任意整理の交渉がうまくいかない5つのケース

任意整理は、弁護士や司法書士に依頼して、債権者との間で利息のカットや債務の減額、分割弁済の交渉を代理人として行ってもらう手続きです。

自己破産や個人再生、特定調停などの裁判所に申し立てが必要となる手続きと異なり、債権者と個別に交渉して自由な弁済計画を取り結ぶことができることから、簡易迅速な借金の整理手段として債務整理の手続きの中でも最も多く利用されている手続きといえます。

ところで、任意整理の手続きは、このように債権者との自由な交渉ができる反面、手続きに法的な強制力がないことから、債権者側が交渉に応じるか応じないかは、もっぱら債権者側の自由意思に任されることになります。

もちろん、任意整理の手続きは多重債務者の生活再建に不可欠な借金整理の手段として社会的に認められていますから、貸金業者やクレジット会社なども特段の事情がない限り任意整理の交渉に応じるのが一般的な実務上の取り扱いです。

しかし、通常は任意整理の交渉に応じている債権者であっても、その対象となる債務者の態様によって任意整理の交渉に応じなかったり、任意整理の交渉自体には応じても長期の分割払いを拒否したりすることがまれにあるようです。

では、具体的に債務者についてどのような態様がある場合には、債権者が任意整理に応じることに消極的になることがあるのでしょうか?

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(1)毎月の安定した収入がない場合

債権者が任意整理の交渉に応じないケースとして最も多いのが、債務者に毎月の安定的な収入がない場合です。

任意整理の交渉において債権者側が原則として3年(36回払い)の長期の分割弁済に応じるのは、あくまでも債務者がその期間安定して毎月の弁済を継続できる見込みがあると判断した場合に限られます。

なぜなら、そのような長期間安定した弁済ができないのがあらかじめわかっていれば、任意整理の交渉になど応じずにさっさと訴訟でもして判決を取り、債務者の財産を差押えしていくらかでもお金に換えた方が損失は少なくて済むからです。

そのため、弁護士や司法書士が任意整理の交渉にあたる場合には「〇〇さんは毎月最低でも○万円の収入があり、毎月の家計支出は○万円にで毎月○万円の余剰金を確保できますから、余裕をもって毎月○万円の弁済が可能です」などと具体的な家計収支を説明して債権者の理解を得ることも時には必要になってきます。

しかし、毎月の安定した収入がない場合(例えば職を転々としていたり、就職(転職)して間もないなど)には、弁護士や司法書士としても「返済できます」とは言えないでしょうし、仮に「返済できます」といい加減な主張をしたとしても、債権者としては毎月の安定的な収入が確認できない以上、分割弁済には応じないのが通常です。

このように、毎月の安定的な収入がない場合には、任意整理の交渉において分割弁済の交渉に応じてもらうのは難しいケースが多いのが実情だと思われます。

※ここでいう「毎月の安定的な収入がない」とは働いていないとか働いていても職を失う蓋然性が高いというような意味ですので、アルバイトやパートであっても毎月の収入さえあれば債権者は任意整理の交渉に応じるのが一般的です。

▶ 任意整理はアルバイトやパートでもできるか?

(2)任意整理の直前に多額の借り入れを行っている場合

稀にですが、弁護士や司法書士に債務整理の相談に行く直前に、もしくは弁護士や司法書士に債務整理を依頼した直後に、貸金業者やクレジット会社から多額の借り入れを行う人がいます。

このような人たちは「どうせ債務整理を依頼して借金できなくなるのならそのまえに借りれるだけ借りておこう」という考えで、弁護士や司法書士から債権者に連絡が行く直前に借り入れをしてしまっているようですが、このような借り入れは詐欺的な借り入れと判断されます。

弁護士や司法書士に債務整理を相談しようと思っているということはその時点で「もうこれ以上返済はできない」と認識していることになりますから、それ以降にお金を借りることは「返すつもりがないのにお金を借りること」に違いありません。

一方、貸金業者やクレジット会社からお金を借りる行為は「あとで返しますからね」ということを約束したうえでお金を借りる行為になりますから、債務整理を相談しようと思った時点以降にお金を借りる行為は「返すつもりがない」のに「あとで返しますよ」と「嘘をついて」「お金を借りた」ことになります。

ですから、このような行為は一般にいう「詐欺」にあたり、本来であれば詐欺罪として警察に逮捕されてもしかるべき行為ということは少し考えれば誰にもわかることだと思います。

このような詐欺的な借り入れについては、債権者の方としてもケースによっては厳しく対応することがありますので、任意整理開始直前に借り入れがある債務者については任意整理の交渉に応じてもらいにくくなる場合があります。

このようなトラブルを回避するためには、弁護士や司法書士に相談する直前の借り入れを控えるしかありません。

返済に困窮した場合には、その時点ですぐに借り入れを停止して速やかに弁護士や司法書士に相談することが大切です。

(3)契約時または延滞時に虚偽の申告をしている場合

延滞時に虚偽の申告をして請求を逃れたりしているケースでも任意整理の交渉に債権者が応じてくれない場合があります。

毎月の返済に窮して延滞してしまうと債権者から請求書や督促状、支払い催促の電話などが来ることが多いですが、その際に虚偽の申告をして支払いを逃れたりしている場合であったり、そもそも契約段階で収入などに虚偽の申告をしてお金を借りているような場合には、債権者が任意整理の交渉に応じないケースもあります。

このように虚偽の申告をしている場合には、任意整理の交渉の際にも弁護士や司法書士に虚偽の申告をしていることが推測されるため、債権者としても安易に分割弁済には応じられないでしょう。

当たり前のことですが、債権者との契約では事実に反することは申告しないようにしなければならないのです。

(4)過去に何度も任意整理をしている場合

過去に何度も弁護士や司法書士に依頼して任意整理で分割弁済をしている場合には、債権者の側としても容易には任意整理の交渉に応じてくれないでしょう。

このような債務者は過去に相談した事務所において返済原資や毎月の家計収支などを正直に告知せず、安易な弁済計画を作成させたことが予想されるため、債権者としても簡単には任意整理の交渉に応じられません。

このような場合には、収入などの確認のため債権者から給与明細書のコピーや所得証明書の提出を求められるケースもありますので注意が必要でしょう。

(5)過去に複数の事務所から辞任されている場合

稀にですが、弁護士や司法書士の事務所に債務整理を依頼しておきながら、その手続きの途中で弁護士や司法書士からの連絡を拒否し、弁護士や司法書士から辞任されてしまっている人がいます。

一度辞任されているぐらいならまだ良いのですが、2回3回と弁護士や司法書士事務所に依頼してそのたびに連絡が付かなくなって辞任されているひとがごく稀に存在しています。

このような人は、新たに別の事務所の弁護士や司法書士が依頼を受けてくれたとしても、債権者の方では「弁護士や司法書士から連絡が付かなくなり辞任されている」という情報が残されていますから、債権者側から要注意人物と認定されて任意整理の交渉がうまくいかない場合があります。

ですから、弁護士や司法書士に債務整理を依頼した場合には、突然連絡が取れなくなってしまうようなことはせず、依頼した弁護士や司法書士からの連絡には必ず返答するように心がけなければなりません。

仮にその依頼した弁護士や司法書士が気に入らない場合には、正直にそのように申し出たうえで合意解約するか、解任の通知を送るかして速やかに他の弁護士や司法書士事務所に相談に行くようにする必要があるでしょう。