自己破産した後に賃貸で部屋を借りることはできるか?

自己破産した場合に意外と気になるのが、賃貸マンションや賃貸アパートなどの部屋を借りる際に、入居審査で落とされてしまうようなことがないのか、という点です。

自己破産するということはすなわち、法律上の手続きを用いて「支払わなければならないお金を支払わなくてもよいようにした」ということになりますから、部屋を貸す家主からすれば「家賃を踏み倒されては大変だ」という思考が働くことも否定できません。

そうなると、家主の中には過去に自己破産した人の入居を歓迎しない人も出てくるでしょうから、入居審査ではねられるということも十分に考えられるわけです。

では、実際に賃貸マンションや賃貸マンションなどの部屋を借りる場合に、過去に自己破産した事実が支障になる場合があるのでしょう?

一度自己破産してしまったら、賃貸物件の部屋を借りられなくなったりするものなのでしょうか?

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自己破産すれば部屋を借りることができないということはないのが原則

結論からいうと、自己破産したからと言って賃貸マンションや賃貸アパートなどの部屋を借りられなくなってしまうというようなことは原則としてありません。

なぜなら、「お金を借りる」という金銭消費貸借契約と、「部屋を借りる」という賃貸借契約という賃貸借契約は、そもそもその契約自体が全く異なる概念となり、過去に自己破産した事実は「部屋を借りる」場合の信用情報には基本的に影響を及ぼさないからです。

その代表的な例が信用情報機関へのアクセスで、自己破産した場合はその「自己破産した」という事故情報が「JICC」「CIC」「全国銀行協会」の3つのうちのいずれかの信用情報機関に登録されることになりますが(いわゆる「ブラックリストに載る」ということ)、この3つの信用情報機関に登録された情報を照会できるのは、その信用情報機関に加盟した金融機関だけであって、賃貸マンションや賃貸アパートの家主はその情報にアクセスできません。

もちろん、その家主が別の事業として貸金業等を営んでいてこれらの信用情報機関に加盟している場合は別ですが、常識的に考えれば賃貸マンションや賃貸アパートを借りる場合の家主が金融機関を営んでいるケースは皆無と言えますから、実際に部屋を借りる際に過去に自己破産した事実が家主側に知られることはまずありえません。

このように、そもそも「お金を借りる」という行為と「部屋を借りる」という行為は契約上も全く別のものであり、過去に自己破産した事実が家主に知られることは基本的にありえませんから、賃貸マンションや賃貸アパートなどの部屋を借りる際の審査で「過去に自己破産した」という事実が問題にされることはなく、部屋を借りられなくなるといった問題も常識的に考えればありえないということになるのです。

入居審査の際に過去の自己破産の事実を聞かれるか?

前述したように、家主は信用情報機関の事故情報にアクセスすることができませんから、仮に過去に自己破産した事実があったとしても、基本的にその事実が入居審査に影響を与えることはないといえます。

では、入居審査の際に家主が「過去に自己破産した人の入居は許可しない」と言う取り扱いにしている場合はどうなるでしょうか?

家主が誰の入居を許可し、誰の入居を許可しないかはもっぱらその家主の独断と偏見で決めて構いませんから、家主が「自己破産した人は入居させない」という取り扱いにしている場合には、賃貸物件で部屋を借りられなくなる可能性も否定できません。

しかし、仮に家主が「過去に自己破産した人の入居は許可しない」という取り扱いにしていたとしても、そのような取り扱いは事実上「無意味」となるでしょう。

なぜなら、家主が「自己破産した人の入居は拒否しない」という方針を不動産仲介業者にあらかじめ告知しておけば不動産業者に訪れた入居希望者にその方針を告知することで一定数の「過去に自己破産した人」をふるいにかけることはできるかもしれませんが、もしその入居希望者が「過去に自己破産した」という事実を隠して入居の申請をしてしまった場合には、先に述べたように家主としては過去の自己破産の事実を調べる手段はないわけですから、「過去に自己破産した事実」を隠して入居する入居者を完全に排除することは事実上できないからです。

もちろん、この場合に家主が「なんで自己破産してないって嘘をついたんだ!賃貸契約は解除するから出ていけ!」などと一方的に賃貸借契約を解除し、入居者を強制的に追い出してしまう可能性はあるかもしれません。

しかし、過去の判例では住宅を失ってしまう入居者を保護するため「入居者との信頼関係が破綻した場合」でなければ賃貸契約の一方的な解除を認めていないのが実情で、実際の裁判では半年程度の家賃の滞納があっても「信頼関係が破綻した」との認定は行われず、入居者を保護するために家主側の強制解約は認めていません。

そのような裁判の傾向を考えると「過去の自己破産の事実を隠していた」という事実だけで家主が賃貸契約を強制解約することは認められないと考えられますから、たとえ家主が「過去に自己破産した人は入居させない」という考えを持っていたとしても、その考えを実現させるのは難しいのが現実です。

このような事情があることから、一般の賃貸借契約で「過去の自己破産の事実」を聞かれること自体ほとんどありませんので、「過去に自己破産したから」といって賃貸物件を借りられなくなることはほとんどないといえます。

例外的に賃貸物件を借りることが難しくなる場合

以上で説明したように、過去に自己破産した事実があったとしても、それが原因になって賃貸物件を借りることができなくなることはないのが実情ですので、「過去に自己破産したから部屋を借りることはできないんじゃないか」と不安になる必要は基本的にないと考えて差し支えありません。

もっとも、以上はあくまでも原則的な場合にすぎず、特定の事情のもとでは「過去に自己破産した事実」が賃貸で部屋を借りる際に問題になるケースもありますので注意が必要です。

たとえば、家主側が「家賃保証会社」をつけることを義務付けている物件を借りるような場合です。

賃貸物件を借りる際は「連帯保証人」を付けるよう要求されることが多いですが、連帯保証人になってくれる人がいなかったり、連帯保証人を付けていても連帯保証人とは別に「家賃保証会社」による保証を付けることを義務付けている物件を借りるような場合には、賃貸契約の際に不動産仲介業者から「家賃保証会社」との間で保証委託契約を結ぶよう指示されるケースがあります。

こういったケースでは、部屋を借りるために「家主」の審査とは別に「家賃保証会社」の審査も受ける必要があるのですが、ほとんどの場合はその「家賃保証会社」の審査で過去の自己破産の事実が問題になることはありません。

しかし、一部の家賃保証会社では、家賃保証業務とは別に貸金業などの金融業を営んでいたり、その逆に金融機関が別事業として家賃保証業務を取り扱っているようなケースがありますので、もし仮に自分が入居しようとしている物件で指定された家賃保証会社がそういった「金融機関」の側面を持っている家賃保証会社であった場合には、先に述べた「JICC」「CIC」「全国銀行協会」の3つのうちのいずれかの信用情報機関に信用情報の照会が行われることによって過去に自己破産したという事実が知られてしまう可能性も否定できません。

もし仮にそういった家賃保証会社が契約に絡んでくるような場合には、家賃保証会社に過去の自己破産の事実が知られることになり、その結果として家賃保証会社の審査で落とされてしまう帰結として、賃貸借契約自体の審査も通らないというケースもないわけではないと考えられますので注意が必要でしょう。

(※この点についてはこちらのページでも詳しく解説しています→自己破産するとマンションやアパートを借りられなくなる?

最後に

以上のように、過去に自己破産していても賃貸で部屋が借りられなくなるといったケースは基本的にないといえますが、一部の家賃保証会社が契約に絡んでくるような場合には、賃貸で部屋を借りる際に問題が発生するケースもないとはいえません。

もっとも、家賃保証会社を付けることを義務付けている物件は全体でみれば少数派ですし、少子化や空き家問題で店子の確保に窮している家主が多い現在の賃貸業界では、自己破産した人であっても入居を認める物件も数多くあるのが実情ですので、「自己破産したら部屋を借りられなくなるんじゃないか」などと心配する必要はないのではないかと思います。