風俗営業法に関係する労働者が自己破産する場合の注意点

借金の返済が事実上不能になった場合には、最終的に自己破産の手続きを裁判所に申し立て、裁判所から免責の許可を受けることによって借金の返済を免除してもらうほかありません。

この自己破産の手続きは借金整理の最終手段であって、その門戸は全ての人に開かれていますから、多重債務者の職業に関係なく、どのような職種で働く人であっても自己破産を申し立てることによって借金の返済を免除してもらうことが可能です。

ところで、多重債務に陥ってしまう人の中には、借金の返済のために風俗営業法に関係する職種(いわゆる水商売や性産業)で働く人も少なくないと思われますが、当然、このように風俗営業法関連の仕事に従事している場合であっても自己破産の申し立てをすることに差し支えはありません。

しかし、風俗営業法関連の職種は、その仕事の性質上、他の職種と異なる部分もありますので、風俗営業法関連の仕事に就いている人が自己破産の申立を行う場合は一定の注意が必要となります。

では、風俗営業法関連の仕事で働いている労働者が自己破産の申立を行う場合には、具体的にどのような点に注意することが必要なのでしょうか?

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風俗営業法関連の仕事で収入を得ていることを隠してはいけない

風俗営業法関連の仕事に従事している労働者が自己破産する場合にまず注意しなければならないのは、風俗営業法関連の仕事で収入を得ていることを隠してはいけないという点です。

風俗営業法関連の仕事は世間的にあまり知られたくない業種であることも多くありますので(特に性産業に従事している場合など)、場合によっては弁護士や司法書士に相談する際に風俗営業法関連の仕事に就いていることを隠したくなる気持ちも分からないわけではありません。

しかし、自己破産の申し立てにおいては、その仕事で収入を得ている以上、その収入は全て「資産」として計上し、裁判所に報告しなければなりませんので、風俗営業法関連の仕事についていることを隠して申し立てをしてしまった場合には、実際は得ている収入を隠して申し立てをすることになってしまい、悪くすると詐欺破産罪で告発される恐れも生じてしまいます(破産法第265条第1項1号)。

【破産法第265条第1項】

破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(中略)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(省略)。
第1号 債務者の財産(中略)を隠匿し、又は損壊する行為
(※以下省略)

ですから、風俗営業法関連の仕事についている場合には、その仕事で収入を得ているという事実は必ず自己破産を依頼する弁護士や司法書士に申告しなければならないと思って下さい。

もっとも、これはなにも「私は〇〇というお店で〇〇嬢をやっています」などと、その風俗営業法関連の仕事内容を具体的に告知する必要があるといっているわけではありません。

自己破産の手続きでは「風俗営業法関連の仕事に就いていることそのもの」が重要なのではなく、「(その仕事で)収入があること」や「本業とは別に(その仕事で)収入があること」を申告することが必要なだけですから、弁護士や司法書士に自己破産を依頼する場合には「〇〇というお店で働いていること」と「収入がいくらあるか」といった内容を詳細に説明すれば足り、仕事内容については「サービス業です」とか「接客業です」と申告するだけで申立書は完成させることが可能です。

(※依頼人から「お店の名前」や「収入」を聴取した弁護士や司法書士は裏を取るために一応そのお店の業種等を調べるのが通常ですので、「サービス業です」とか「接客業です」とか申告するだけである程度風俗営業法関連の仕事に就いていることはわかります)

ですから、風俗営業法関連の仕事についている場合には、それを隠すのではなく、その「収入」や「お店の名前」、「サービス業」や「接客業」といった仕事内容ぐらいは申告するようにし、その事実を隠すようなことは避けなければならないといえるのです。

風俗営業法関連の仕事についても給与明細書の提出が必要

風俗営業法関連の仕事に就いている人が自己破産の申し立てをする場合には、その風俗営業法関連の仕事で得ている給料に関する給与明細書の写し(コピー)を裁判所に提出しなければなりません。

自己破産の手続きでは、その申立人が収入を得ている場合には、給与明細書(なければ源泉徴収票でもよい)や自営業者の場合は市区町村役場発行の所得証明書の添付が必要であり、風俗営業法関連の仕事であってもそれは例外ではないからです。

この点、本来の仕事とは別に副業として収入がある場合には、その副業の給与明細書等の添付も必要となりますから、本業とは別に、例えば夜や土日だけ風俗営業法関連の仕事に従事しているような場合であっても、その副業の風俗営業法関連の仕事で受け取った給与の給与明細書等の添付が必要となりますので注意が必要です。

勤務先からの借り入れがある場合は勤務先が自己破産の債権者になる

風俗営業法関連の業種では、店側が労働者に対してお金を貸し付けたり、給料の前渡しをするようなケースが稀に見られます。

このような場合は、風俗営業法関連の仕事に従事している労働者が勤務先のお店からお金を借りている(借金をしている)状況になりますから、仮にこのような状況で自己破産の申立を行う場合には、その勤務先のお店を自己破産の手続きにおける「債権者」として裁判所に届け出なければならないことになります。

そうすると、自己破産の手続き上で裁判所からその勤務先のお店に自己破産の手続きが開始されたことの通知がなされることになりますから、自分が自己破産の手続きをしていることが勤務先のお店に知られてしまうことになりますし、勤務先のお店から借りているお金は「踏み倒す」ことになるのは避けられません。

このように、勤務先のお店からお金を借りていたり給料の前借をしている場合には、勤務先のお店が自己破産の手続き上債権者として扱われることにより、勤務先のお店との関係が悪くなってしまう可能性もあるため注意が必要です。

そのため、仮に風俗営業法関連の仕事に従事している人が、勤務先のお店からお金を借りていたり給料の前借をしている状況にある場合には、自己破産を依頼している弁護士や司法書士に十分に事情を説明し、事前に勤務先のお店に事情を話して理解を求めておくなど、適切な対処をとることができるよう配慮を求めておかなければならないといえます。