支払いを延滞してしまった借金を任意整理で処理した場合には、債権者との間で残りの債務について3年(36回払い)程度の分割支払いに関する和解が結ばれるのが一般的です。
この任意整理における分割弁済の交渉は、実際には任意整理を依頼した弁護士や司法書士が行いますが、依頼を受けた弁護士や司法書士は、依頼人である債務者本人の収入と家計の支出を計算し、毎月の余剰金から余裕をもって返済ができる金額を算出して債権者側に返済原資として提示するのが一般的です。
債務者本人の「収入」は、債権者側にしてみれば債務者の任意整理後の長期の弁済を担保するうえで重要な判断基準となりますから、任意整理の交渉では債務者の「収入」は債権者において厳しくチェックされることになるのです。
ところで、このように債務者の「収入」が任意整理における債権者との交渉で重要な判断基準となるのであれば、任意整理の手続きが終了した後に収入が変更されるような、たとえば「転職」したりすることは何か問題があるのでしょうか?
任意整理の手続き後に「転職」することになった場合、任意整理の交渉の際に債権者に申告した「収入」より毎月の収入が減少することもありますから、任意整理の協議で申告した「収入」に変更が生じることになり、債権者から任意整理の合意を破棄されたり、一括請求を求められたりしないかという点に不安が生じます。
任意整理の手続き後に転職するのは自由
結論からいうと、任意整理の手続き後に転職することは全く問題ありません。
任意整理後に転職する場合に、債権者に承諾をもらう必要は一切ありませんし、転職したことを債権者に届け出る必要も一切ありません。
確かに、任意整理の手続きで残債務額について分割弁済の協議を行う際は、その時点の収入を基礎にして返済原資を確定させますので、任意整理の協議段階における債務者の収入は債権者にとって任意整理の分割協議に応じる重要な要素となります。
しかし、その任意整理の協議で債務者側が提示する分割弁済案に合意した以上、債権者の側としてもその分割弁済案に縛られることになりますから、例えそのあとに債務者が転職し仮に収入が減少したとしても、債権者はその任意整理で合意した分割弁済がなされることを期待するほかないのです。
仮に、債務者が転職したことで収入が減少し返済が遅延するような場合には、債権者側において裁判を提起したり支払い督促を申立てたりして判決を取り、強制執行を行って差押えをすることもできるのですから、債務者が転職すること自体は債権者の権利を侵害することにはつながらないといえます。
このように、任意整理の後に債務者が転職することは、例えその転職によって収入が減少することになったとしても一切制限されるものではないのです。
ただし、転職後に収入が減少した場合は当然毎月の返済は厳しくなる
前述したように、任意整理をした後に転職することはまったく制限されませんので、債権者の意向に関係なく転職することは可能です。
もっとも、転職すること自体は自由としても、その転職によって収入が減少した場合には、当然その後の債権者への弁済は厳しくなります。
任意整理の協議で合意した弁済計画は「転職前」の給料を基礎に返済原資が計算されていますから、「転職後」の給料が少なくなれば当然、毎月の返済は厳しくなるでしょう。
もちろん、「転職して収入が減少したから…」といって債権者が毎月の返済額を減少してくれるわけではありませんので、その減少した分生活費を切り詰めるか、副業するなどして収入を増やすしかないでしょう。
仮に収入が減少したことで返済が行き詰まってしまった場合には、最悪の場合の自己破産の可能性も否定できません。
ですから、任意整理の後に転職する場合には、転職後の収入や生活費などを十分に精査し、債権者への弁済に影響が出ないかという点を十分に考えて転職の可否を決める必要があるといえます。
任意整理の手続中に転職することが決まっている場合には早めに弁護士や司法書士に相談すること
なお、任意整理の手続き中に転職することが決まっている場合には、任意整理を依頼した弁護士や司法書士には辞めにその旨を申告することも必要です。
任意整理の協議前に転職が決まっている場合には、債権者との交渉を2~3か月遅らせて転職後の収入がはっきりした段階で債権者との協議に入る方が安全なケースもありますから、早めに弁護士や司法書士に相談して適切な対処を取ってもらうことは非常に重要といえるでしょう。