提出するよう求められる場合があります。

しかし、銀行の預金口座は給料の振込先に指定されている場合もありますので、預金通帳やキャッシュカードを預けなければならないとすると毎日の生活にも支障が出てくる可能性も考えられ、大変な不利益ともなりかねません。

では、具体的にどのようなケースで破産管財人から預金通帳等の提出を求められることがあるのでしょうか?

また、仮に預金通帳やキャッシュカードを破産管材人に預けた場合、その口座から一切預金を引き出せなくなってしまうのでしょうか?

広告

どのようなケースで通帳・カードを預けなければならないか

前述したように、自己破産の手続きが「管財事件」として処理される場合には、裁判所から選任される破産管財人が申立人の預金通帳やキャッシュカードを預かるケースがありますが、具体的にどのようなケースで破産管材人から通帳やカードの提出を求められるかが問題となります。

この点、破産管財人が預金口座の通帳やカードを預かるケースとしては、以下の3つが代表的なものとして考えられます。

(1)預金口座に20万円以上の残高がある場合

預金口座に20万円以上の残高がある場合には、その預金口座の通帳やカードは破産管材人がいったん預かることになるのが通常です。

なぜなら、銀行の預金口座に預けられているお金は、自己破産の手続きでは「現金」ではなく「預金債権」という扱いを受けることになりますが、20万円以上の資産価値がある「現金以外の財産」は、全て債権者の配当に充てるべき資産として処理される必要があるからです。

自己破産をする場合であっても「現金」については99万円までが自由財産として保有することが認められていますが、「預金債権」は「現金」ではありませんから99万円以上の預金がなくても当然にその保有が認められるわけではありません。

また、「現金以外の財産」が20万円以上の資産価値がない場合には破産管財人の管財費用(引継予納金等)との兼ね合いから自由財産の取り扱いを受けることになりますが、20万円以上の資産価値がある場合には、その「現金以外の財産」は債権者の配当に回すべき資産として破産管財人に取り上げられてしまうのが通常の取り扱いとなっています。

(※なぜ20万円が基準となるかについては→自己破産ではどんな場合に管財事件になるの?

このような理由から、銀行等の預金口座に20万円以上の残高がある場合には、破産管財人がその預金として預けられているお金を回収して債権者に配当する必要があることから、破産管財人が通帳やカードを預かるケースがあるのです。

(2)その口座に給料以外の入金が予想される場合

預金口座に給料以外の入金がなされる可能性がある場合にも、その口座の通帳やカードを破産管財人が預かる場合があります。

「給料以外の入金がなされる可能性がある場合」とは、たとえば自己破産の前に交通事故に遭っていて事故の加害者から損害賠償金が振り込まれる予定であったとか、友人知人に貸していたお金を返してもらう予定になっていた、とかいう場合が代表的です。

このように預金口座に振り込まれてくるお金は、前述したように自己破産の手続きでは「現金以外の財産」という扱いになりますので、20万円以上の金額が振り込まれてくる場合は、その全てが債権者の配当に回すべき資産となり、破産管財人が回収して債権者への配当原資として管理する必要が生じます。

そのため、このように銀行の預金口座に入金が予想されるお金がある場合は、その通帳とカードを破産管財人が取り上げて管理するケースがあるのです。

(3)個人への振込や個人からの送金履歴が残されている場合

預金口座の通帳に、個人名からの振込入金や、個人名に宛てた送金の履歴が残されている場合にも、口座の通帳やカードを破産管財人が預かる場合があります。

このように個人名からの入金がある場合には自己破産の申立書に記載されていない他の個人からの借入がある可能性がありますし、個人名に宛てた出金がある場合には資産隠しのために財産を移転させた疑いが生じるため、破産管財人の方で調査が必要になることがあるからです。

また、闇金からの借り入れがある場合にも個人名での出入金記録が残されるのが一般的ですが、そのような場合も闇金へのさらなる資産の流出や闇金からの資産回収を図る必要性も生じる場合があることから、破産管財人が預金通帳やカードを預かることになる場合があります。

取り上げられた預金口座が解約されるわけではない

以上のように、自己破産の手続きが管財事件として処理される場合には、破産管財人によって銀行等の預金口座の通帳やキャッシュカードが取り上げられることがあるわけですが、だからといってその預金口座自体が解約されてしまうわけではありません。

自己破産の手続きによって裁判所に取り上げられるのは、あくまでもその預金口座に振り込まれたお金、厳密にいえば「裁判所から自己破産の「開始決定」が出されるまでに生じた理由によって発生したお金」だけであって、その預金口座自体や「開始決定」が出された後の行為等によって入金されるお金は何ら自己破産の手続きによって影響を受けることはありませんから、口座自体が解約されるわけではないのです。

給料の引き出しは可能

なお、預金口座の通帳やカードを破産管財人に預けた場合であっても、給料やボーナスがその口座に振り込まれた場合は、その給料やボーナスを引き出すことは可能です。

給料やボーナス(賞与)も銀行に振り込まれれば「預金債権」として預金残高が20万円以上ある場合には破産管財人が取り上げて債権者への配当原資とするのが原則ですが、給料やボーナスは毎月の生活に必要不可欠なものであるため預金債権となっても取り上げられないのが通常の取り扱いです。

▶ 自己破産すると給料も取り上げられてしまうのか?

また、自己破産の「開始決定」が出された「後」に振り込まれる給料はその全額が自己破産の手続きとは切り離して考えられますので、開始決定後に給料やボーナスが振り込まれた場合はその全額を引き出すことは可能です。

ですから、給料やボーナスが振り込まれた場合であっても、破産管財人に連絡をすれば、特段の事情がない限りすぐに引き出してもらえるのが通常の取り扱いとなっていますので安心してください。