自己破産で問題になる詐術とは具体的にどんな嘘をいう?

自己破産の手続きにおいては、手続きの適法性を担保する目的として、あるいは債権者の保護のために、裁判官や破産管財人に事実と異なる説明や申告をすることが「詐術」に関する罪として刑罰(説明義務違反の罪や詐欺破産罪)をもって禁止されています。

▶ 自己破産の手続きで嘘をつくとどうなるか?

そのため、自己破産の申し立てを行う場合は申立書に嘘偽りなく真実を記載し、裁判官や破産管財人の質問にも正直に事実だけを申告しなければならないわけですが、実際の手続きでは具体的にどのような「詐術(嘘)」が問題とされることがあるのでしょうか?

自己破産の手続きで嘘(詐術)が認められないのはわかりますが、具体的にどのようなケースでその詐術(嘘)が問題となるのか、簡単に検証してみます。

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 【1】存在する債務(借金)を申告しない詐術(嘘)

自己破産の手続きで問題とされる「嘘(詐術)」としてありがちなのが、実際には存在する債務(借金)を「存在しない」ものとして裁判所に申告するケースです。

たとえば、友人から借りている借金があるにもかかわらず、その友人の借金だけを自己破産の手続きとは別に返済していきたいがために隠そうとして、その友人からの借金を自己破産申立書の債権者一覧表に記載しないようなものが代表的な例として挙げられるでしょう。

このような嘘(詐術)は、債権者の中で友人だけを特別扱いして偏波弁済(特定の債権者にだけ返済を継続すること)の問題を生じさせますし、その友人に返済した分だけ債務者の資産が目減りしてしまうわけですから、自己破産の手続きの正確性を損なうだけでなく他の債権者の利益も棄損してしまうことになります。

そのため、このような存在する債務(借金)を申告しない嘘(詐術)も説明義務違反の罪や詐欺破産罪として問題になることは避けられないのです。

【2】存在しない債務(借金)を存在すると申告する詐術(嘘)

【1】のケースとは反対に、本来は存在しないはずの債務(借金)を存在すると申告する嘘(詐術)もごく稀にみられます。

たとえば、実際は友人からお金を借りている事実がないにもかかわらず「友人からお金を借りた」という事実をでっちあげて債権者一覧表に記載したり裁判官や破産管財人の調査に回答するようなケースです。

このようなケースでは、その本来はお金を借りていない友人が「債権者」として自己破産の手続きに参加することになり、その友人から借りていると偽った借金額の分だけその友人に配当がなされることになりますので、その金額の分だけ他の債権者の受ける配当金額が目減りしてしまいます。

そうすると、自己破産の手続きの正確性が損なわれるだけでなく、その友人の配当に充てられた金額の分だけ他の債権者の利益が棄損されることになりますから、そのような本来存在しない債務(借金)を存在すると申告する嘘(詐術)も説明義務違反の罪や詐欺破産罪として問題にされることになるでしょう。

 【3】存在する資産(財産)を申告しない詐術(嘘)

自己破産の手続きで問題とされる「嘘(詐術)」で比較的多いのが、資産(財産)があるにもかかわらず、その資産(財産)を申立書の資産目録(財産目録)に記載しなかったり、裁判官や破産管財人の調査に対して「資産(財産)はない」と虚偽の申告をするようなケースです。

自己破産の手続きは債務者の資産(財産)と負債(借金)を清算する手続きでもあるため、債務者に一定の資産がある場合には、自由財産(※注1)として保有が認められるものを除いてすべて裁判所に取り上げられて換価され、その換価代金が債権者への配当に充てられるのが原則的な取り扱いとなります。

にもかかわらず、その資産(財産)が「ない」と嘘(詐術)の申告をして手続きを進めてしまっては、その申告されなかった資産(財産)の価格分だけ債権者が受ける配当金額が目減りすることになり、債権者が不測の損害を受けることになってしまいます。

ですから、そのように存在する資産(財産)を申告しない嘘(詐術)も説明義務違反の罪や詐欺破産罪として問題にされることになるでしょう。

※注1
自己破産の手続きでは「現金」は99万円まで、「現金以外の財産」については20万円までの資産については自由財産として保有が認められますが、その価格を超える資産価値がある財産についてはすべて裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられるのが原則です。
ですから、99万円を超える現金や20万円を超える「現金以外の財産」がある場合には、自己破産の手続きにおいて裁判所や破産管財人にその存在を正直に申告する必要があります。
(※なぜ現金以外の財産の価格で20万円が基準になるのかについては→自己破産ではどんな場合に管財事件になるの?)。

【4】ローンで購入した商品が残っているのに残っていないと申告する詐術(嘘)

クレジットカードのショッピング枠を利用したり、販売店のローン等を利用して購入した商品が手元に残っているにもかかわらず「捨てた」とか「壊れた」とか「他人に譲り渡したり売却してしまった」などと事実と異なる申告をするような嘘(詐術)も稀に見受けられます。

しかし、クレジットやローンで購入した商品はそのローンが完済されるまでそのローン会社や販売店に所有権が留保されているのが通常で、ローンの途中で債務者が自己破産するような場合は、その商品は引き揚げられて中古品市場で売却されその売却代金がローンの残金に充当されるのが通常の取り扱いです。

そうすると、そのように「手元に残っていない」と嘘(詐術)の申告をしてしまった場合は、債権者が商品を引き揚げることができなくなる結果、債権者が不足の損害を受けてしまうことにつながってしまいます。

また、仮にその商品の所有権がローン会社や販売店に留保されていないケースであっても、先ほどの【3】で説明したように債務者の資産(財産)は債権者への配当に充てられるのが原則ですから、本来は手元に残っている商品(資産・財産)を「手元にない」と申告する嘘(詐術)は、その商品から配当を受けようとする債権者の利益を棄損することにつながるでしょう。

このように、ローンで購入した商品が残っているのに残っていないと申告する嘘(詐術)についても所有権の留保の有無にかかわらず債権者の利益を害する結果となりますので、破産法でに規定された説明義務違反の罪や詐欺破産罪として問題にされることは避けられないでしょう。

【5】特定の債権者に返済してることを隠す詐術(嘘)

債権者一覧表に記載した一部の債権者に自己破産直前まで返済を継続していたり、自己破産の申立て後も密かに返済した事実があるにもかかわらず、その事実を隠して「返済していない」と嘘(詐術)の申告をする人もごく稀に見受けられます。

しかし、自己破産の手続きではすべての債権者を平等に扱わなければならず、自己破産の手続きを開始しなければならないほど返済が困難になった時期以降に、特定の債権者だけに返済を行うことは偏波弁済として禁止されていますので、そのような返済は手続き的に違法であり、またそれを隠す嘘(詐術)の申述も違法となります。

ですから、このように特定の債権者に返済してることを隠す嘘(詐術)についても説明義務違反の罪や詐欺破産罪として問題にされることは避けられないといえます。

【6】借入を始めた日以降の生活状況に関する詐術(嘘)

自己破産の手続きでみられる嘘(詐術)の申告のうち一番多いのは、借り入れを開始した当初から自己破産に至るまでの間にどのような生活を送ってきたか、という生活状況に関して事実と異なる申告をしてしまうケースです。

たとえば、自己破産の手続きではギャンブルや浪費などが免責不許可事由の問題を生じさせることが多いのですが、そういった自分に不利になる事実で手続き上の問題が生じないように、故意にそういうギャンブルや浪費等の事実を隠して申し立てをするような場合です。

このような事実と異なる嘘(詐術)の申告は、自己破産の免責(借金の返済義務が免除されること)の審査を行う裁判官や破産管財人の判断を誤らせることになり手続き上の適法性を損なうことになりますし、免責が出されることによって返済が受けられなくなる債権者の利益を害する結果につながりますから、認められるものではありません。

そのため、このような借入を始めた日以降の生活状況に関する嘘(詐術)についても説明義務違反の罪や詐欺破産罪にあたるものとして問題にされることは避けられないといえます。

最後に

以上はあくまでも一般的な自己破産事件で見受けられる嘘(詐術)にすぎません。

自己破産の手続きではどのような内容の調査事項であっても事実と異なる申告や回答をすることは認められませんから、上記以外の嘘(詐術)の申告であっても説明義務違反の罪や詐欺破産罪として刑事責任を問われる可能性はありますので誤解のないようにしてください。

自己破産の手続きは一般的な訴訟と同じく、裁判所で行われる裁判の一種であって、そこで嘘の申告をすることは厳しく対処されますから、自己破産の手続きでは絶対に事実と異なる申告をしないように心がける必要があるといえるでしょう。