借金の返済が滞り、その返済が不能になった場合には最終的に「自己破産」という手続きも検討する必要があります。
裁判所に自己破産の申立を行い、それが認められれば借金の返済が全て免除されることになりますから、自己破産は借金整理の最終手段として最大の効果を発揮するからです。
しかし、自己破産といっても一般の人にとっては具体的な基準がわかりませんから、いったいどれぐらいの借金があれば自己破産の手続きが必要となるのか、といった点は判然としないでしょう。
では、具体的にどの程度の借金の場合には自己破産を検討する必要があるのでしょうか?
「債務を36回以内の分割で完済できるか」が目安
自己破産を選択しなければならないか否かの選択基準は特にありませんが、目安としては債務残高を36回以内で分割返済できるか否かで判断するのが一般的です。
36回払いの分割払いというと3年間ということになりますから、毎月の収入から生活費を差し引いた残額で36回払いで債務を完済できるのであれば任意整理を、そうでない場合には自己破産を検討するのが一般的な判断基準となります。
なぜ返済期間が「36回(3年)」なのかというと、裁判所に特定調停を申し立てた場合に認められる分割返済期間が3年(36回)とされるからです。
特定調停で認められるのは返済期間を3年(36回)以内とする調停に限られるのが一般的ですから、これより長い返済期間が必要なほど多額の債務残高が残っている場合には特定調停は成立させられず、自己破産か個人再生を勧められるのが通常です。
ですから、この債務残高を36回(3年)以内で完済できるかが自己破産を選択するうえでの一つの基準となります。
すなわち、債務残高を36回(3年)以内で完済できる場合は任意整理で処理し、36回(3年)で完済できない場合には自己破産もしくは個人再生を選択することになるのが一般的な考え方といえます。
なお、この場合に基準となる「債務残高」はあくまでも利息の再計算をして得られた法律上正しい債務残高の元本のみをいいます。
債権者が主張している金額を36回で分割返済できるかではなく、債権者が主張している金額を法律に従って再計算したうえで算出された金額から将来利息や利息や遅延損害金を除いた借金の元本だけを36回で分割返済できるかが目安となりますので、債権者から請求されている金額を36回で分割返済できない場合であっても弁護士や司法書士に依頼して利息の再計算をしてもらえば返済できる場合も有りますので、安易に「自分は自己破産しかダメだ」と思い込んでしまわないように注意が必要です。
自宅や住宅ローンのある人は個人再生を考える
前述したように、利息の再計算を行って算出された債務元金を36回(3年)以内で返済できる場合は任意整理、出来ない場合は自己破産となりますが、自己破産は「清算手続き」でもありますから、借金の返済が免除される代わりに土地や建物などを所持していたり住宅ローンを抱えている人は自己破産によってその所有している不動産を失うことになります。
そのような人の中には自宅を失う自己破産だけはしたくないと考える人もいるかもしれませんから、債務残高を36回(3年)以内で完済することができない場合であっても自宅を失うことに支障があると考えているような人については個人再生手続を検討することになろうかと思います。
個人再生を選択するのはどのような場合か?
前述したように、借金の返済に行き詰った場合において借金の残高を36回で完済できないような場合には自己破産を検討するのが一般的ですが、所有している住宅を失うのが嫌な場合などは個人再生手続きを選択することになろうかと思います。
個人再生(民事個人再生)とは裁判所に申立を行う借金整理の手続きで、原則として借金総額が5分の1に減額され、その減額されて5分の1になった金額を原則3年(36回)以内で分割返済すれば残りの5分の4の借金の返済が免除されるという手続きです。
個人再生の申し立てには「住宅ローン特則」というものがあり、住宅ローンを支払いながら住宅ローン以外の借金だけ整理することができますので、自己破産に支障がある人でも借金の大幅な減額が可能となります。
そのため、個人再生の手続きは自己破産を検討したものの持家や住宅ローンがあるために自己破産することができない(または自己破産することに支障がある)人の場合に有効な借金の整理方法ということがでいるでしょう。
もちろん、持ち家や住宅ローンがない人でも個人再生手続きを申立することは差し支えありません。
しかし、個人再生の場合は原則として借金の5分の1は返済しなければなりませんから、持ち家や住宅ローンがないのであれば借金の全額が免除される自己破産を申し立てる方が良いのではないかと思います。
任意整理を選択するのはどのような場合か?
任意整理は弁護士や司法書士に依頼して各債権者と個別に協議を行い、借金の残額を原則3年以内で分割返済する和解を取り結ぶ手続きです。
任意整理の場合には、一般的に将来利息をカットした借金の残額を3年(36回払い)以内の期間で分割返済することになりますから、収入から毎月の生活費等の支出を差し引いた残額から余裕をもって3年間支払いができる場合に適した手続きといえるでしょう。
たとえば借金の総額が180万円あったとすると任意整理を行った場合の毎月の返済金額は5万円となりますから、毎月5万円の返済が可能な家計状況であれば任意整理で処理することもできるのではないかと思われます。
もっとも、毎月余裕をもって返済することができなければ返済の途中で行き詰ってしまいますので、毎月5万円の返済計画を組むのであれば、毎月の収入から支出額を差し引いた残りの残額が8万円から10万円程度なければ実際には難しいでしょう。
この場合、毎月の余剰金が8万円以上ないような場合には、自己破産を検討する方が良いのではないかと思われます。
借金がどのくらいなら自己破産を選択するべきか?
前述したように、借金の返済に行き詰った場合において借金の残高を36回で完済できないような場合には自己破産を検討するのが一般的ですが、住宅ローンを組んでいるような場合などは個人再生手続きを選択することになろうかと思います。
もっとも、36回(3年)以内で完済できない場合は自己破産を検討するとはいっても、借金の返済に回せるような資産(貯金や生命保険の解約返戻金など)がある様な場合には、仮に36回(3年)以内で完済できない場合であっても自己破産ではなく任意整理を検討することもできる場合があります。
たとえば、生命保険の解約返戻金が多額に上っていたり、売却すればそれなりの値段が付くような貴金属を所有しているような場合には、そのような資産を解約したり売却したりして得たお金を返済に充当し、それでもなお残る借金の残額が具体的な借金の残額となります。
ですから、そのような資産がある人はまずその資産を洗い出して借金の返済に充てることを検討し、それでもなお返済できないような場合に自己破産を検討することになろうかと思われます。