自己破産の申立て後でも自分の車なら運転しても構わない?

自己破産の申し立てをする際に、債務者(自己破産の申立人)が所有する自分名義の自動車がある場合、その自動車は裁判所から選任される破産管財人に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者への配当に充てられることになるのが原則です。

(※ただし、資産価値が20万円を超えない自動車は自由財産としてそのまま保有することが認められます。またローンが残っている場合は自己破産の手続きとは別にローン会社等が引き揚げて売却しローン代金の返済に充当することになります。)

しかし、とはいっても自己破産の申立書を裁判所に提出し、書記官や裁判官がその申立書をチェックして破産管財人を選任するまでには早くても数週間から1~2か月が必要となりますから、仮に資産価値のある自動車を所有している場合であっても、実際に自動車が取り上げられてしまうまでには、申し立てから1~2か月経過した後、ということになるのが通常です。

とすると、実際に破産管財人に取り上げられてしまうまでの数週間から1、2か月の間は、たとえ自己破産の申し立てをした場合であってもその自動車は自分自身が管理して自由に使用すす状態が継続していることになりますので、「運転しようと思えば運転できる」ということになります。

では、このように破産管財人に取り上げられるまでの期間については、自分の自動車を運転することは認められるのでしょうか?

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運転すること自体は自由

前述したように、自己破産の申し立てを行っても、実際に破産管財人が選任されて管財人が債務者(自己破産の申立人)の資産を調査し、実際に自動車を取り上げて換価手続きを取るまでには数週間から1、2か月の期間が必要となりますから、それまでの期間は自分の自動車については従前どおり自分自身で管理しておく必要があります。

そのため、その期間にその自動車を運転してもよいのか、が問題となるわけですが、「運転してもよいかわるいか」と問われれば、「運転してもよい」と答えるしかありません。

なぜなら、実際に破産管財人に取り上げられることが決定するまでは自分自身の所有物であることになるので、自分の所有物を自分が使用することを否定されるいわれはないからです。

もっとも、後述するように、実際には「運転するべきではない」ということが言えます。

ただし、運転しない方がよい

前述したように、破産管財人に取りあげられるまでは自分が管理していることになるのですから、自分の車を自分で運転すること自体が法に触れるわけではありません。

しかし、以下の2つの理由から、自己破産の申し立てを決意した以降は、たとえ破産管財人に取り上げられるまでにタイムラグがあるとしても、自分の車を運転することは控えるべきであるといえます。

(1)事故ってしまうと免責不許可事由に該当する可能性がある

破産管財人に取り上げられるまでの期間であっても自分の車を運転しない方がよい一つ目の理由は、仮に運転して事故を起こしてしまった場合に、免責不許可事由に該当する可能性があるという点です。

破産法の252条では、特定の行為があった場合を免責不許可事由として定めていますが、そこには債権者への配当に充てるべき資産を「損壊」させることも免責不許可事由の一つとして規定されています。

【破産法252条】

裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
一 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。(以下省略)

ですから、運転中に事故を起こしたことによってその自動車を損傷させ、その自動車の資産価値が目減りさせてしまった場合には、「債権者への配当に充てられるべきであった資産」である自動車を「損壊」してしまったということで破産法252条1号の免責不許可事由に該当するものとして「免責(借金の返済義務が免除されること)」が受けられなくなってしまう可能性も生じてしまうのです。

もちろん、この条文では「債権者を害する目的で」と前書きされていますので、仮に事故を起こして自動車を「損壊」させた場合であっても、「単なる過失」で事故を起こしてしまっただけであればそれをもって直ちに免責が受けられなくなるというわけでもないでしょう。

しかし、そうはいっても、いったん事故を起こして自動車の資産価値が目減りしてしまえば、破産管財人がその目減りした原因を調査するのにも余計な労力と時間を要しますし、債務者(自己破産の申立人)本人や依頼を受けている弁護士や司法書士としても、その運転が必要不可欠なものであったことを説明するために上申書を作成して裁判所や破産管財人の理解を求めなければなりますから、そういった事務作業の増大を考えれば運転すること自体が大きなリスクといえます。

このように、運転すること自体が制限されないとはいっても、いざ事故を起こしてしまった場合には、形式的に免責不許可事由に該当することは避けられず、それを回避するために余計な説明や調査など事務作業が増えてしまうことにもなりかねませんので、出来得る限り運転は控えるべきであるといえます。

(2)事故ってしまうと詐欺破産罪で逮捕される可能性がある

また、仮に事故を起こしてしまうと、債権者への配当に充てられるべき資産を「損壊」させてしまうことになり、詐欺破産罪として規定される破産法265条1項の規定によって刑事上の犯罪行為に該当してしまう可能性があることも考えておく必要があります。

【破産法265条1項】

破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(中略)について破産手続開始の決定が確定したときは、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第四号に掲げる行為の相手方となった者も、破産手続開始の決定が確定したときは、同様とする。
一 債務者の財産(中略)を隠匿し、又は損壊する行為
二(以下省略)

先にも述べたように、自己破産の申し立てを行う債務者が所有する自動車が20万円以上の資産価値がある場合、その自動車は破産管財人に取り上げられて売却されその売却代金が債権者への配当に充てられることになるのが基本的な取り扱いとなっているのですから、それを破産管財人に取り上げられる「前」に使用して事故を起こし、その資産価値を目減りさせてしまった場合は、この破産法265条1項1号の「債務者の財産を…損壊する行為」に該当し、刑事罰を受けてしまうことにもなりかねません。

もちろん、この条文の場合も「債権者を害する目的で」と前書きされていますので、「破産管財人に取り上げられて債権者への配当に充てられるのは嫌だから故意に事故を起こして自動車を壊してしまおう」という「故意」がなければこの犯罪は成立しないことになりますから、単に「過失で」事故を起こしてしまっただけであれば犯罪として罪を問われることはないでしょう。

しかし、破産管財人に取り上げられる「前」に事故を起こしてしまったこと自体がこの犯罪事実を客観的に構成してしまうことは避けられませんから、それが「故意」でないことを破産管財人や裁判官に説明する必要が生じることになり、手続きが煩雑化してしまうことになる可能性があります。

ですから、事故を起こしてしまうことで実際に逮捕される可能性は低いとはいっても、その事故が故意でないことを立証しなければならない煩雑さを考えれば、運転すること自体がリスクとなりますので、出来得る限り運転すべきではないということがいえます。

通常は依頼している弁護士や司法書士から「なるべく運転しないように」と言われるはず

以上のように、たとえ破産管財人が実際に自動車を取り上げるまでに数週間から1,2か月のタイムラグがあるとしても、その期間に自分の自動車を運転することは控えるべきであるといえます。

もっとも、自己破産の手続きを弁護士や司法書士に依頼している場合はその依頼した弁護士や司法書士から運転を控えるように指示を受けると思いますので、そう支持された場合にはおとなしくそれに従うようにしておいた方が無難でしょう。

仮に運転する場合であっても任意保険は必ず加入すること

なお、このように基本的には破産管財人に取り上げられる前であってもその所有する自動車を運転することは控えるべきですが、通勤や通学のために自分の車を運転することが避けられない場合もあるでしょう。

そういう場合は運転することもやむを得ないといえますが、その場合には当然、任意保険に加入しておくことは必須の条件となります。

もし仮に任意保険に加入せずに運転して事故を起こし、自己の相手に損害を与えてしまうとなれば、自己破産の申し立て後にいたずらに債務を増大させる結果につながることになり、他の債権者の利益を害することになりますし、事故の時期によってはその事故によって生じる損害賠償債務が自己破産の免責の対象とならず、自分自身の不利益にもなってしまう危険性が生じます。

自己破産の申し立てを考えている人の中には、債務の返済原資を確保するために任意保険を解約し無保険で自動車を運転している人も多く見受けられますが、そういった人が任意保険に加入しないまま運転して事故を起こしてしまうと取り返しのつかない事態に陥ることにもなりかねませんので、十分に注意することが必要であるといえます。