自己破産したら何か月で持ち家からの退去を迫られる?

自己破産は借金の返済義務を法的に「免除(免責)」してもらうだけでなく、債務者の負債とその保有する資産を「精算」する手続きでもありますから、自己破産の申し立てを行う債務者に一定の資産がある場合には、自由財産として保有が認められるものを除いてすべて裁判所に取り上げられて売却され、その換価代金が債権者への配当に充てられるのが原則的な取り扱いとなります。

この点、土地や建物などの不動産も例外ではありません。

自己破産の申し立てを行う債務者が自分名義の土地や建物を所有している場合には、住宅ローンが残っているか完済しているかにかかわらず、その自分名義の不動産(持ち家等)は裁判所に取り上げられてしまうことになるのは避けられないでしょう。

ところで、そのように自己破産の手続きで裁判所に持ち家等の不動産が取り上げられてしまう場合には、いったいいつまでその持ち家に住むことができるのか、という点が問題となってきます。

持ち家が取り上げられれば当然、その家には住めなくなるわけですから、新しく入居する賃貸マンションやアパートなどを探す手間暇も必要ですので、持ち家が取り上げられるにしても、具体的にいつまでなら住み続けることができるのか、という点は非常に気になるところです。

では、自己破産の手続きにおいて、現在居住している持ち家が取り上げられてしまう場合、具体的にいつまでに退去しなければならないのでしょうか?

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目安としては自己破産を申し立ててから半年から1年

自己破産の手続きで持ち家が取り上げられるまでの期間は法律で具体的に定められているわけではありませんので確定的に「いつまで」ということは言えませんが、おおむね自己破産の申立書を裁判所に提出してから半年から1年程度で退去を迫られると考えておいた方がよいのではないかと思われます。

なぜなら、自己破産の手続き上で持ち家等の不動産が取り上げられてしまう場合には、裁判所から選任された破産管財人によって競売にかけられるか、住宅ローン会社によって任意売却されるかのどちらかの方法によって処理されますが、いずれの処理方法がとられた場合であっても、自己破産の手続きが開始されて半年から1年程度の期間が必要になってくるからです。

裁判所に取り上げられる不動産を所有している場合、自己破産の申し立てをするとすぐに取り上げられてしまうと思っている人もいるようですが、実際に持ち家等の不動産を処理する場合には、まず最初に裁判所から選任された破産管財人が物件の調査や不動産仲介業者の選定等を行わなければなりませんし、任意売却の場合でもその売却価格や手続きが適正かなどを調査する必要があります。

また、仮にその持ち家の買受人が現れたとしても、その買受人の決済(買受人が住宅ローンを組む場合はその審査など)であったり名義変更の手続きなどに相当程度の時間を要しますから、それらすべての手続きが完了するまでは少なくとも半年から1年程度は必要ですので、すぐに退去を迫られることはないのです。

弁護士や司法書士が申立の準備に必要とする期間も含めれば最低でも1年程度は住み続けることができる

このように、自己破産の手続きで持ち家が取り上げられるとは言っても、実際には競売や任意売却に要する期間が必要ですので、どんなに競売や任意売却の手続きがスムーズに進行したとしても、少なくとも半年程度の期間は立ち退きを迫られることはないといえます。

もっとも、これはあくまでも裁判所に自己破産の申立書を提出し破産手続きが開始された後に必要となる期間にすぎませんので、実際には立ち退きまでの猶予期間は最低でも1年間は確保できると思います。

なぜかというと、実際に自己破産する場合には、申立書を裁判所に提出する日より相当期間前に弁護士や司法書士に相談しているはずで、弁護士や司法書士が債権調査を行って申立書を作成する期間を考慮すれば、先ほど説明した「申立書を裁判所に提出してから半年から1年程度」に加えて「さらに3か月から半年程度」の期間がプラスされると考えられるからです。

弁護士や司法書士が自己破産の手続きを受任した場合、依頼人が負担している債務の調査や申立書に添付する書類の収集、あるいは申立書の記載事項に関する事実関係の聴取など、最低でも3か月から半年程度必要です。

その期間は当然、弁護士や司法書士は申立書を裁判所に提出することができませんので、自己破産の手続きが開始する前の3か月から半年程度の期間についても猶予期間が得られることになるでしょう。

このように考えると、弁護士や司法書士に相談した日から申立書が作成されるまでの「3か月から半年程度」の期間が経過し、さらに申立書を裁判所に提出して競売や任意売却が開始されるまでの「半年から1年程度」は自宅の持ち家から追い出されることはないということになりますから、実質的には自己破産を決意してから後も、通算して1年程度は持ち家に住み続けることができると考えて差し支えないと思います。

弁護士や司法書士に依頼した日から転居先を探し始める必要がある

以上で説明したように、自己破産の手続きを弁護士や司法書士に依頼する場合には、弁護士や司法書士に依頼した日から最低でも1年程度は現在住んでいる自宅の持ち家から追い出されることはないと考えられますので、その期間に新しい転居先を探すようにすれば問題ないだろうと思われます。

なお、住宅ローンが残っている持ち家であっても、弁護士や司法書士に自己破産の手続きを依頼した日以降は住宅ローンの返済もストップして構わないので、それまで住宅ローンに払っていた分の金額を貯金するようにしておけば、転居する際のマンションやアパートの敷金礼金や引っ越し費用に困ることもないでしょう。

(任意売却の場合には、買取希望者の方で引っ越し費用を負担してくれる場合もありますので、破産管財人や任意売却にかかわる不動産仲介業者と十分な協議を重ねることも必要となります)

ただし、自己破産の申立書を裁判所に提出し、自己破産の開始決定が裁判所から出されるまでに預金残高が20万円を超えてしまうと債権者への配当原資のために取り上げられてしまう可能性が高くなるので、その点は若干の調整が必要になります(※詳しくは依頼する弁護士や司法書士に確認してください)。

親族などに買い取ってもらえる場合はそのまま住み続けることができる場合もある

なお、自宅の持ち家が任意売却で処分される場合において、親族などに買い取ってもらう場合には、任意売却の手続きが終わった後に、その買い取った親族と賃貸借契約を結ぶことによって、そのまま住み続けることも可能です。

ただし、自宅の持ち家を任意売却で親族等の近親者に買い取ってもらう場合には、資産隠しや廉価処分(著しく低い値段で売却すること)の問題が生じますので、破産管財人に事情を説明して慎重に手続きを進めていくことが必要となります。

破産管財人に十分な説明をせず、不動産仲介業者などの助言に従って安易に親族や知人等に売却してしまうと、後で破産管財人から免責不許可事由や詐欺破産罪の疑いをかけられることもあるので十分な注意が必要です。

最後に

以上のように、自己破産の申し立てを行う際に競売や任意売却にかけられるような持ち家があったとしても、弁護士や司法書士に手続きを依頼してから1年程度は退去を求められることはないのが一般的ですので、自宅を取り上げられた場合の住居のことはそれほど神経質にならなくてもよいのではないかと思います。

大切なのは、返済が不能になった時点以降の負債の増大を抑止するとともに、不必要な資産の散逸を防ぐことによって債権者への配当原資を最大限確保し、後の自己破産の手続きをスムーズに進めることができる状況を整えることですから、早めに弁護士や司法書士に相談し、適切な対処をとってもらうことが何より重要といえるでしょう。