自己破産で免責された借金を請求されてないのに返済できるか?

自己破産の申し立てを行い、裁判所から免責が出されると、それまで負担していた負債(借金)の返済義務が免除されることになります。

これは、債権者側から見れば、自己破産の免責が確定した後は債務者に対して法的な手段を用いて借金の返済を迫ることができなくなることを意味しますので、債権者は免責が確定した後は、債務者に対して「借金を返せ!」と請求することができなくなります。

ところで、この場合に疑問が生じるのが、自己破産の免責を受けた後に、自己破産の申立人であった債務者(※免責が出された時点で債務の返済義務は消滅してしまうため正確にいうともはや債務者とは言えませんが…)が、自らの意思で債権者に対して免責の対象となった債務(借金)を返済することができるのかという点です。

たとえば、友人から100万円を借りた状態で自己破産の免責を受けた場合には、その友人から借りた100万円の借金は返済義務が免除されることになりますが、その後たまたま遊びに行った競馬で万馬券を当てて100万円の現金を手にしたような場合、友人との関係を修復するために免責によって返済義務が免除された100万円を自らの意思であえて「返済したい」と考える場合もあるかと思います。

そのような場合に、友人からは一切「免責で返済義務が免除された100万円を返せ!」と言ってきていないにもかかわらず、自分の意思で「あの時の自己破産で免責を受けた100万円をやっぱり返すよ」と友人に告知して「自己破産の免責で返済義務が免除された100万円」を返済することができるのか、という点に疑問が生じるのです。

では、実際にそのようなシチュエーションに遭遇した場合、自己破産で免責を受けた借金を自らの意思で「返済」することができるのでしょうか?

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自己破産で免責を受けた負債を、免責後に返済することはできる

結論からいうと、自己破産の免責を受けた後に、自分の意思で債権者に対して免責の対象となった借金を返済することは可能です。

なぜなら、自己破産の手続きで裁判所から免責が出されれば、その手続きで破産債権として届け出た債権についてはすべて返済が免除されることになりますが、それは単に「返済しなければならないという責任が免除される」というものであって「借金そのものが消滅」してしまうわけではないからです(破産法253条1項)。

【破産法253条1項】

免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。(但書省略)。

自己破産すると借金が「チャラになる」とよく言われますが、法律的に考えるとそれは正しくありません。

なぜなら、自己破産の免責が認められても、借金が「チャラ」つまり「借金が消えてなくなる」わけではないからです。

この破産法253条1項に規定されているように、免責によって免除されるのは、破産債権として申し出た借金を「返済しなければならない」という「責任」であって、免責を受けたとしても借金自体が消滅するわけではなく、債権者が法律上の手続きを用いて…つまり、債権者が裁判や差し押さえを行って債務者に「お金を返せ!」と請求することができなくなるというだけというだけにすぎません。

このような、「債権者から法的な手続きを使って請求されることのなくなった債務」のことを「自然債務」と言いますが、「自然債務」は単に「債権者側から法的な手段を用いて返せ!と請求できない」だけであって、「債務」としては観念上存続しています。

ですから、自己破産の免責を受けた後に、免責を受けた債務者が自らの意思でその「自然債務」を返済することは法律上何も問題ありませんから、その「債権者から返せと請求されなくなった」「自然債務」となっている「借金」を返済することは可能なのです。

※先ほどの例でいえば、友人から借りた100万円は自己破産の免責が出されることによって「自然債務」となり、友人から「100万円を返せ!」と請求することはなくなりますが、万馬券で100万円の配当を受けた後にその100万円を自己破産で免責によって「自然債務」となった借金の返済として友人に弁済し、その友人がその借金の弁済として受領すれば、その「自然債務」となっていた友人からの借金100万円は消滅することになります。

ただし、債権者の側から「自然債務として残ってるから返せ!」と請求することはできない

このように、自己破産で免責を受けた場合であっても、その免責の対象となった債務(借金)が消滅してしまうわけではなく、単に「返済しなければならないという責任」が免除されるだけであって「自然債務」としては存続することになりますから、自己破産の免責後に債務者自らの意思で債権者に対して免責の対象となった債務(自然債務)を弁済することは何ら差し支えありません。

もっとも、だからといってその逆に債権者の方から「自然債務として残ってるんだから免責を受けた借金であっても返済しろ!」と請求することはもちろん認められません。

先ほども述べたように、自己破産の免責が認められれば、債権者はその免責の対象となる債権について法律的な手段(訴訟や差し押さえなど)を用いて請求することができなくなりますし、そもそもそのような請求を許容してしまうと自己破産の手続きが存在する意味がなくなってしまうでしょう。

また、もし仮に債権者が免責を受けた債務者に対して「自然債務として残ってるんだから返済しろ!」と請求してしまった場合は、「破産者等に対する面会強請等の罪」として検挙される可能性もありますので、自分が債権者の立場にある場合には、まかり間違っても免責を受けた債務者に対して返済を迫ってしまわないように注意しなければなりません。

【破産法275条】

破産者(中略)又はその親族その他の者に破産債権(免責手続の終了後にあっては、免責されたものに限る。以下この条において同じ。)を弁済させ、又は破産債権につき破産者の親族その他の者に保証をさせる目的で、破産者又はその親族その他の者に対し、面会を強請し、又は強談威迫の行為をした者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

※なお、この点についての詳細はこちらのページを参照してください→お金を貸した元カレが自己破産した後に会いに行くと逮捕される?

最後に

以上のように、自己破産で免責を受けた借金であっても、そののちにお金の余裕ができた場合には、自分の意思で返済することは法的にも有効です。

ですから、もし仮に友人や親族などからお金を借りた状態で自己破産の手続きを行ったものの、その後の人生で運よくお金に余裕ができたことによって、迷惑をかけた友人や親族に何らかの償いをしたいと思うような場合には、その友人や親族に連絡を入れたうえで、できる範囲で「自然債務」となったかつての借金を返済してみるのもよいのではないかと思います。