自己破産したらピアノやギターなどの楽器も取り上げられるか?

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自己破産は裁判所に申立てを行うことによって借金の返済義務を免除してもらうのと同時に債務者の資産と負債を清算する手続きでもありますから、自己破産の申し立てを行う債務者に一定の資産(財産)がある場合には、裁判所に取り上げられて換価され、その換価代金が債権者に分配される配当手続きが実施されるのが原則的な取り扱いとなります。

そのため、自己破産の申し立てを行う場合には、申立人である債務者にどれだけの資産(財産)があるのかといった点を十分に調査することが求められるわけですが、ここで問題となるのがピアノやギター、ドラムなどの楽器の取り扱いです。

これらの楽器は数万円程度のものもありますが、数十万円から数百万円単位のものはザラですし、バイオリンなどであれば数千万から億単位のものもあるでしょう。

そうであれば当然、そのような楽器を所有している人が自己破産する場合には資産(財産)的価値のあるものとして債権者への換価対象となることが予想されますが、プロの演奏家や作曲家などの場合には仕事に不可欠であるため、楽器を取り上げられてしまうとなれば自己破産後の経済的再建に支障をきたす恐れもあるので慎重な扱いを受けるべきとも思えます。

では、実際の自己破産の手続きでは、債務者が所有しているこれらの楽器などは具体的にどのように扱われるのでしょうか?

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20万円以上の価値がある楽器は基本的に取り上げられるものと考えておいた方がよい

結論からいうと、売却した場合の買取価格が20万円を超えるような資産価値のある楽器を所有している場合には、自己破産の手続きですべて裁判所(破産管財人)に取り上げられて換価されて換価代金が債権者への配当に充てられると考えておいた方がよいと思います。

なぜなら、先ほども述べたように自己破産の手続きは債務者の資産と負債を清算する清算手続きの側面があるため、20万円以上価値のある財産を所有している場合は「債権者への配当に充てられるべき資産を持っている」と判断されて債権者への配当原資として処理されるのが通常だからです。

(※なぜ20万円が基準となるかについては→自己破産ではどんな場合に管財事件になるの?)。

この点、それが楽器であろうと何であろうと20万円以上の値段が付く品物であれば裁判所(破産管財人)としても債権者への配当を考えなければなりませんので、売却可能な楽器であれば換価対象になるものと考えられます。

ですから、自己破産する人がピアノやギターなど楽器を所有している場合には、その楽器の査定価格によっては自己破産の手続き上で取り上げられることになり、その楽器を失ってしまう可能性があることは十分に認識しておくべきであろうと思います。

プロの音楽家等の楽器は仕事に必要不可欠なものとして取り上げられないこともある

このように、自己破産の手続きでは20万円以上の価値がある資産(財産)はすべて裁判所に取り上げられて債権者への配当原資に充てられるのが原則ですから、ピアノやギターなどの楽器もロの例外ではなく、自己破産の手続きが開始されれば裁判所(破産管財人)に取り上げられてしまうのは避けられないものと考えられます。

もっとも、これはあくまでも原則的な取り扱いであって、例外的に自由財産として保有し続けることが認められるケースもあります。

たとえば、そのピアノやギターなどの楽器が仕事に必要不可欠なアイテムとして使用されているような場合です。

先ほども述べたように、自己破産の手続きでは20万円以上の価値がある資産(財産)は債権者への配当原資となるのが原則ですが、破産法では「技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者…のその業務に欠くことができない器具その他の物」など「差し押さえることができない財産」については、債権者への配当原資としない取り扱い(破産財団には含まない取り扱い)にされています(破産法第34条、民事執行法第131条)。

【破産法第34条第3項】
第1項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない
1.(省略)
2.差し押さえることができない財産(民事執行法第131条第3号に規定する金銭を除く。)。ただし、同法第132条第1項(同法第192条において準用する場合を含む。)の規定により差押えが許されたもの及び破産手続開始後に差し押さえることができるようになったものは、この限りでない。
(以下、省略)
【民事執行法第131条】
次に掲げる動産は、差し押さえてはならない
第1号~5号(省略)
第6号 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(中略)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)
第7号(以下省略)

この点、ピアノやギターなどの楽器がこの「労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者…のその業務に欠くことができない器具その他の物」に含まれるのかという点が問題となりますが、楽器を扱うミュージシャンであったり作曲家であったり、あるいはプロの演奏家などにとっては、「楽器を使って音楽を奏でること」は「自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する」ことに他なりませんし、そのために使用するピアノやギターなどの楽器は「その業務に欠くことができない器具その他の物」に含まれることは常識的に考えて当然であろうと考えられます。

ですから、所有している楽器が自己破産の申し立てを行う債務者の仕事や業務に必要不可欠なものである場合には、仮にその所有している楽器が20万円を超えるものであったとしても、裁判所に取り上げられずに自由財産として保有し続けることができるケースもないわけではないということが言えます。

ただし、自由財産の拡張手続きが必要と考えておいた方がよい

このように、20万円以上の価値がある楽器を所有している場合には自己破産の手続きで裁判所に取り上げられてしまうのが原則ですが、その楽器が仕事に必要不可欠なものと裁判所に判断されるようなケースでは、その20万円以上の価値がある楽器を裁判所に取り上げられることなく引き続き所有することが認めらるケースもあろうかと思われます。

もっとも、だからと言って仕事に必要不可欠であればすべてのケースで所有している楽器が取り上げられなくても済むというわけでもありません。

たとえば楽器を複数所有しているようなケースでは最低限必要なものしか自由財産として認められないかもしれませんし、同一の楽器で高価なものと安価なものがあれば高価なものの方は債権者への配当に充てられるため取り上げられてしまうこともあるでしょう。

また、裁判官や破産管財人によっては「作曲するだけなら数万円の電子ピアノだけでもいいんじゃない」とか「演奏するにしても他のバンドに借りるなりすればいいわけでしょ」と判断してそもそも自由財産としての保有を認めない場合もありますから、そこはケースバイケースで判断するしかないと思います。

極端な例でいうと、世界的なバイオリニストが数百万円の借金のために自己破産をする事例で「数億円のバイオリン」を所有している場合に、そのバイオリンを自由財産として所有することが果たして債権者の同意を得られるか、という話になってきますので、所有している楽器が取り上げられるかは最終的には個別のケースごと、裁判官や破産管財人の判断ごとに考えていくしかないのが現実だと思います。

なお、自己破産の手続きでは「自由財産の拡張」の申し立てという、本来であれば債権者への配当に充てられる資産を特別に自由財産して保有を認めてもらうための手続きもありますので、どうしても取り上げられたくないというような楽器がある場合には、手続きを依頼する弁護士や司法書士に事情を説明して自由財産の拡張が可能かという点を十分に検討してもらう必要があるでしょう。

(※ただし「自由財産の拡張」は破産管財人の意見を聞いたうえで裁判官が慎重に判断しなければなりませんので、「自由財産の拡張」をしたからといって必ずしも保有が認められるというわけではないので注意が必要です。)

ローンが残っている楽器は自己破産の手続きに入る前にローン会社や販売店に引き揚げられる

自己破産の手続きにおける所有している楽器等の取り扱いの基本的な事項は以上になりますが、その所有している楽器が分割払いのクレジットなどで購入したもので、自己破産の申し立て時点でそのローンが残っているような場合は上記とは異なる扱いになります。

なぜなら、楽器等に限らずローンで購入した商品についてはローンが完済されるまではその所有権がローン会社や販売店に「留保」されるのが通常で、ローンが完済された時点で所有権が購入者に移転することになりますから、ローンを完済する前に自己破産の手続きを開始した場合には、自己破産の申し立てをする前の時点でローン会社や販売店が「所有権」に基づいてその楽器を強制的に引き揚げて中古市場で売却し、その売却代金がローンの残金に充てられることになるからです。

ローンが残っている楽器を所有している場合は、自己破産の手続きとは関係なく、その楽器のローンに関係する債権者が自己破産の手続きとは別に引き揚げて処分することになりますから、先に説明した場合と異なり、仕事に必要であろうとなかろうと有無を言わせず取り上げられてしまいますので注意が必要でしょう。

最後に

以上のように、自己破産の申し立てを行う債務者がピアノやギターなどの楽器を所有している場合には、その楽器等が仕事に必要不可欠なものであるかないかによって基本的な扱いが異なりますし、仮に仕事で必要なものであっても自由財産の拡張など特別な手続きが必要になる場合もあるので注意が必要です。

特に、ピアノやバイオリンなどその価格が極めて高額になるような楽器については判断が難しい面もありますので、そのような楽器を所有している場合には早めに弁護士や司法書士に相談して十分な調査と検討を行ってもらうよう心掛けてもらいたいと思います。