親にお金を貸している状態で自己破産すると何か問題が生じるの?

親に対して「お金を貸している」人が、その貸したお金を返してもらっていない状態のまま自己破産の手続きを行う場合、その「親に貸しているお金」が自己破産の手続きで問題になることがあります。

なぜなら、たとえそのお金を貸している相手が「親」であったとしても、他人に「貸しているお金」は「戻ってくるお金」として「財産」と考えられますから、自己破産の手続きにおいては債権者の配当に回すべき「資産」と判断されることになるからです。

自己破産の手続きは裁判所から「免責」の決定が出されることによって借金の返済が全て免除されることが目的ですが、なにも無条件に免除されるわけではありません。

所有するすべての財産をお金に換えて借金の返済に充てても返済できない場合にだけ自己破産の「免責」が認められるのが原則ですから、自己破産の本質は個人の資産の「清算手続」に他ならず、所有する資産はその全てが裁判所(破産管財人)に取り上げられて換価対象となるのが基本的な取り扱いです。

そのため、自己破産の申立人が「親」にお金を貸している場合には、その「親に貸しているお金」が自己破産の手続き上で「資産」として扱われる結果、様々な問題を生じさせるケースがあるのです。

では、親にお金を貸している状態にある人が自己破産の申立を行う場合には、自己破産の手続き上で具体的にどのような問題が生じうるのでしょうか?

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破産管財人の費用(管財費用)が必要になる

前述したように、自己破産の手続きをする時点で「親」にお金を貸しているような場合には、その「親に貸しているお金」は裁判所から「資産」と判断されますから、裁判所から選任された破産管財人がそのお金を回収し、債権者に配当するのが通常です。

この場合、破産管財人は裁判所の管財人名簿に掲載された弁護士がその役を担いますが、破産管財人(裁判所から選任される弁護士)もボランティアではありませんので、その費用(報酬※管財費用)が必要となります。

この点、その管財人の報酬は当然、自己破産の申立を行った申立人本人が負担することが必要ですから、親にお金を貸している状態で自己破産する場合には、破産管財人の報酬(管財費用)が余分に必要になるということになります。

なお、破産管財人の報酬は通常20万円が平均額とされていることから、20万円を下回る資産しかない場合は破産管財人を選任すること自体が費用倒れとなってしまうため、破産管財人が選任されずに手続きが進むこともありますが(同時廃止事件)、資産価値が20万円を超える場合には破産管財人が選任されるのが原則となりますので(※この点の詳細は→なぜ「20万円」が基準になるのか?)、20万円以上の金額を親に貸している場合には破産管財人が選任されると思っておいた方が良いでしょう。

破産管財人が代わりに回収してしまう

前述したように、親にお金を貸している状態で自己破産する場合には、その「親に貸しているお金」は資産と判断されますから、裁判所から破産管財人が選任されて回収し、回収したお金を債権者に配当することになります。

この場合、破産管財人は「親に貸しているお金」を回収するのですから、破産管財人はまず「親」に対して請求書を送付し、支払いがない場合には裁判を提起し最終的には差押えをしてでも回収を図ることになるでしょう。

しがって、仮に「返すのはいつでもいいよ」と親に言っていたとしても、そのような私情は関係なく破産管財人に強制的に回収されることになります。

このように、「親」にお金を貸している場合には破産管財人から厳しく請求を受けることも有り得るといえますので、事前に親に話しておくなどしておかないと、親の方が迷惑してしまう可能性もあるので注意が必要です。

※もっとも、前述したように「貸しているお金」が20万円を超えない場合には実務上「資産」と判断されないため破産管財人が選任されない場合もありますから、「親に貸しているお金」が20万円を超えない場合にはそのような心配が必要ないこともあるでしょう。

破産管材人が代わりに回収する結果「親バレ」してしまう

以上のように、自己破産する人が「親」に(20万円以上の)お金を貸している場合には、自己破産の手続きにおいて裁判所から破産管財人が選任され、親に対する貸付金の回収を行いますので、当然、その「親」に対しては自分が自己破産の手続きをしていることが知られてしまうことになります。

「親バレ」したくない場合は自己破産の申立前に親から返済を受けるしかない

なお、破産管財人が代わりに回収してしまうことによって「親バレ」を防ぐためには、自己破産の申立前に親から返済を受けるしかありません。

自己破産の申立前に親から貸したお金を返してもらえば、「親」に対する貸付金は消滅してしまいますから、仮に裁判所が破産管財人を選任したとしても「親」に対して請求が掛けられることはないからです(という以前に請求を掛ける根拠がありません)。

もっとも、このように自己破産の申立前に親から貸付金の弁済を受けたような場合には、その弁済を受けたお金は一切手を付けないように保管しておく必要があります。

自己破産の手続きにおいては「自由財産」として99万円までの現金の保有が認められていますが、自己破産申立直前に現金化があった場合には、裁判所は「現金」としてではなく現金化前の「資産」として処理するのが裁判所の実務上の取り扱いとなっています。

(※「親に貸しているお金」は「貸付金債権」という「債権」になりますが、これを自己破産直前に親から回収して「現金」にしたとしても裁判所は「債権」として債権者に配当すべき資産として処理することになります)

仮に親から回収したお金を費消してしまった場合には、破産管財人から「債権者に配当すべきであった財産を不当に処分した」として免責が不許可になったり(破産法第252条第1項1号)、費消した分の金額を積み立てさせられたりする場合も有りますので注意してください。

【破産法第252条】

第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
第1号 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
(以下、省略)