借金は自己破産する前にできる限り返済すべきなのか?

世の中に様々な性格の人がいるのと同じように、自己破産する人も千差万別で「真面目」な人もいる一方「いい加減」で「不真面目」な人もいるのは当然です。

この点、借金を抱えた人のうち「いい加減」で「不真面目」な人の多くは、借金の返済を放置したまま督促を受けまくり、身動きが取れなくなった状態でようやく弁護士や司法書士に債務整理の相談に行くケースが多いのではないかと思います。

一方、比較的「真面目」な人の場合はその逆で、少ない収入でも生活をやりくりしながら何とか返済原資を捻出し、債務整理を弁護士や司法書士に依頼する直前まで必死に弁済を繰り返して、にっちもさっちもいかなくなった状況でようやく弁護士・司法書士事務所に足を運ぶのが通常でしょう。

このように「いい加減」で「不真面目」な債務者と「真面目」な債務者とを比較してみると、常識的に考えれば「真面目」な債務者の方が圧倒的に返済の態様は褒められるべきなのですが、こと自己破産の手続きを開始するにあたっては、どちらかというと「いい加減」で「不真面目」な債務者の返済状況の方がより推奨されるケースも存在します。

なぜなら、「真面目」な債務者のように弁護士や司法書士に債務整理の相談をする直前まで返済を必死になって継続してしまうと、場合によってはのちの自己破産の手続きにおいて、その自己破産の直前まで返済した事実が問題を生じさせ、自己破産の手続きを複雑化させたり長期化させたりして不都合を生じさせる場合があるからです。

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弁護士や司法書士に債務整理の相談をする直前まで返済してしまうと「偏波弁済」の問題を生じさせる場合がある

弁護士や司法書士に債務整理の相談をする直前まで返済を継続することをなぜ推奨できないかというと、その返済が「偏波弁済」として自己破産の手続きで問題になる可能性があるからです。

「偏波弁済」とは、特定の債権者にだけ優先的に弁済することを言いますが、仮に弁護士や司法書士に債務整理の相談をする直前まで返済を継続し、特定の債権者に対する債務だけを優先的に弁済してしまった場合には、その弁済を優先させた債権者に対して「偏波弁済」をしたということで、のちの自己破産の手続きにおいて問題にされる可能性が発生します(破産法252条1項3号)。

【破産法第252条】

第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
第1号~2号(省略)
第3号 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
(以下、省略)

仮に自己破産の手続きにおいて「偏波弁済」が問題とされれば、「偏波弁済」が破産法で免責不許可事由に該当することを考えると、免責(借金の返済義務が免除されること)が受けられなくなる危険性が生じることになりますので、弁護士や司法書士に債務整理の相談をする直前まで返済を継続してしまうことは、あまり推奨されるべきものではないのです。

もちろん、弁護士や司法書士に債務整理の相談をする直前まで返済を継続してしまう場合であっても、すべての債権者を平等に扱うことに注意してその債権額に応じて平等に返済すれば問題は生じないでしょう。

しかし、債権者の中に債務額の少ない債権者があったりすると、債権者の数を減らすためにその債務額の少ない債権者を優先的に弁済し完済させてしまいたくなるのが普通ですので、そうやって一部の債権者だけを完済させてしまう行為が「偏波弁済」として問題になるケースも少なからずあるのが実情です。

ですから、弁護士や司法書士に債務整理の相談をする直前まで返済を継続してしまうのは、「偏波弁済」として問題とされる可能性があることを考慮した場合には、必ずしも推奨されるものではないといえるのです。

弁護士や司法書士に債務整理の相談をする直前まで返済するメリットはない

このように、弁護士や司法書士に債務整理の相談をする直前まで返済を継続することはのちの自己破産の手続きにおいて「偏波弁済」の疑いをかけられてしまうリスクを考えると推奨されるべきではないといえますが、それはなにも「偏波弁済」だけが理由なのではありません。

なぜなら、弁護士や司法書士に債務整理の相談をする直前まで返済をすること自体にそもそもにメリットがないという点も考える必要があるからです。

そもそも、自己破産の手続きは裁判所から免責の決定を受けることによって借金の返済義務を免除してもらう手続きですから、弁護士や司法書士に債務整理の相談をする直前まで返済を継続しているかいないかに関係なく、免責さえ認められれば借金の返済義務は免除されます。

そして、自己破産の手続きで免責が認められない債務者が路頭に迷う危険性を考えると、裁判官としてはできるだけ免責を認めようと考えるのが通常ですから、自己破産の申し立てがなされれば、その申立人が直前まで返済を継続しているかいないかにかかわらず、免責が出されるのが一般的です。

そうすると、弁護士や司法書士に債務整理の相談をする直前まで返済を継続してもしなくても、結局は裁判所から免責が出されることになるのですから、経済的なメリットを考えれば弁護士や司法書士に債務整理の相談をする直前まで返済を継続するメリットはないわけです。

ですから、そういった意味でも弁護士や司法書士に債務整理の相談をする直前まで返済を継続する積極的な必要性はないということが言えます。

返済に困難を感じた時点ですぐに弁護士や司法書士に相談すべき

以上で説明したように、最終的に自己破産を申し立てるのであれば、弁護士や司法書士に債務整理の相談をする直前まであえて返済を継続する必要性はないといえます。

もっとも、これはなにも「どうせ自己破産するのなら返済しなくてもいい」ということを言っているのではありません。

家計を切り詰めて無理をして返済を継続するのであれば、その時点ですぐに弁護士や司法書士に相談し、すべての返済をストップしてから、本来であれば返済に回していたであろう余剰金を貯金して自己破産の手続き費用に回したり、自己破産後の生活再建のための資金にした方が、自分のためにも債権者のためにもよほどメリットがあるということを言いたいわけです。

「借りたものは返す」のが契約上も道徳上も当然のことですから、返済が可能な家計状況にあるのであれば、できる範囲で返済を継続すべきでしょう。

しかし、家計状況がすでにひっ迫し、返済原資となる余剰金がないにもかかわらず無理をして返済を継続したとしても、先に述べたように偏波弁済の危険性を生じさせますし、そもそも無理をして返済してもしなくても免責は認められるのですから、家計を切り詰めて返済を継続するメリットはそもそも存在しません。

また、債権者の側で考えてみても、無理をして少額の返済を継続されるよりは、さっさと弁護士や司法書士に相談して自己破産をしてもらう方が、不良債権の処理が迅速に行われることにもつながって都合がよい面もあるでしょう。

ですから、毎月の返済が困難に感じた場合には、無理を重ねてギリギリまで返済を継続するのではなく、速やかに弁護士や司法書士に相談し、早めに自己破産の手続きに向けた準備を進めていく方が、よほどメリットが大きいといえるのです。