任意整理は、弁護士や司法書士が債務者本人から依頼を受けて、貸金業者などの債権者との間で利息のカットや分割返済の和解を取り付ける手続きをいいます。
自己破産や個人再生などの手続きと異なり、裁判所に申し立てをしないでよいことから迅速で、かつ、少ない費用で処理できることから、債務整理の手続きのなかでも最も利用されている手続といえます。
ところで、任意整理も借金の整理手続きである以上、一定の不利益(※例えば→『任意整理した場合のデメリットとは?』)が生じてしまうことは避けられませんが、その不利益の中に信用情報機関に登録されてしまう点があることから、将来的に住宅ローンが組めなくなってしまうことを恐れて任意整理に踏み切れないでいる人も少なからずいるようです。
では、任意整理をした場合、信用情報機関に事故情報として登録されてしまう(※いわゆる「ブラックリストに載るということ)のは避けられないとしても、住宅ローンが組めなくなるという不利益を回避する手段は本当に一切ないのでしょうか?
原則として住宅ローンは組めなくなる
『任意整理した場合のデメリットとは?』のページでも少し解説していますが、弁護士や司法書士に任意整理を依頼した場合には、債権者が加盟している信用情報機関に事故情報として登録されてしまいますので、その事故情報の登録機関中は新たな借り入れやローンの審査が通らないことになります。
任意整理の場合の登録期間は5年間とされていますので、任意整理の手続きが終了してから5年の間は信用情報機関に「任意整理をした」という情報が存続し続けることになることから、その期間は新たな借り入れやローンの審査が通らなくなってしまうのです。
▶ 登録内容と登録期間|日本信用情報機構(JICC)指定信用情報機関
▶ CICが保有する信用情報|信用情報について|指定信用情報機関のCIC
加盟する信用情報機関が異なる金融機関であればローンは通るか?
上記のように、任意整理をすると5年の期間、その任意整理の対象となった金融機関が加盟する信用情報機関に事故情報の登録がなされてしまいますから、任意整理をした後、5年の間は新たな借り入れやローンの審査が通らなくなってしまいます。
しかし、ここで疑問が生じるのが、任意整理の対象となった金融機関が加盟する信用機関とは別の信用機関に加盟している金融機関であれば新たな借り入れやローンの審査は通るのではないか、という点です。
前述したように、任意整理をしたことが事故情報として登録されるのは、その任意整理を行った金融機関が加盟する信用情報機関に過ぎません。
そのため、たとえ任意整理をした場合であっても、その任意整理の対象となった金融機関が加盟する信用情報機関以外の信用情報機関に加盟する金融機関に融資を申し込んだ場合には、過去に任意整理をしたという事故情報がその融資を申し込んだ金融機関に知られることなないのではないか、という疑問が生じることになるのです。
例えば、貸金業者からの借金を任意整理で処理した場合には、その貸金業者が加盟する信用情報機関に事故情報として登録されることになりますが、貸金業者が加盟する信用情報機関は「JICC」か「CIC」のどちらかであって、貸金業者は銀行でない以上「全国銀行協会」には加盟することができませんから、「全国銀行協会」の信用情報には「貸金業者の借金を任意整理した」という事故情報は登録されないことになります。
そうであれば、たとえ貸金業者の借金について任意整理をしたとしても、「全国銀行協会」の信用情報にしかアクセスできない「銀行」で住宅ローンの申込みをした場合には「任意整理した」という事故情報は知られないことになりますから、銀行の住宅ローンは通ってしまうのではないか、と考えられるのです。
しかし、実務的にはこれも無理なようです。
なぜなら、確かに任意整理の事故情報の登録は、その任意整理の対象となった金融機関が加盟する信用情報機関にだけなされることになっていますが、現在では各信用情報機関は相互に登録情報の共有を行っているからです。
▶ 他信用情報機関との情報交流|日本信用情報機構(JICC)指定信用情報機関
仮に、任意整理の対象となった金融機関が加盟する信用情報機関以外の信用情報機関に加盟する金融機関にローンの申し込みをした場合であっても、この情報交流によって他の信用情報機関の事故情報も照会されることになりますから、そのローンの申し込みは審査が通らない可能性が高いといえます。
ですから、「貸金業者」の借金についてのみ任意整理をした場合に、加盟する信用情報機関の異なる「銀行」に住宅ローンの申込みをした場合であっても、任意整理の事故情報が登録される5年の間は、その住宅ローンの申請は却下されてしまうものと思われます。
どうしても住宅ローンを組みたい場合は他の家族の名義でローンを組むしかない
以上のように、現在では信用情報機関相互で事故情報の交流を行っているようですから、いったん「貸金業者」や「クレジット会社」からの借り入れをについて任意整理をしてしまった場合には、その任意整理の事故情報が登録されている5年の期間は、加盟する信用情報機関の異なる「銀行」で住宅ローンを組もうと思っても難しいであろうと考えられます。
では、そのような場合であっても「どうしても住宅ローンを組みたい」と考えている場合にはどうすれば良いかというと、そのような場合には任意整理をしていない他の家族の名義でローンを組むほかありません。
たとえば、「夫」が任意整理をしている場合には「妻」や「親」などの名義で住宅ローンを組む他ないでしょう。
こうすれば住宅ローンの債務者は任意整理をしている「夫」ではなくなりますので、「夫」の信用情報が審査されるわけではありませんから任意整理の事故情報が問題にされることはありません。
もちろん、このような場合には住宅ローンを申し込む「妻」や「親」などに住宅ローンを返済できる収入や資力がなければなりませんが、そのような条件がクリアできるのであれば検討する余地もあるでしょう。
なお、これもできないような場合には、原則に立ち返って、任意整理で和解した弁済計画通りに弁済し、その債務を完済してから5年が経過し信用情報機関の事故情報が抹消されるのを待つ他ないのではないかと思います。