自己破産で郵便物が管財人に転送されるのはどんな場合?

自己破産する際に意外と気になるのが、裁判所に申し立てを行うと自宅宛てのすべての郵便物が管財人の方に転送されてしまうのではないか、という点です。

実際、破産手続きでは債務者である申立人宛てに送られた郵便物が裁判所から選任される破産管財人の事務所に転送されることがありますので、その転送手続きがどのように行われるのかという点は、自己破産を検討している人であれば誰しも興味があるところでしょう。

そこでここでは、実際の自己破産の手続きにおいて、具体的にどのような案件で郵便物の転送がなされるのか、またその転送された郵便物が具体的にどのような取り扱いを受けることになるのか、簡単に解説してみることにいたしましょう。

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「同時廃止」で処理されるような案件では転送されることはない

まず、誤解してもらいたくないのが、自己破産したからといってすべてのケースで郵便物が破産管財人のもとに転送されるわけではないということです。

自己破産の手続きで郵便物が破産管財人に転送されるのは、その案件が「管財事件」として処理される場合に限られるのが実務上の取り扱いです。

自己破産の申立書を裁判所に提出した場合、裁判所の書記官と裁判官が申立書をチェックして不備がなければ自己破産の「開始決定」を出して破産手続きを進めることになりますが、その際に裁判所はその事件を「同時廃止」と「管財事件」のどちらか一方に振り分けることになります。

「同時廃止」と「管財事件」の違いをここで説明すると長くなるので割愛しますが、めぼしい資産がなかったり、反省を促されるべき事情がそれほど見られない案件の場合は「同時廃止」に振り分けられ、債務者に換価が必要な資産があったり浪費や資産隠しなど免責不許可事由にあたる事由が見受けられる案件では「管財事件」として処理されることになるのが一般的です。

「管財事件」では裁判所から破産管財人が選任され、詳細な調査が必要になることが多いですが、「同時廃止」で処理される案件では自己破産が開始されるのと「同時」にすぐに手続きが「廃止」され終了してしまうので、そもそも郵便物を転送する暇がありません。

ですから、自己破産の申し立てを行ったとしても、その案件が「同時廃止」で処理される場合には郵便物の転送はなされないことになるのです。

ちなみに、自己破産の手続きは実務上全体の8割程度は「同時廃止」として処理されており、「管財事件」として処理されるのは全体の2割程度しかありませんので、自己破産の手続きを行った場合に郵便物が転送されるのはそれほど多くないのが実情です。

「管財事件」でも全ての案件で転送されるわけではない

このように、自己破産の手続きが「同時廃止」で処理される場合には郵便物が転送されることはありませんが、裁判所の判断でその事案が「管財事件」として処理されることに決まった場合には、その申立人宛ての郵便物が破産管財人に転送されるケースがあります。

もっとも、だからと言って「管財事件」として処理される全ての案件で郵便物が破産管財人に転送されてしまうわけではありません。

前述したように、自己破産の申し立てを行う債務者に何らかの資産があったり、浪費や資産隠しなど免責不許可事由に該当する事実が疑われるような場合には「管財事件」として処理されることが多いわけですが、その「管財事件」として処理される案件のなかでも、実際に郵便物が破産管財人に転送される取り扱いがなされるのは、ごく例外的な一部のケースに限られているのが実情です。

管財事件で郵便物が破産管財人に転送されやすいケース

なお、自己破産の手続きが管財事件として処理される場合に申立人宛ての郵便物が破産管財人に転送されるケースとしては次のような場合が代表的な例として挙げられます。

(1)自営業者が自己破産する場合

自営業者(個人事業主)が自己破産する場合には「管財事件」として処理されるとともに、申立人宛ての郵便物が破産管財人に転送されてしまう確率が高いと考えておいた方がよいでしょう。

なぜなら、自営業者(個人事業主)の自己破産では、取引業者が多く関係して債権債務関係が複雑になる場合が多く、自己破産の手続き中に取引業者などからの郵便物を詳細に確認して事実関係を正確に把握する必要性がくよく求められるからです。

自営業者(個人事業主)が自己破産する場合には、その業種にもよりますが取引先との間で発生している売掛金や買掛金などが多い場合があり、その中には未回収の売掛金であったり、請求の来ていない買掛金が存在する場合が比較的多くあります。

また、自営業者(個人事業主)が返済に窮して生活している場合、借金の返済に追われてどこの業者とどのような債権債務関係が発生しているのかということを債務者本人が把握していない場合も多く、自己破産の手続き中に思わぬところから請求が来たり振り込みがなされたりすることも度々見受けられるのが実情です。

このような事情から、本人に隠す意図がなくても隠れた負債や隠れた資産が郵便物によって顕在化されることもあるので、破産管財人が資産や負債の正確な把握の必要性を考えて郵便物の転送を命じるケースが比較的多いのです。

(2)会社代表者が自己破産する場合

会社の取締役など会社代表者が自己破産する場合も、(1)の自営業者(個人事業主)の場合と同じように破産管財人が郵便物の転送を命じることが比較的多いのが実情です。

理由は(1)の自営業者(個人事業主)の場合と同じで、会社代表者が自己破産する場合には、会社の資産と個人の資産が混同されている場合が多く、その債権債務関係が複雑化して本人が把握していない債務や資産が自己破産の手続き中に顕在化してくることが多くあるので、その事実関係の正確な把握のために破産管財人が郵便物の転送を命じるケースが多いのです。

ただし、会社代表者が自己破産する場合であっても、会社自体が個人設立でペーパーカンパニーのようなもので債権債務関係も少なく、めぼしい資産もないようなケース(例えば特定の業者にしか商品を卸さない一人親方の職人さんが税金対策のため個人事業主から法人形態にして営業しているだけのようなケース)では、郵便物の転送の必要性がないと判断されることもあるでしょう。

もっとも、裁判所によっては会社代表者が自己破産する場合には会社の法人としての破産手続きとセットでなければ代表者個人の破産申し立てを認めていないところもありますので、そのように法人と個人の破産を同時に申し立てることを実務上義務付けているような裁判所では、ほぼ100%の案件で郵便物の転送が命じられると考えておいた方がよいかもしれません。

(3)回収できていない資産がある場合

回収できていない資産があったり、回収していない資産があることが疑われるようなケースでも破産管財人が郵便物の転送を命じることが多いように感じます。

自己破産の申し立てを行う債務者に回収できていない資産があったり、回収できていない資産があることが疑われる場合には、破産管財人がその資産の現状を調査し回収が可能であることが判断されれば示談交渉や訴訟などを提起して本人に代わって回収しなければなりませんから、その際に債務者宛ての郵便物を確認するため転送が必要になるからです。

また、回収できていない資産があるような場合は、自己破産の手続き中にその相手方から債務者本人にその資産の提供について郵便で連絡が来るような場合もありますから、破産管財人が郵便物を転送して管財人の関知できないところでの資産の授受を防ぐ意味合いのために転送を命じることもあります。

(4)資産隠しが疑われる場合

自己破産の申立人に資産隠し(財産の隠匿)などの不正な行為が疑われる場合も破産管財人から郵便物の転送を命じられることが多いです。

どのような事情があれば資産隠しが疑われるのかはケースバイケースで異なるので一概には言えませんが、たとえば申立書に記載していなかった資産が裁判所における申立書のチェックの段階で判明してしまったり、破産管財人の調査の途中でそれまで説明を受けていなかった資産が明らかになったような場合が代表的な例として挙げられます。

また、自己破産の申立書には申立人や同居の家族の預金通帳の写し(コピー)の提出が必要となりますが、その通帳に個人名からの多額の入金や個人名への多額の送金が多数見受けられている場合でその説明が曖昧な場合なども、資産隠しを疑われて郵便物の転送が命じられる場合があります。

資産隠しが疑われる場合は詐欺破産罪との関連からも事実関係を慎重に調査する必要があるので、破産管財人が調査のために郵便物の転送を命じることが多いのです。

(5)その他、管財人に特に転送が必要と判断された場合

以上はあくまでも一例です。破産管財人が必要と認める場合には破産管財人の判断で郵便物の転送が命じられることは少なくありませんので注意が必要でしょう。

転送された郵便物は管財人の事務所に行けば受け取れる

なお、このように破産管財人の判断で郵便物の転送を命じられた場合であっても、その転送される郵便物が破産管財人に取り上げられてしまうわけではありません。

郵便物が破産管財人に転送される取り扱いにされる場合には、郵便物がある程度たまった時点(だいたい2週間に1回程度)で管財人の事務所から自己破産の申立人に対して「転送された郵便物を取りに来てください」という電話がなされるのが通常ですので、その電話があった際に取りに行く日取りを決定して事務所に行けば転送された郵便物を渡してくれます。

(破産管財人は裁判所に備え置かれている管財人名簿に記載された氏名されるのでその選任された弁護士の所属している事務所に取りに行くことになります)

もちろん、申立て本人ですぐに必要な郵便物がある場合はその管財人の事務所に連絡すればすぐに渡してもらえますので心配はいりません。

ちなみに、転送された郵便物のすべてを破産管財人が開封して中をチェックするわけではなく、特に資産隠しや負債の漏れなどにつながるような手紙でもない限り、開封しないでそのまま自己破産の申立人に渡されることが多く、開封する場合も管財人が事務所に来た時にその面前で開封することが多いのではないかと思います。

※なお、郵便物の転送がいつまで続くかという点はこちらのページで詳しく解説しています。→自己破産における郵便物の転送期間はいつからいつまで?

最後に

以上のように、自己破産の申し立てを行った場合に「同時廃止」ではなく「管財事件」として処理される場合には、裁判所から選任される破産管財人の判断によって郵便物の転送が命じられることがありますが、ケースによっては転送が命じられないことも多いので、自己破産を申し立てる前から「郵便物の転送が命じられたらどうしよう」と不安になる必要はありません。

それに、そもそもやましいことがないのであれば郵便物を転送されてもさして支障はないはずなので、そのような不安に頭を悩ます前に、早めに弁護士や司法書士に相談し適切な対処を取ってもらうことが何より大切といえるでしょう。