家賃を滞納して自己破産したら賃貸物件を退去させられる?

自宅の賃貸マンションや賃貸アパートの家賃を滞納した状態で自己破産の申し立てを行った場合、裁判所から免責が出されることによって通常の借金だけでなく滞納した家賃についてもその支払いが全額免除されることになります。

▶ 自己破産すれば滞納家賃も免責の対象になる?

そのため、このようにして自己破産の申し立てを行い、裁判所から免責を出してもらえさえすれば「滞納家賃」という債務に関する経済的な問題は解決することが可能といえます。

しかし、そうやって経済的な問題が解決できたとしても、賃貸契約上の問題残ることになります。

なぜなら、滞納家賃を自己破産の免責によって免除してもらうことは、家主の側からしてみれば滞納家賃の支払いを受けられないことを意味しますので、「滞納分を支払わないんなら出て行ってくれ」と強制的に退去を迫られる危険性が生じないともいえないからです。

では、実際の自己破産の手続きにおいて滞納家賃について免責を受けた場合、家主から契約を解除されて退去を命じられることがあるのでしょうか?

また、退去を求められることがあった場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか?

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自己破産の免責を受けたことだけを理由に家主が賃貸契約を解除したり退去を命じたりすることはできない

結論から言うと、自己破産したことや滞納家賃の免責を受けたことなどだけを理由にして家主が賃貸契約を解約したり退去を命じたりすることはできないものと考えられます。

なぜなら、家主側が一方的に賃貸契約を解除できるのは入居者との信頼関係が破綻したと認めらる特段の事情がある場合に限られるものと一般に考えられていろところ、自己破産の免責を受けたという事情だけでは信頼関係が破綻したとまでは言えないからです。

もちろん、家賃を支払うことは契約で定められているわけですから、入居者が毎月の家賃を支払わず滞納している場合には債務不履行の問題を生じさせ家主側からの賃貸契約を解除する理由になること避けられません。

しかし、2~3か月から半年程度の家賃滞納では、入居者が住居を失ってしまう不利益を考えて、実際の裁判でも契約の解除までは認めないのが通常ですから(もちろん滞納家賃の支払いは命じられます)、数か月程度の滞納家賃を自己破産の免責を受けて処理したからと言って家主側の強制解約や強制退去が認められるわけではないでしょう。

ただし、有効性の有無は別にして家主から退去を迫られることはありえる

このように、法的に考えれば自己破産で免責を受けたことだけを理由に賃貸契約を解除されたり強制退去を命じたりされることはないといえますが、家主によってはそのような法律上の考え方など度外視して一方的に契約を解除してきたり、強制退去を命じたりしてくるケースもないわけではありません。

もちろん、先ほども述べたように、家主が賃貸契約を解除するためには入居者との信頼関係が破綻したといえるほどの事情が必要で、自己破産の免責を受けたというだけではその理由には足りませんし、仮に家主の強制解約が有効であったとしても、入居者を物理的に賃貸物件から退去させるためには、裁判所に賃貸物件の明け渡し訴訟を行い、その訴訟の判決を得たうえで裁判所に明け渡しの強制執行の申し立てを行って、裁判所の監督のもと強制退去を行う必要がありますから、家主から一方的に退去を求められたとしても法的に考えれば退去を拒否することは可能です。

しかし、そうはいっても仮に家主が強制的に入居物件のカギを交換したり、室内に入ってきて荷物を外に持ち出したりするような実力行為に出てくる場合には、何らかの対応をしなければなりませんので法律の知識を持った専門家の協力が不可欠となります。

法律の素人がいくら正論で諭しても家主側がそれに応じる可能性は極めて低いと推測できますから、もし仮にそのような問題が生じてしまった場合には、速やかに弁護士や司法書士に相談し、法的な手続きを利用して適切な対処をしてもらうほかないでしょう。

(※たとえば、裁判所の手続きによらずに強制的に鍵を交換されたり荷物を室外に出されるなどされて居住できなくなった場合には、家主に対して慰謝料を請求したり、自分の部屋に入室できなくなった期間の逸失利益を損害賠償請求することも考える必要があるでしょう。)

最後に

以上のように、仮に滞納家賃を自己破産の免責を受けて処理したとしても、そのことだけで家主が賃貸契約を強制解約したり強制退去を迫る行為は認められないのが普通ですし、仮に家主の契約解除が有効と判断される場合であっても、実際に退去を求められるまでには明け渡し訴訟の判決が出されてその判決が確定し裁判所の強制執行がなされるまでは入居し続けることも不可能ではありません。

ですから、滞納家賃がある場合であっても自己破産することにそれほど不安を持つ必要はないと思いますので、早めに弁護士や司法書士に相談し、自己破産の申し立てに向けた適切な対処をしてもらうことが何より重要なのではないかと思います。