自己破産が避けられないほど借金が膨れ上がっている場合であっても「自己破産したらクレジットカードが使えなくなる」という理由で自己破産の申し立てを躊躇している人が意外に多くいるようです。
この点、確かに自己破産の申立を行うと信用情報機関に5年~10年の期間事故情報として登録されることになりますから、自己破産後に新しくクレジットカードを作ろうとしても審査で落とされてしまいますので、以後5年~10年はクレジットカードを持つことはできなくなってしまいます。
また、自己破産の手続きではすべての借金の借入先を債権者として裁判所に申告することが強制されており、一部の債権者だけを手続きから除外して弁済を継続することは「偏波弁済(へんぱべんさい)」として禁止されています。
そして当然、クレジットカードの発行会社を自己破産の債権者として申告した場合には、そのクレジットカード会社の発行するクレジットカードは使用できなくなってしまいますから、やはり自己破産をした後、5年~10年の期間はクレジットカードを持つことができなくなってしまうのは避けられないといえます。
もっとも、だからと言って絶対に自己破産後にクレジットカードが使えなくなるかというとそうでもありません。
なぜなら、かなりのレアなケースで条件は非常に狭まることになりますが、一定の条件がそろった場合に限り自己破産後もクレジットカードを使用できる場合があるからです。
自己破産後も継続してクレジットカードを使用することができる場合
前述したように、自己破産する場合は全ての債権者を自己破産の手続きに含めなければなりませんし、自己破産したことは信用情報機関に事故情報として登録され以後のクレジットカードの審査で落とされることになりますから、自己破産した場合には全てにクレジットカードが使用できなくなるのが原則です。
ただし、次の3つの条件がそろった場合には自己破産後も一定期間(そのカードの更新日が到来するまでの期間)に限りクレジットカードを使用することが可能であると考えられます。
【条件1】自己破産の申し立てをする時点で自己破産前に作ったクレジットカードの発行会社からの借り入れが一切ないこと
一つ目の条件は、自己破産の申立前に作ったクレジットカードを保有していて、かつ、自己破産の申立時点(自己破産の開始決定が出される時点)でそのクレジットカード会社から1円もお金を借りていない状態にあることです。
自己破産の申し立て時点(自己破産の開始決定が出される時点)でそのクレジットカードの発行会社から借り入れがなければ良いので、過去にそのクレジットカードの発行会社から借り入れがあったとしても、自己破産の申立を行う相当程度前に借り入れを全て完済していれば問題ありません。
※自己破産の直前にそのクレジットカードの発行会社からの借入を弁済し完済してしまっている場合は自己破産の手続き上で「偏波弁済」として問題にされる場合がありますから、仮にそのカードの発行会社から何らかの借り入れが過去にあった場合には、自己破産の申立をする日から相当程度前にその借り入れを完済している必要があります。
できればそのクレジットカードの発行を受けた時点から一度もそのクレジットカードを利用せず、かつ、そのクレジットカード発行会社から他の借入も一切したことがないというのが理想的です。
なお、自己破産後もその会社のクレジットカードを使用するために「相当程度前」に完済したという状況を作るため、本来であればすぐに自己破産しなければならない状況にあるにもかかわらず、「そのクレジットカードの発行会社の債務は相当程度前に返済したから偏波弁済には当たらない」という主張が成り立つように故意に自己破産の申立を先送りした場合には、免責不許可事由に該当し自己破産の免責が受けられなくなってしまう可能性がありますので注意が必要です(破産法第252条1項2号および5号)。
【破産法第252条】
裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
一 (省略)
二 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
三~四(省略)
五 破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
六(以下省略)
このように、「自己破産の時点で借り入れが一切ないクレジットカードの発行会社」は【条件2】で後述するように、自己破産の債権者として手続きに含めなくても構わないことになりますから、既に発行されているクレジットカードが失効することもなく、自己破産の手続き後もそのクレジットカードを使用することは妨げられないことになります。
【条件2】そのクレジットカードの発行会社を自己破産の手続きで債権者として挙げていないこと
2つ目の条件は、【条件1】のクレジットカードの発行会社を自己破産の債権者として挙げていないことです。
前述したように、自己破産の手続きでは全ての債権者を平等に扱わなければならず、一部の債権者だけを手続きから除外して弁済することは偏波弁済となり禁じられていますので、全ての負債(借金)に関する債権者を裁判所に申告して手続きを進めなければなりませんが、【条件1】に挙げたように、自己破産の申立を行う時点(自己破産の開始決定が出される時点)で1円も借り入れがない場合はたとえクレジットカードの発行を受けていたとしても自己破産の手続きにおける「債権者」には含まれないことになりますので、その「自己破産の時点で借り入れが一切ないクレジットカードの発行会社」を自己破産の債権者から除外して手続きを進めても何ら問題は生じません。
(※「自己破産の時点で借り入れが一切ないクレジットカードの発行会社」にはそもそも負債が存在しないので、偏波弁済の問題が生じることもありえません)
そのため、自己破産の申立書を裁判所に提出する場合には、この「自己破産の時点で借り入れが一切ないクレジットカードの発行会社」を申立書から除外して申立をしても構わないのですが、弁護士や司法書士によっては「そのクレジットカードの発行会社に万が一借り入れが残っていた場合」を想定して、そのクレジットカードの発行会社の債権額を「0円」として自己破産の申立書に記載する場合があります。
このようにしておかないと、仮にそのクレジットカードの発行会社に債務が残っていた場合、自己破産の免責(※借金の返済が免除されること)が認められてもその債務が免責の対象とならず、依頼を受けた弁護士や司法書士の責任問題となってしまうからです。
しかし、「自己破産の時点で借り入れが一切ないクレジットカードの発行会社」を自己破産の債権者として手続きに含めてしまうと当然、その会社が発行しているクレジットカードは失効し使用できなくなってしまいますので、その会社のクレジットカードを自己破産後も使いたい申立人にとっては不都合が生じてしまいます。
ですから、自己破産の申し立てをする際に「自己破産の時点で借り入れが一切ないクレジットカードの発行会社」の発行したクレジットカードを残したい場合には、その旨を自己破産を依頼した弁護士や司法書士によく説明し、「自己破産の時点で借り入れが一切ないクレジットカードの発行会社」を手続きに含めないようにしてもらう必要があります。
【条件3】自己破産の開始決定が出された後にそのカードの更新日が到来していないこと
最後の条件は、自己破産の開始決定が出された後に、その「自己破産の時点で借り入れが一切ないクレジットカードの発行会社」から発行を受けたクレジットカードの更新日が到来していないという点です。
前述したように、「自己破産の時点で借り入れが一切ないクレジットカードの発行会社」は自己破産の手続きにおける債権者として申告する必要がありませんので、その会社が発行しているクレジットカードは自己破産の申し立てをした後も使用することができることになります。
しかし、自己破産の申立を行い、裁判所が官報による公告をおこなって自己破産の申立人の住所と氏名が官報に掲載されてしまった場合には、その情報が「JICC」や「CIC」「全国銀行協会」といった信用情報機関に事故情報として登録されることになりますので、その自己破産の申立後にカードの更新日が到来してしまった場合には、その更新の際の審査でその信用情報機関に登録された事故情報が問題になり、審査で落とされることになるでしょう。
ですから、「自己破産の時点で借り入れが一切ないクレジットカードの発行会社」の発行するクレジットカードが自己破産の手続き後も残されたとしても、あくまでもそのカードを利用することができるのは、自己破産の手続きが終了した後からそのカードの更新日が到来するまでの期間に限られ、そのカードの更新日がすぐに到来してしまうようであれば、そのカードの失効は避けられないといえます。
ただし、上記の条件を満たすケースはあまりないはず
以上のように、条件が揃えば、自己破産の手続き後もそのクレジットカードの更新日が到来するまでの期間であれば、そのカードを利用して借り入れをすることも可能といえます。
もっとも、自己破産の申立を行う人は借入ができるところからは全て借り入れをしているのが通常ですので、クレジットカードの発行を受けていながらその発行会社から一切借り入れをしていないというのはかなりのレアケースではないかと思います。
通常はクレジットカードの発行を受けていれば何がしかの借り入れがあるはずですので、上記のように自己破産後もそのクレジットカードを利用することができるケースはあまりないのではないかと思います。
なお、自己破産の申立直前に新しくクレジットカードの発行を受ければよいと思うかもしれませんが、自己破産の申立を予定している(または他に多額の借金がある)ということ自体が「借金を返済する見込みがない(又は他に多額の借金を抱えている)」ということを自覚していることになりますから、そのような状況にあることを隠してカードの発行を受けることは、クレジットカードの発行会社を欺いてカードを発行させるという点で詐欺罪に該当しますので絶対にしてはいけません。
また、クレジットカードの約款によっては、その発行を受けているクレジットカードの契約で負債が生じていない場合であっても、他の債務で自己破産した場合にはクレジットカードの返納を促したり、クレジットカード会社への申告を義務付けている会社もありますから、そのようなクレジット会社からクレジットカードの発行を受けている場合には、上記の条件にかかわらず、クレジットカードが使えなくなってしまうものと考えられます。
※このような会社のクレジットカードを利用している状況で、自己破産の申し立てを隠してそのクレジットカードを利用した場合にも、その約款に違反して虚偽の申告をしクレジット会社から融資を受けたものとして詐欺罪が成立する余地がありますので、こういった約款のあるクレジット会社のカードを利用している場合は、上記のような条件を満たしてもクレジットカードを利用し続けることはできないと考えてください。
ですから、その点を考えても、上記の条件で自己破産後もそのクレジットカードを利用することができるのは相当なレアケースということができます。
弁護士や司法書士の助言をよく聞くこと
誤解してもらいたくないのは、だからといって自己破産後もクレジットカードを残して使い続けることを勧めているわけではないという点です。
自己破産する人は財産管理能力に何らかの問題があることが多くありますから、自己破産をした後は一切借り入れをすべきではないのが原則であって、自己破産をするのであれば全てのクレジットカードを失効させて一からやり直すのが本来取るべき道です。
ですから、仮に上記のような条件を満たす場合であっても、そのようなクレジットカードがある場合には、その存在を自己破産を依頼する弁護士や司法書士にきちんと伝えるようにしてください。
また、たとえそのクレジットカードの発行会社に債務がなかったとしても、クレジットカードの発行を受けている限り、借金全体の原因を把握するために弁護士や司法書士の方でそのクレジットカードの存在を把握しておく必要がありますから、依頼する弁護士や司法書士にそのカードの存在を隠すのは好ましくありませんので必ず申告しておく必要があるといえます。
そして、弁護士や司法書士が債権者に載せる必要があると認めた場合には、それに従って自己破産の手続きで処理し、カードが失効してしまうことも受け入れる必要があるといえます。