自己破産の申し立てを考えている人の中には、弁護士や司法書士に依頼せずに自分自身で申立書を作成し、裁判所に提出して手続きを進めることができないか、と考えている人も少なからずいるのではないかと思われます。
自己破産を弁護士や司法書士に依頼した場合の費用は、その案件によって違いはあるものの弁護士なら30万円~50万円、司法書士なら20万円~40万円が相場と言われていますから、そのような高額な報酬を払うぐらいであれば自分で調べて申立書を作成し、自分自身で手続きを進めてみようと考える人がいるのも頷ける話です。
幸い、インターネットの普及した現代では、「自己破産」「申立書」「記載例」などというワードでググれば自己破産の申立書のひな型は見つけられるでしょうし、弁護士や司法書士の資格を有していて実務経験のある人が作成したウェブサイトなど(一応このサイトもそうですが…)も容易に探すことができますから、それらのサイトを参考にしながら自分自身で自己破産の申立書を作成し、手続きを進めることも不可能ではないでしょう。
しかし、そのように弁護士や司法書士に依頼せずに自己破産の申し立てを行った場合に弁護士や司法書士に依頼するのと比較して費用的に安価に手続きを終わらせることができるか、というと少々疑問が生じます。
なぜなら、弁護士や司法書士に依頼しないで自己破産の申し立てを行った場合には、自己破産の手続きが「管財事件」として扱われ、破産管財人に支払わなければならない費用(引継予納金)が必要となって結局弁護士や司法書士に依頼するのと同等かそれ以上の費用を支払わなければならない可能性も否定できないからです。
弁護士や司法書士を付けない自己破産の申し立ては「管財事件」として扱われる可能性が高くなる
自己破産の申し立てを行うと、その申立書を受理した裁判所ではその案件を「管財事件」として処理するか、「同時廃止」の案件として処理するか方針を決定して事件を振り分ける作業を行います。
「管財事件」とは、裁判所から選任される破産管財人(※裁判所の管財人名簿に掲載されている弁護士から選任されることになります)が申立人に不正な行為や財産の隠匿などがないか調査したり、資産があれば売却して換価し債権者への配当に充てるという作業を行う場合の自己破産の処理手順をいいます。
法律上は自己破産の処理としてはこの「管財事件」として処理するのが原則的な手順として定められているのですが、全ての案件をこの「管財事件」として処理してしまうと、だれが見ても不正な行為が行われた形跡がなく、明らかにめぼしい資産もないケースにまで破産管財人を選任して詳細な調査を行う必要が生じてしまうため、無駄に裁判所の仕事が増えてしまい経済的に不都合な結果となってしまいます。
そのため、申立書の記載と裁判官の審問(裁判所で裁判官が申立人から対面で聴取すること)をしたうえで、裁判官が「詳細な調査は必要ない」と判断した場合に限って、自己破産の手続きが「開始」されるのと「同時」に「廃止(※終了するという意味)」するという「同時廃止」という処理方法が例外的な方法として認められているのです。
ところで、自己破産の手続きが「管財事件」として処理される場合に裁判所から選任される破産管財人はボランティアではありませんので、事件が「管財事件」として処理される場合には破産管財人に支払う管財費用(引継予納金)が必要となります。
その管財費用(引継予納金)をだれが支払うかというと、当然それは自己破産の申立人が支払うことになります。
管財費用(引継予納金)の金額は申し立てられた案件の難易度や裁判所の金額設定によって異なりますが、多くの裁判所では管財費用(引継予納金)の最低金額を20万円で設定していますので、自己破産の申し立てを行った際に裁判所が「管財事件」として処理することを決定した場合は、自己破産の費用が最低でも「20万円多くなる」ということになります。
そうすると、自己破産の申し立てをした時点で裁判所の裁判官に「どのようにして管財事件ではなく同時廃止事件として処理してもらうことができるか」という点が自己破産を申し立てるうえでの至上命題となります。
「管財事件」と「同時廃止事件」ではその費用が「最低でも20万円」異なってくるわけですから、仮に「管財事件」として処理されれば依頼人に「20万円」多くの費用負担を求めなければなりません。
自己破産の手続きが「同時廃止」で処理してもらえれば自己破産の手続きが「20万円」安くなり、依頼人の経済的負担は軽く済むわけですから、弁護士や司法書士が自己破産の申立書を作成する場合は「いかに裁判官に同時廃止で処理してもらえるような申立書を作成するか」という点が最も重要となってくるのです。
ですから、弁護士や司法書士が申立書を作成する場合は「裁判官が申立書に記載されている以上の調査をしようと思わない」ような書類を作成することに一番神経を使うことになります。
ところで、ここで考えてもらいたいのですが、もし仮に自己破産の申し立てをしようと思っている本人が、弁護士や司法書士に依頼せずに申立書を作成した場合は、「管財事件」と「同時廃止」のどちらで処理されるでしょうか?
弁護士や司法書士が作成する場合でも「いかに同時廃止で処理してもらえるか」という点に神経を注いで作成する自己破産の申立書を、法律の素人である申立人本人がネットでググった知識だけで作成した場合、その申立書をチェックする裁判所の書記官や裁判官はどのように判断するでしょうか?
おそらく答えは明らかだと思います。弁護士や司法書士の関与がない申立人本人の作成した自己破産の申し立てがあった場合は、裁判所は「同時廃止」ではなく「管財事件」として処理することになる可能性は極めて高いのではないでしょうか。
もちろん、前述したようにネットで調べれば自己破産の申立書のひな型は出てくるでしょうし、自営業者や会社役員などではなくめぼしい資産もないような案件では申立書の作成はそれほど難易度の高いものではありませんから、法律の素人であっても自己破産の申立書を作成することも不可能ではないでしょう。
しかし、実際に裁判所に弁護士や司法書士の関与がない申立書が提出された場合には、裁判官としては「この申立書は弁護士も司法書士も関与してないから一応管財人にチェックさせておいた方がいいな」という判断が働くことは間違いありません。
(※実際、弁護士や司法書士の関与のない申立書が提出された場合はすべて管財人を付けて調査させる管財事件として処理する方針をとっている裁判所もあるようです)
そうすると、弁護士や司法書士の関与していない自己破産の申し立てがあった場合は、よほど記載の不備や不足書類がなく、資産や不正がないことが書面上明らかな案件出ない限り「同時廃止」ではなく「管財事件」の方に回されることになるでしょう。
そうなると当然、裁判所から選任される破産管財人に支払うべき管財費用(引継予納金)の納付が必要になってきますから、弁護士や司法書士に依頼しないことで「弁護士や司法書士に支払う報酬を節約できた」と思っていても、結局は「最低でも20万円」は余計に費用が必要になってくることになります。
このように考えると、「費用を安く抑えるために弁護士や司法書士に依頼しないで自分で申立書を作成する」ということに、はたしてメリットがあるのかという点に疑問が生じるでしょう。
法律の素人がネットでググって申立書を作成するだけでも相当な労力と時間を要するでしょうから、そんな労力と時間をかけて苦労して申立書を作成したのに、結局「最低でも20万円」を管財費用(引継予納金)として裁判所に納めなければならないとしたら、最初から少々の費用負担を受け入れて弁護士や司法書士に依頼し「同時廃止」で処理してもらう方がかえって安上がりとも言えます。
ですから、もしも自分自身で申立書を作成して手続きを進めていこうと考えている人がいる場合は、その点をもう一度よく考えてみる方がよいかもしれません。
最後に
以上のように、弁護士や司法書士に依頼しないで自分で申立書を作成することは、「管財事件」として処理される可能性が高いことを考えるとあまりメリットがあるようには思えません。
もちろん、自分で自己破産の申立書を作成することは、それまでの借り入れや生活状況を過去にさかのぼって見つめなおす良いきっかけになりますから、そのこと自体は有意義な面も有していることは否定しません。
しかし、「費用を安くしたい」ためにあえて多大な労力と時間を掛けて申立書を自分で作成したとしても、結局は後で「管財事件」として処理されることで「最低でも20万円」の管財費用(引継予納金)が必要になる可能性はある(というかその蓋然性が極めて高い)ということは理解しておいてもらいたいと思います。