自己破産の申立人にある程度の資産がある場合には、配当に関する手続きを取り行うために裁判所から破産管財人が選任される「管財事件」として処理されるのが通常です。
また「浪費」や「射幸行為」あるいは「資産隠し」など何らかの不正な態様が認められる場合においても、事実関係の調査や違法性の有無について詳細な調査を行うために破産管財人が選任される「管財事件」として処理されるのが一般的です。
※めぼしい資産がなかったり、浪費や射幸行為、資産隠しが疑われないような案件では破産管財人を選任せずに簡易な手続きで終わらせる「同時廃止(事件)」として処理されることになります。
このように自己破産の申立案件が「管財事件」として処理される場合、選任される「破産管財人」は裁判所に備え置かれている管財人名簿に掲載された弁護士が就任するのが一般的ですが、破産管財人である弁護士もタダでは調査を行ってくれないため、その破産管財人に選任される弁護士に報酬を支払う必要が生じます。
その管財人への報酬は一般に「管財費用(引継予納金)」と呼ばれますが、その負担は当然、自己破産の申し立て人である債務者に求められます。
この点、金額は各裁判所によって若干の違いはありますが、ほとんどの裁判所がその最低金額を20万円と定めていますので、自己破産の案件が「管財事件」として処理される場合には「同時廃止」で処理される場合と比較して最低でも「20万円」は余分に費用を負担しなければならないことになるのです。
しかし、自己破産の申し立てをする人はお金に余裕がないから申し立てをしているわけで、裁判所からいきなり「管財事件で処理するから20万円払ってね」といわれても、早々すぐにそのような大金を用意できるわけがないのが現実でしょう。
(中にはそうじゃない人もいるかもしれませんが…)
では、このように自己破産の手続きが「管財事件」として処理されることに決まり、裁判所から「管財費用(引継予納金)」の支払いを求められた場合、分割払いで納付することはできるのでしょうか?
管財費用(引継予納金)の分割納付は基本的に認められていない
結論から言うと、管財費用(引継予納金)の分割納付は基本的に認められていません。
なぜなら、分割納付を認めてしまうと、その納付の管理自体に人的資源が必要になり、ただでさえ人の少ない裁判所の業務が停滞してしまうからです。
ですから、裁判所から「○月の〇日までに管財費用(引継予納金)を〇万円納付してください」といわれれば、必ずその金額を用立ててその期日までに一括で納付する必要があります。
通常は3か月程度の猶予期間を定めてその間に積み立てさせられる
もっとも、裁判所も鬼ではありませんので、裁判官が「管財事件として処理しますよ」と決定したその日に「じゃぁ、今月の末までに管財費用を20万円裁判所に納付してくださいね」などというような酷なことは指示したりしません。
そのような大金がすぐに用意できないことは裁判官も分かりますので、通常は3か月程度の猶予期間を定めて、その猶予期間中に手続きを依頼している弁護士や司法書士の口座に積み立てさせるのが通常です。
たとえば、3月の中旬の審問で裁判官が管財事件として処理することを決定したようなケースでは、6月末までに管財費用を積み立てさせて、6月に管財費用が積み立てられたのを確認してから管財費用(引継予納金)を裁判所に納付させて、7月に入ってから自己破産の開始決定を出すのが通常の手続きの進行パターンとなります。
このように、管財費用(引継予納金)の分割納付が認められないとはいっても、実際にはその納付期日に一定の猶予期間が設けられるのが一般的で、その設けられた猶予期間中は月々の積み立てができるわけですから、実質的には分割払いでの納付ができているということになります。
管財費用(引継予納金)を確保できない場合は?
このように、管財費用(引継予納金)の分割納付が認められないとはいっても、実質的には数か月間の猶予期間がもうけられて積み立てが命じられるのが一般的ですので、それなりの収入があってそれなりの家計管理ができているような経済状態にあるのであれば、管財費用(引継予納金)が納められないというケースはほぼ考えられないでしょう。
もっとも、ケースによってはどうしても管財費用(引継予納金)が納められないと言う人も出てくるでしょうから、そのような場合にどうなるかという点が気になります。
では、管財費用(引継予納金)が納められない場合はどうなるかというと、申立の取り下げを促されることになろうかと思います。「思います」というのは、私が過去に処理してきた案件で実際に予納金が納められなかったケースは1件もないので、確実なことが言えないからです。
もちろん、先ほど述べた積み立てに充てられる猶予期間を1、2か月程度延期してもらえる場合はあると思いますが、裁判所が一定の猶予期間を設けて予納金の積み立てを促しているという場合は申立書に添付された給与明細や家計表などの記載を精査して「この程度の猶予期間を与えればこの程度の予納金の積み立ては可能だろう」と十分に熟慮した結果であることが推測されます。
そうすると、裁判所が設けた猶予期間で予納金の積み立てができないということは、その申立書に記載した給料であったり家計表の支出の項目がそもそも正確なものではないということが疑われるでしょう。
そうなれば、その申立書を作成した弁護士や司法書士がそもそもその申立人の家計をきちんと把握できていないということも想定されますので、裁判所としても「そんなに積み立てができてないんだったら、そもそも申立書に添付した家計表の内容が間違ってんじゃないの?もうちょっと精査してから申し立てしなおした方がいいんじゃないの?」という判断が働きますから、いったん申し立てを取り下げて、申立書の内容をもう一度代理人の方で精査させようとするでしょう。
このように、裁判所が設けた猶予期間にどうしても積み立てができない場合は、いったん申立てを取り下げさせたうえで、弁護士や司法書士にもう一度申立人の家計状況を調査させ、再度申し立てをするよう促すことになるのが現実的と考えられますので、そのような場合は裁判に支持されるとおり、いったん取り下げるしかないのではないかと思います。
費用の仮支弁は適用されるか?
ちなみに、法律上は「費用の仮支弁」という予納金の納付ができない申立人に国庫から予納金を立て替える制度もありますが、実際にこの「仮支弁」が認められるケースは特別な場合に限られると思いますので、普通の多重債務者が申し立てる場合は適用されないと思います。
【破産法第23条】
裁判所は、申立人の資力、破産財団となるべき財産の状況その他の事情を考慮して、申立人及び利害関係人の利益の保護のため特に必要と認めるときは、破産手続の費用を仮に国庫から支弁することができる。職権で破産手続開始の決定をした場合も、同様とする。
法テラスの民事法律扶助を利用する場合は法テラスに立て替えてもらうこともできる
なお、法テラスの取り扱っている民事法律扶助という「弁護士や司法書士の報酬の立替制度」を利用して弁護士や司法書士費用の立て替え払いを受けている場合には、裁判所から納付を求められる管財費用(引継予納金)についても法テラスで立て替えてもらうことが可能です。
ですから、どうしても予納金の納付ができないという場合は、自己破産の手続きを依頼している弁護士や司法書士に相談し、法テラスの民事法律扶助の利用ができないか、確認してもらった方がよいかもしれません。
なお、法テラスの民事法律扶助を利用した場合は、立て替えてもらった後に法テラスに立て替え額を償還しなければなりませんが、毎月5,000円程度から分割での償還も認められていますので、経済的な負担はそれほど大きくないと思います。
最後に
以上のように、基本的に破産管財人が選任された場合に納付が必要となる管財費用(引継予納金)の分割納付は認められていませんが、一定の猶予期間が設けられて積み立てが命じられることで実質的な分割納付も可能ですし、どうしても納付が困難な場合は法テラスの民事法律扶助を利用することもできるわけですから、管財費用(引継予納金)の納付をそれほど不安視する必要はないのではないかと思います。
なお、管財費用(引継予納金)の納付が困難であると今の時点で自覚しているのであれば、すぐに弁護士や司法書士に相談して債権者への返済を停止し、弁護士や司法書士が債権調査や申立書の作成をしている期間に余裕をもって積み立てていけば、実際に申立書を裁判所に提出する段階ではそれなりの金額を積み立てることができるはずです。
ですから、管財費用(引継予納金)の納付をあれこれ悩むぐらいであれば、速やかに弁護士や司法書士に相談し、早い段階から予納金の積み立てを開始するなど余裕をもって準備しておくことが必要になるのではないかと思います。