自己破産後に債権者から和解金の支払いを求められたら?

自己破産の申し立てを行って裁判所から免責が出された場合、それまでに発生した債務(借金)に関する全ての返済義務が免除されることになります。

この免責の効力は当然、債権者にも及ぶことになりますから、裁判所から免責が出された日以降は債権者は一切その自己破産で免責を受けた債務者に対して債権の請求をすることができなくなります。

しかし、そのような法律上の効果をすべての債権者が熟知して遵守しているわけではありませんので、中には自己破産の免責で借金の返済義務を逃れた債務者に対して債務の返済を求めたり和解金の請求を督促する債権者が存在しているのも事実でしょう。

では、実際に自己破産の手続きで免責を受けた後に、このような債権者から弁済や和解金の支払いを求められた場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか?

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自己破産後の和解金等の支払い請求は犯罪行為

先ほども述べたように、自己破産で免責を受けた後はそれまで発生した債務(借金)の支払い義務が法的に免除されますから、債権者はその免責の対象となった債権を請求することができなくなります。

この点、債権者の中には、そのような免責の効果を無視して債務者に免責で返済義務のなくなった債務の支払いを請求したり和解金の支払いを求めるところがあるわけですが、法的に考えるとそのような請求は一部の例外(※この点は後述します)を除いて犯罪行為であって違法なものと考えて差し支えありません。

なぜなら、自己破産の免責が出された後に行われるそのような債権者からの請求や督促は破産法第275条で禁止された「破産者等に対する面会強請等の罪」に該当する可能性があるからです。

【破産法275条】
破産者(中略)又はその親族その他の者に破産債権(免責手続の終了後にあっては、免責されたものに限る。以下この条において同じ。)を弁済させ、又は破産債権につき破産者の親族その他の者に保証をさせる目的で、破産者又はその親族その他の者に対し、面会を強請し、又は強談威迫の行為をした者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

破産法275条では、このように破産者に貸し付けていたお金を自己破産の免責後に「弁済させ」たり、その破産者の家族などに「代わりに返せ」と求めたりすることを目的にして「面会や話し合い」を求める行為自体が「3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金」という刑罰によって禁止されています。

ですから、もし仮に債権者が、自己破産の免責が出された後に債務者に向かって「和解金を支払ってくださいよ」とか「貸したお金を返してくださいよ」と請求した場合には、この規定の「面会を強請し、又は強談威迫の行為をした」と判断される可能性も否定できないでしょう。

このように、自己破産の免責を受けた場合には、その後に債権者から和解金や弁済の請求を受けた場合であってもその債権者の行為は「犯罪行為」と判断することができますので、そのような「犯罪」に巻き込まれているという認識を持ったうえで具体的な対応を考える必要があります。

自己破産後に債権者から和解金等の支払いを求められたときの対処法

このように、自己破産で免責を受けた場合は、その免責の対象となった債務の返済義務は法的に確定的に免除されることになりますので、その免責後に債権者から和解金や弁済等の請求を受けたとしても、それは破産法で禁止された「破産者等に対する面会強請等の罪」にあたる違法な犯罪行為にすぎません。

そのため、債権者からそのような和解金や弁済金の請求を受けた場合には、犯罪行為を受けた場合と同じように以下のような方法をとって対処する必要があります。

(1)基本的には無視するしかない

先ほども述べたように、自己破産で免責を受けた後に債権者から和解金や返済金の支払いを求められたとしても、それは法的な根拠のない「破産者等に対する面会強請等の罪」に当たる可能性のある違法な請求といえますから、いわば「振り込め詐欺」や「架空請求詐欺」などを受けた場合と同様に考えて差し支えないことになります。

そうすると、「振り込め詐欺」や「架空請求詐欺」を受けた場合と同じように、そのような請求を一切無視するのが一番手っ取り早く確実な対処法となります。

実際に債権者から請求がなされると「ほっといたら裁判されたりするんじゃないだろうか」と不安になるかもしれませんが、自己破産で免責を受けたのであれば債権者に和解金や返済金の支払いを請求する法的な権限はありません。

ですから、「振り込め詐欺」や「架空請求詐欺」を受けた場合と同じように、一切無視して構わないのです。

(2)警察に被害届を出す

無視しても債権者からの請求が治まらない場合は、警察に被害届を出すというのも一つの方法です。

先ほども述べたように、自己破産で免責を受けた後に債権者から和解金や返済金の支払いを求められる場合には、その債権者の行為は「破産者等に対する面会強請等の罪」として刑事責任を問われる行為と判断できますので、警察に被害届を提出して捜査を促すことも可能です。

もちろん、警察が実際に重い腰を上げて捜査を開始することはハードルが高いと思いますが、ケースによっては警察が動くこともあると思いますので、あまりにも債権者が請求を止めない場合には、警察への被害届も一つの解決手段として考えておいた方がよいのではないかと思います。

(3)弁護士や司法書士に相談する

対処法として一番いいのは、自己破産を依頼した弁護士や司法書士に相談し、債権者への対応を取ってもらうことです。

自己破産の免責を受けた後に債権者から和解金や返済金の支払いを求められているということは、その債権者との間の債務に関するトラブルは今だ継続しているということが言えますので、自己破産を依頼した弁護士や司法書士に相談すれば通常は「自己破産の手続きに含まれるもの」として追加費用なしで対処してもらえるはずです

ですから、実際にそのような請求を受けている場合には、まず自己破産の手続きを依頼した弁護士や司法書士の事務所に電話をして相談してみるのが一番いいのではないかと思います。

自己破産の申立書に漏れがなかったかという点も確認すること

以上のように、自己破産の免責を受けた後に債権者からなされる和解金や返済金の支払い請求は法的な根拠を欠いたものであって「破産者等に対する面会強請等の罪」に該当する可能性のある行為といえますから、基本的に無視するしかありません。

もっとも、債権者からそのような和解金や弁済金の支払いを受けた場合は、その債権者がキチンと自己破産の手続きで債権者として挙げられていたか、という点は念のため確認しておく必要があります。

なぜなら、もし仮に自己破産を行った際に裁判所に提出した債権者名簿(債権者一覧表)に、その債権者が記載されておらずその債権者が自己破産の手続きから漏れてしまっていた場合には、その債権者に対する債務は免責の対象とはならないのが原則的な取り扱いになっているからです(破産法253条1項5号)。

【破産法第253条1項】
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない
一~五(省略)
六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七(以下省略)

もし仮に、その自己破産後に和解金や弁済金を請求してきている債権者の存在を「失念」した状態で債権者一覧表を作成して裁判所に提出していたり、弁護士や司法書士の手違いで債権者から漏れていた場合には、自己破産で免責を受けていたとしてもその免責の効力がその債権者に及ばないことになりますので、そのような債権者の請求は法的な根拠のあるものとして有効となってしまう可能性も否定できません。

ですから、自己破産の手続き後に債権者から和解金や返済金の支払いを求められた場合には、その自己破産の手続きを依頼した弁護士や司法書士に一度連絡し「債権者から請求が来ているけれども自己破産の手続きで漏れはなかったか」「債権者一覧表にはきちんとその債権者に対する債務を記載していたか」といった点を確認することは忘れないようにしなければならないといえます。

最後に

以上で説明したように、自己破産で免責を受けた場合には、それまで発生した債務の返済義務は免除されますので、その後に債権者から請求が来たとしても「債権者名簿に記載しなかった」というような特別な事情がない限り、犯罪行為ともいえる違法な請求と考えて無視しても構わないということが言えます。

もっとも、いずれにしても自己破産の手続きを行う際に弁護士や司法書士に依頼して処理してもらっているはずですので、その依頼した弁護士や司法書士に速やかに相談して解決を図ってもらうのが何より安全な対処法になるのではないかと思います。